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- Re: 最強次元師!! ( No.896 )
- 日時: 2014/08/31 22:57
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Va4IJVQE)
第230次元 その矢に全ての力を
地面には、どろどろに溶けた絵の具水溜りのようになっていた。
沢山の色が、元あった本来の色を塗り潰す。
そんな中で、紅く蒼い少年達が、力強く立っていた。
片方は殆ど瀕死状態に近いにも関わらず、笑ってそこにいた。
いつも彼がしていたバンダナも、遠くで転がっている。
「……う、して……」
「……?」
「貴方はもう……立ち上がる、事も……できないはず……」
「……あぁ?」
「それでも尚立ち上がるのは……何故ですか?」
セシルの表情から、余裕の色が消えた。
笑いもしない彼女は、震える腕を抑えた。
「約束だからに、決まってんだろ?」
「……っ?」
「“2人”で勝つ、ってなッ!!」
セシルの後ろでは、テシルが腕を抑えて膝をついていた。
セシルに合わせて次元技を発動し続けていた彼。
その体力の消費量は、半端ではない筈。
彼は揺れる体を必死に起こして、立ってみせた。
セシルは、彼女は、ふらりと体を動かす。
「ここまで追い込まれたのは……初めてです」
「……そーかい」
「だから————————だからこそ!!!」
セシルの瞳に、もう一度色が戻る。
その色は、感情でいうと怒りの色に近かった。
「絶対に——————勝ってみせますッ!!!!」
冷静な彼女の口から怒号が解き放たれた瞬間。
彼女は筆を回し、輪郭を描き、テシルが色を加えた瞬間に2人に投げつけた。
初めの方にやっていた、描かれたナイフの雨。
然し先程と全然違う速さと威力を誇るそれは——————サボコロ達の許へ向かった。
「炎撃——————ッ!!!」
サボコロも負けじと、次元技を繰り出す。
出現した炎はナイフの雨を包み込むように燃え上がる。
壁をつくるようにして放たれた炎の中で、サボコロは急に口を開いた。
「……なぁエン」
「どうしたサボコロ、まだ次が来るかもしれないぞッ」
「さっきから俺、何か可笑しいんだけど」
はぁ? とエンが言い終わる前に、今度は天空から細長い槍が降り注ぐ。
腕で顔を防いだまま、サボコロは何度も炎撃を解き放つ。
エンは、避けながらも考えた。
可笑しいのは、サボコロだけではない。
エンもまた、可笑しな感じにぐるぐるしていたところだった。
心が妙に疼く。次元技が、何故か近く感じる。
すぐ傍に、サボコロの次元の存在を感じる。
それはいつもとは違うような気がした。
「炎弾——————!!!!」
サボコロが、浮いたままの双子に向かって炎の塊を向ける。
それに気付いた2人は咄嗟に避けたが、バランスを崩した。
地面に急降下したのに加え、炎の煙で当たり一面が黒に染まる。
「サボコロ……これはもしかしたら……」
「へ?」
「さっき貴様、自分が可笑しいと言っただろう? それは次元的なものか?」
「……っ! あ、あぁ……」
「なら俺もそうだ——————これは、もしかしたら」
エンは、言葉を紡ぐ。
サボコロは一瞬驚き、少し震える。
エンの言葉に、自分の心に。
まるで、突き動かされるように。
「試してみるか? サボコロ」
「……もう後には引けねえ」
「……」
「やるっきゃ——————ねえだろ!!!」
サボコロが叫ぶ。黒い煙が、だんだんと晴れていく。
流石に敵の姿が見えない事には動けない双子は、じっとそこで周りを見渡していた。
薄暗い景色の向こうに敵がいる。
戦えるとはいえ、2人とも重症を負っている。
勝てないわけがない。そういって、何度も何度も、同じ暗示をかける。
そして————煙が消える。
「「————————ッ!!!?」」
白き双子は
前方にいた少年達を見て
一瞬、心臓が止まったような、そんな錯覚を覚えた。
少年達2人は————————互いに違う腕を、前へ突き出す。
「できなかったら、お前のせいな」
「ふん、お互い様だ阿呆」
2人は、言葉を紡いだ。
「「両次元の扉——————————発動!!!!」」
周りの景色が歪む。
目に見えない気が、波のように周囲に伝わっていく。
自然に、怖いくらいふわりと。
同じ言葉が2人の脳裏を過ぎた。
今の2人に、迷いはなかった。
「「————————————炎節ッ!!!!」」
炎の中で尚美しく。
その業火なる景色に溶け込むように、
真っ赤に燃え滾る紅き弓矢が——————その存在を、ここに示す。
「り……りょ、う……次元、なんて……ッ!!!?」
千年前の英雄2人が、
現代に生きる義兄妹が、
乗り越えてきた————————次元師同士の境界線。
心と心を重ね、本当の意味で信頼し合っている者達にしかできない。
新しい次元への、扉。
今正にそれを——————少年達が開いた。
「矢張り俺か……サボコロはそこで見物していてくれ」
「へいへい————任せたぜ!!」
2人で、2つで。
絶対に勝ってやるという、闘志の具現化。
それは強く凛々しく、同じ思いを抱く2人の形。
エンは、ゆっくりと弓を引いた。
「ま、って……」
小さな声が聞こえる。その声の主は、半歩、後ろに退いた。
まるで死んだものを見るかのような目で、震える。
「両、じげ……ん、だなんて……」
彼女は咄嗟に後ろへ振り向く。
テシルは、息も絶え絶えで倒れていた。
セシルには分かる。彼の元力はもう、残っていない。
彼を護るには、勝つには、
あの化け物みたいな次元技に、打ち勝つ必要があった。
「どうした、今更怖気づいたか?」
————彼の言葉が、挑発的なその瞳が、とても恐ろしく映る。
「さっきまでの威勢はどこへ消えた?」
————エンの引いた弓が、酷くおぞましく見えた。
「今——————全て終わらせてやろうッ!!!!」
セシルの心臓が、大きく跳ねた。
「第九次元発動————————————」
エンの瞳に、体に、指に、足に。
彼の全ての力が、注がれる。
「————————————螺炎閃ッ!!!!!」
矢が炎を纏う。
エンの周りの景色が、真っ赤に染まる。
然し矢自体は、放たれない。
「う……ぐ……ッ」
指が引き千切れるまでめいいっぱいに指を引く。
莫大な元力が、思いが、全てこの一撃に込められているというのに。
鉛のように重たいその矢が、2人の思いをまるで妨げるように動かなかった。
が、然し。
「……————ッ!?」
エンの手首を、後ろからサボコロが掴んだ。
彼は、優しく笑う。
「2人で————————」
矢が、思い切り引き絞られる。
「————————勝つんだろうがッ!!!!!!」
エンの指が、全身が。
ふっと、軽くなった。
紅き刃は、放たれた。
業火なる唸りを上げたその矢は、
螺旋状を描く炎の中で燃え滾り、
そうして————————、全ての景色を焼き尽くす。
大きな大砲が地面と衝突するかのような打撃音。
勢いに乗った炎が、四方に飛び散る。
一瞬、本当に全ての景色が真っ赤に染まる。
攻撃の反動で、エンとサボコロは後ろに吹き飛ばされた。
燃える会場。煙の中には、白い2人が動かなくなっていた。
エンとサボコロは、互いに顔を見合わせる。
そしてこの時誰もが、奇跡を目の当たりにした。
決して諦めない少年達が描く——————図太く勇敢な次元師の奇跡を。