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Re: 最強次元師!! ( No.895 )
日時: 2013/03/02 10:22
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第229次元 色を重ねて

 次元技の効果には、2つある。
 1つ目は、瞬間効果。
 一般的な次元技はこれに準じ、一瞬の内に効果を終える。
 例えば雷撃や八斬切りなどがこれに当たる。
 相手に攻撃を与えるのが瞬間効果である。

 そして2つ目が、継続効果。 
 この効果を持つ次元技は800以上ある中でほんの一握りである。
 それは相手事態に効果を与える。そう、自分の強化ではなく、相手への罠。
 武器型次元技はあまりこれを持たず、魔法型には時々見かける程度の代物。
 つまりそれはとても希少価値で、持つ者はそういないとか。
 
 自分への効果と、相手への効果。
 それが一瞬と継続の違いである。
 
 そして今レトヴェールの目の前に映っているのがそれだった。
 然し継続効果の次元技と、瞬間効果の次元技。
 両方の種類を、そして重複して使うという事をテシルはやっていた。
 彼は尚、清清しい表情で立っているというのに。

 (化けもんかよ……あの男……)

 いや、多分彼だけではない。
 この後待ち受けている残りの2人と、片割れのセシルもまた、重複次元の発動が可能な筈。
 次元師もここまで来ると、化け物に見えてくるのだろう。
 レトヴェールは、少しだけ笑う。
 
 然しレトがそうこう考えている間に、エンの体には次元技たるものが突き刺さっていた。

 「ぐ……ッ!!!」

 弓を握っている腕に、力が入った。
 セシルがぶんと投げた石のようなものが、エンの体を引き裂く。
 その石は地面に突き刺さり、またどろりと溶けていく。
 そう、エンの体に色を残して。

 「……ッ!!?」

 エンの腕、足、顔に。
 青い斑点が、こびりつく。

 「人間が持つ不の感情……」
 「……!?」
 「知って、いますか?」

 セシルは、器用に筆をくるくると回しながら、そう問う。
 エンは首を動かす事もなく、また弓を構えなおした。
 が、その途端。

 「——————ッい!!!?」

 握っていた弓が、手から滑り落ちた。

 「“苦”、“疲”、“哀”——————そして、“無”」

 「……ぁ、う……、ぐ……ぅ……ッ!!」
 
 「これは絵を描く上で大事なのですが……貴方の腕、今何色ですか?」

 エンは、霞んだ視界の中で、はっきりと認識する。
 青色。そう、それは空を連想させる綺麗な青だった。

 「“青色”は寒色。冷たい、寒い、悲しいなどといった“不”の色です」
 「……ッ!!」
 「つまり貴方は今——————そういった不の感情の中にいるのです」
 「……か、ら……ど、し……た……ァっ」
 「分かりませんか? さっきの次元技は、色によって感情を与える次元技」
 「……」
 「青の色は、さっきあげた4つの中の一つ—————“苦”を意味するのです」

 “情色”。
 先程テシルが繰り出した、感情の次元技。
 これは色によって相手に精神的なダメージを負わせる技である。
 人間の感情の数だけ、色がある。
 そのうち、あの綺麗で美しい青は“苦しみ”の色。
 それも“疲”、“疲れる”は青緑、
 “哀”、“哀しみ”は水色、そして“無”の“無気力”は紫色で表す事ができる。
 色によって沢山の感情を、心の痛みを、相手に負わせる。
 それが“継続効果”の次元技、“情色”である。
 
 (苦、しい……どこも痛くはないのに……く、苦……ッ!!!!)
 
