コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 最強次元師!! ( No.894 )
日時: 2013/02/28 22:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第228次元 絵の具の秘密

 蒼い彼の足元から、血が流れ出ている。
 然し彼はそんな事気にも留めてはいなかった。
 まるで瞳に火がついたように、彼の全身に力が入る。

 「第七次元発動————————複閃ッ!!!」

 エンが弓を引き、矢が放たれる。
 然しさっきとは比べものにならない程の速度で、白髪の双子を捉えた。

 (は、速い————————ッ!!!!)
 
 一直線に、呼吸する間もなく矢が突き刺さる。
 セシルとテシルは反応に遅れ見事地面に転がり落ちた。

 「ぐ……は、はや……ッ」
 「……ッ!!」
 
 エンは、ゆっくりと歩く。
 本当に足を射抜いた者の動きなのだろうか。
 先程より確実に動きに力が、速さが、正確さが出てきた。

 「どうだ————地面の味は?」

 セシルが、唇を噛む。
 倒れた2人が、同じタイミングで立ち上がる。
 傷一つつかなかった2人の頬に、切り傷が入った。

 「馬鹿にする余裕があったのですね……意外です」
 「千差万別——————まだその差が広い事を忘れたか」

 2人はまた、景色から消えた。 
 目の前に映るのは、積み重なったように見える人の波だけ。
 何処を見渡しても、2人の姿は見えない。
 エンは一度上を見上げたが、そこにいるわけでもなさそうだ。
 そして彼は、表情一つ変えずに、すっと弓を構える。

 「第六次元発動——————」

 エンは、一瞬の迷いもせず。

 「——————真閃ッ!!!!」

 ある一点目掛けて、その矢を放った。
 細く鋭いその矢の先は、一見会場には誰もいない場所へ向かう。
 観客に向けられている訳でもない—————そこで。

 何もない空中から、不自然に赤い液が飛び散った。

 そしてどさり、という何かものが落ちたような音が鳴り、液体も落ちる。 
 その血というものに滴った瞬間————彼女らの姿がうっすらと血に浮かぶ。

 「——————矢張りそこにいたか、白き双子よ」

 そう、白髪の双子が、またしても地面にひれ伏しているのがよく分かった。
 2人の周りから綺麗な水のようなものが剥がれ落ちる。
 そして2人の容姿がそこから現れ、セシルテシル共に苦しい表情で血を吐いていた。
 彼女らは膝をついたままそこから動かない。いや、動けない。

 「……な、んで……っ!? どうやっ、て……あ、あれを……ッ!!!」

 セシルは、苦しそうに脇腹を抑える。
 彼女の口から顎にかけて、赤い液が滴っていた。

 「……初めは気付かなかった。遥か上空か、地面に潜り込んでいるものだと思っていた」
 「……じ、じゃぁ……何で……!!」
 「可笑しいと、思っていたんだ」
 「……っ!」
 「どこから来るか分からない技の数々。一種の能力かとも思ったが違った。
  そして……何故ずっとその状態ではいられないのか、そうも思った」

 エンは淡々と話し続ける。彼女達はまだ這い上がれない。
 エンはゆっくりと、そんな彼女等を見て口を開く。

 「それはテシル——————貴様の次元技そのものだったからだ」

 テシルは表情を変えなかったが、セシルの眉はぴくりと動いた。
 いくら元力があろうとも、次元技の効力はずっと続く訳ではない。
 先程の絵に描いた剣などのように、役目を終えればすぐに溶け消えていく。
 ずっとその状態である事が、元々不可能なのだ。

 「“透明色”——————それを体に塗れば、さも消えたように見せられる」

 どんな色でも産み出せるテシルの次元技にかかれば、透明な色をつくる事も可能である。
 テシルの次元技は白であろうと透明であろうと、決して透ける事はない。
 つまり透明も一種の色。上塗りすればそれは透明な“色”として使われる。

 「さっき……景色が一瞬ブレていたのに気がついてな。それで答えが分かった」
 「……やっぱり……何考えてるんだか読めない人です、ね……」

 景色をじっと見つめていたエンの前で、一瞬だけその景色がブレた事があった。
 森の中で育ったエンの視力は良すぎると言っても良い。
 そんな彼がじっと見ていたものは、一瞬の弱みを見せた。
 その時点から、彼には確信があったのだろう。

 「さぁ始めようか——————立て、双子よ」
 
 エンの声が、鋭い眼光が、白き2人に突き刺さる。
 足から漏れ出す血の勢いは弱まったが、簡単に動ける程弱い一閃ではなかった筈だ。 
 然し彼はそれでも尚、その足で大地の上に立つ。 
 サボコロは後ろで倒れたままぴくりとも動かない。

 「まさかあれを破った程度で——————勝った気でいるのですか?」

 ベレー帽を被ったセシルが、冷たく小さな声で言い放つ。
 ゆらりと、2人は立ち上がった。

 「私は貴方みたいな——————」

 セシルの大きな筆の震えが、止まる。
 
 「——————図太い奴が大嫌いなんですよ!!!!」

 ゴォォッ!!、と。
 一瞬、大きな音が鳴った。
 唇を強く噛むセシルは、勢いよく筆を天へ翳す。

 「第八次元発動————————、絵具空間」

 セシルではなくテシルの凛とした声が響いた時。
 会場を包み込むように、地面から絵の具の滝を想像させるものが天へと伸びた。
 それは虹色の滝で、形を崩す事なく下へ下へと色が垂れていく。
 床屋の前にある渦を巻く置物を連想させるだろう。
 あの循環を真似るように、下へいった色は突如上からまた垂れる。
 そんな虹色の壁に、3人は囲まれた。

 「この次元技を発動させるまでになるとは……誤算ですね」
 「抜山蓋世————、その姿勢だけは認めよう」

 テシルはセシルと並んでいたが、そっと足を引いた。
 セシルはこつ、こつ……と、足音を響かせエンに近づく。

 そしてセシルは、急にぴたりと動きを止めた。 

 「第七次元発動——————」


 彼女の後ろから、声が響く。


 「——————、情色!!!!」


 エンの心臓が、どくりと一度跳ねた。
 彼は咄嗟に胸を抑えたが、苦しかったのはたった一瞬。
 何が起きたのか分からぬまま。
 セシルの口元が、歪む。

 「第七次元発動——————描空!!!」

 ぐるんと勢いに任せて筆を振るう彼女。
 描かれたのは、ガラスの破片のような大小バラバラな固体だった。
 エンは殺気を感じ、咄嗟に弓を構える。
 然しやられる前にやるにしても距離が近い。
 相手は体もしなやかで、この距離では弓という武器は至極不利だ。
 手を出そうにも、出せないという状況にあった。


 「第六次元発動——————加色!!!」

 
 そう声が響いた時だった。
 控え席に座っていたレトヴェールが、はっとした。
 彼の頬を、一つの汗が伝う。
 
 (…………)

 キールアが横でエンの名前を叫んでいる最中、
 レトだけが、その声も聞こえない程の、静かな空間の中にいた。


 (……あ、れ……なんで、あいつ————————)
 

 彼は、気付いた。


 (————————幾つもの次元技を、同時に発動してんだ!!?)


 そうテシルの——————————前代未聞の行動に。