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Re: 最強次元師!! ( No.897 )
日時: 2013/03/07 16:45
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第231次元 生物型次元技、“兎破”
 
 「第1試合——————サボコロ・ミクシー、エン・ターケルドペアの勝利だァァ!!!!」

 レトもキールアも、歓喜に満ち溢れた。
 土壇場の復活、怒涛の追い上げ、奇跡の両次元発動。
 その全てが、会場の人間の胸を熱くした。
 ただボロボロな2人は、互いの怪我を見合わせて笑う。
 そこにはもう、ほんの少し前の2人はいなかった。

 互いを本気で信頼し合う、強き英雄によく似た姿がここにある。

 「すげえ……すげえよエン、サボコロッ!!!」
 「やったね!! 本当に凄いよ!!!!」

 傷だらけの2人は、会場からゆっくりと歩き出す。
 サボコロは腹部、胸部を貫かれ、エンもまた足、全身の筋肉が悲鳴をあげている状態にある。
 2人とも本当の本当に、奇跡を見せてくれた。

 「ちょ……マジでもう、死にそう、なんですけど……」
 「ああ……2人ともゆっくり休んでくれよな」
 「それなら、あたしが連れていくよ」 
 
 レト達の後ろで、桃色ミディアムヘアの女の子が声をあげる。
 そこにいたのは、ミル・アシュランだった。
 
 「み、ミル……っ!?」
 「大丈夫。連れていくだけですぐに戻ってくるよ。ちゃんと応援するって!」
 「それより大丈夫なの? ミル。昨日は傷だらけで……」
 「平気平気。なんかもうばっちりでさー。ささ、2人とも行っくよーっ?」

 エンとサボコロを連れて、ミルは医務室へ向かうべく階段を下りていった。
 昨日の戦闘で酷い傷を負っていた彼女だが、表面上は元気に見えた。  
 無理をしていなければ良いがと、レトとキールアも思う。

 「ミル……本当に大丈夫かなぁ?」
 「……ま、あいつが大丈夫っていうなら、大丈夫だと思うけど……」

 2人が心配している間もなく、元気で張りのある声がまた轟く。

 「第2試合————————キールア・シーホリー対リラン・ジェミニーッ!!!!」
 
 キールアは喧しく上がる歓声に一瞬びくつき、胸を撫で下ろす。
 そうだ。次は自分なんだと。
 エン達の試合の余韻を引き摺りながらも、歩いて会場まで下りる。
 向こうに見えたのは、昨日ガネストに試合を譲った兎の女の子。
 今日もまたうさみみパーカーを羽織り、肩に小さな兎を乗せ、ポケットに手を突っ込んでいる。
 つまらなそうな顔つきで、ぶすっとしたまんま歩く彼女。
 昨日は自身の次元を開いていなかった為実力は計り知れない。
 然しキールアは臆する事もなく、唯歩く。
 彼女を目の前にしても、決して恐れる事もなく。

 「やぁキールア・シーホリーさん。よろしくねっ」
 「え、あぁ……よ、宜しくお願いします……」 
 「まぁすぐにさよならなんだけどね?」

 え、と。
 キールアから小さな声が漏れた時。
 
 「次元の扉発動————————」

 彼女の真っ赤な瞳が、——————光る。

 「————————兎破!!!」

 肩に乗っていた小さな兎が、姿を変える。
 主人であるリランよりも遥かに大きく、大きくなっていく兎。
 逆にリランがその肩に乗れる程大きくなった時、白き兎は大声を張り上げた。 

 「キャァァァ——————ッ!!!」

 高い雄叫びが、響く。
 キールアはその怒号を聞いて尚、ゆっくりと目を閉じた。

 「次元の扉————————発動」

 そうしてまた、迷いなき瞳を開く。

 「————————百槍ッ!!!!」

 彼女の腕に、細く長き銀の槍が現れる。
 彼女の本当の力を具現化したそれを、まだ彼女は使いきれていない。
 それでも目の前の現実から、逃げるなんてしたくない。

 「じゃあいこうか、————————強加ッ!!!!」

 リランがそう叫んだ瞬間、兎破の口元から牙が生えた。
 そして間も無く————キールアの懐に飛び込む。
 
 「う……ぐッ!!!!」

 ガキン!!と、槍と牙がぶつかり合う音が鳴った。
 鋭く硬い牙を防ぐのに手一杯なのか、キールアは槍を牙に突きつけて後ろに押された。
 この状態で次元技の発動は難しい。
 キールアは、その細い腕に力を入れた。

 「ぐ、ああぁぁッ!!!」
 「——————ッ!!?」

 銀の槍が、牙を弾く。
 兎破が上を向いた瞬間、キールアの腕は休む事もなく、

 「第六次元発動——————一閃ッ!!!」

 その顎に向かって、槍を突き刺した。 
 兎破の喉から顎にかけて鮮血が舞う。
 ゆっくりと、天に伸びる兎破が後ろへ仰け反りかえる。
 大きな巨体が、ズドンと会場を叩く。

 「あちゃー……思ってたより強いなぁ、あの子」

 然しリランは、倒れた兎破を見ても慌てる素振りを見せなかった。
 それどころか彼女はキールアに関心したように声を上げる。

 「凄いねーっ!! 君ーっ!!!」
 「……えっ?」
 「でもねー——————っ!」

 リランが口に手をあててキールアに声をかけた時、
 確かにキールアに注がれていた太陽の光が、消えた。

 「——————気をつけた方が良いよーっ!!!」

 何か大きなものを振り回すような音が、
 何か恐怖に似た心地悪い感触が、
 キールアを、襲う。
 
 「キールア——————ッ!!!」

 レトヴェールが叫ぶ。
 咄嗟に振り返ったキールアの目の前には、白くて太いものが映った。
 その刹那、キールアは前方遥か遠くへ思い切り吹き飛ばされる。
 地面に叩き付けられた彼女の背中は、立ち上がる間もなく強い衝撃を受ける。
 キールアの口から血が吐き出された。
 
 「ぐ、ぁ……あ……ッ!!!!」
 「はははっ! やっちゃえ兎破ーっ!」

 彼女は手をポケットに突っ込んでまま、高らかに笑ってみせた。
 キールアの背中が、巨体の兎の足によって潰されていく。
 妙に気持ちの悪い音が、グギリと鈍い音が鳴る。

 「どうしたの? 顔色悪いねー?」
 「う……あ、ぁ……ぐッ!!!」
 「あたしの兎破、可愛いでしょーっ?」

 リランはキールアの目の前でしゃがんで彼女に笑いかける。
 くすくすと、苦しむキールアに向かって、笑いかける。
 その笑いは暖かいものではない事くらい。
 リラン自身、キールアにだって、分かっていたのに。

 「キールア……っ」

 レトが、泣き出しそうな顔で会場を見つめた。
 うるさい野次馬が、喧しい歓声とアナウンスと、濁った空気が。
 全て全て、キールアを批判しているようで。
 苦しむ彼女を見て、嘲笑うようで。

 「さぁーって、もっと遊んでね? ツインテちゃんっ!」
 「ぐ……はァッ!!!」

 更に地面にめり込み、キールアの全身が悲鳴をあげる。
 そのまま心臓を押し潰されてしまうのではないかと思う程重たい衝撃が彼女を襲う。
 
 然しこの時、彼女以外誰も気付かなかったであろう。
 キールアが、銀の槍を使う少女の瞳が、
 絶対に負けないと、そう力強く叫んでいた事に。