 膝が、がくんと音を鳴らして地面に這い着く。
 エンは胸を抑えたまま、呼吸を乱したまま。
 唯苦しみに、耐えているまま。

 「ふふ……さぁーて、次元師の根本的な強さを、崩すとしましょうか?」
 
 セシルの腕が、器用に動く。
 描かれた黒い輪郭に、青、青緑、水色、紫といった、寒色の色が加色されていく。
 その色は酷く美しく、エンの周りを取り囲む。
 セシルは、そっと目を細めた。

 「さぁ——————死になさいッ!!!!」

 彼女が、筆を大きく振り下ろす。
 それに応えるように、浮かんだ色つきの欠片達はエンの体目掛けて放たれた。

 「————————!!!?」

 沢山の色が、感情が、エンの体と心に突き刺さる。
 然し彼女は一発では終わらせない。
 第二軍、第三軍と、無数の石を彼の体に向けて放っていく。
 エンは声を出す事もなく、のた打ち回った。

 「ふふふ……ふふ……今すぐお友達の許へ送ってあげますからね?」

 エンの体中には、無数の色が浮かび上がる。
 それは青くどす黒く、醜く非道な色である。
 美しくもない色の調和に塗れた彼は、立ち上がらない。

 ————それでも。


 「————————ッ!!!!」

 
 彼の口から声は漏れない。
 あれだけ真っ赤な血が流れ出ているのに。

 彼の体はもう動かない。
 それでもあの真っ青な腕だけは、動いた。


 彼の瞳から————————闘志の色は消えない。
 


 「————————真閃ッ!!!!!!」


 
 漸く、声が響いた瞬間だった。


 
 「「————————ッ!!!?」」


 絵の具に塗れても。
 どれだけ苦しく疲れ果て哀しく気力が生まれなくても。
 
 彼の魂に染み付いた——————紅き少年の声は消えない。
 
 鮮血が散る。その白い髪に、赤い色が付着する。
 彼の指の力は、抜けない。
 
 不の感情を表さない。
 そんな彼の蒼い眼光が——————瞬く。

 「なん、で……—————っ!!!?」

 セシルの脇腹が、血に、痛みに塗れる。 
 口から零れた言葉が、液体が、全て嘘のように吐き出される。
 それでも彼女は尚、筆を振り回す。

 「み、……認めない————————ッ!!!!」

 黒い輪郭、青い色。
 彼女が筆に力を入れる、重心が、ほんの少し前に傾く。
 色のついた欠片が、動き出す。


 その時。



 「——————え」


 
 自分の頭上遥か高くまで伸びていた絵の具の滝が、
 一瞬にして、真っ赤な色に照らし出される。
 エンの頭上にあった欠片が、溶けたように、優しく降り注いだ。
 轟と鳴った。妙な熱さが、自分の横を過ぎる。

 「……ったくよぉ」


 紅い少年は、ゆっくりと歩く。


 「——————————“2人で勝つ”、そうだろエン!!!!」


 元気の良い、炎を連想させる紅い髪が揺れる。
 今この瞬間、届くはずのない声が轟く。
 エンは、炎の中で笑う彼を見て、自分も同じように、優しく笑った。

 「やれるよな、エン」
 「……俺を、誰だと思っているんだ」
 
 エンの体にこびり付いた色が、消えていく。
 紅い彼、サボコロは、にっと笑った。

 (そ、んな……そんな……ありえない……ッ!!!!)

 セシルの頬を伝う汗が、ぴちゃりと落ちる。
 その時、2人の少年が、ゆっくりとこちらに振り向く。
 その迷いのない眼差しが、決意が、セシルに突き刺さる。
  
 「心配かけて悪かったな、エン」
 「……端から心配などしていない。タフだけが取り得だからな、貴様は」
 「んだとゴラァ!!! もういっぺん言えやァ!!!」 
 「何だ? 死者も同然だろう?」
 「……けっ! あーあ、助けてやるんじゃなかったぜ」

 またしても2人の間に口喧嘩が生まれる。
 でもそこに、憎しみの色は存在しない。
 サボコロは、自分の頬を掻いてぶつぶつ何かを呟いていて。
 エンはそんな彼を見て、もう一度笑う。 
  

 「ふっ……今度こそ、2人でだな」

 「……ああ——————今までの借り全部返すぜ!!!!」


 ドクン——————と。
 
 2人の“心”が、“色”が——————————確かに重なり合う音がした。