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Re: 最強次元師!! ( No.898 )
日時: 2013/03/12 22:48
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第232次元 対峙する兎と槍

 ズドンと、更にキールア・シーホリーの背中が地面に食い込んだ。
 彼女の口から、血が吐き出される。
 然し彼女の手は、血が煮え滾る程強く握り締められていた。

 「なぁーに? その目」
 「……ッ」
 「……ふーん」

 キールアの敵、リラン・ジェミニー。
 余裕な表情で、ポケットに手を突っ込んだまま軽い言葉を流す。
 彼女は実につまらなさそうな顔をして、

 「——————もしかして、死にたいの?」

 そう、言った。

 「兎破、やっちゃおっかぁ?」

 彼女はよいしょと立ち上がって、ゆっくりと歩く。
 大きく姿を変えた兎、兎破の真っ白な背中によじ登る。 
 そうして、びっと人差し指をキールアに向けた。

 「いっくよぉ——————ッ!!!!」

 キールアの瞳が、光る。
 兎破が、たった一瞬だけ足を浮かせる。
 その時は短く、そして浮かせた足と、自分の背中の間の長さも僅か。
 キールアは、その一瞬を決して見逃さなかった。

 右手にあった銀の槍を、強く握り締める。

 「やっちゃ——————」

 そう、突然に。
 ザシュッ!!!! という勢いのある音がリランの耳に届く。
 その音により彼女の言葉が遮られた時、
 目の前には、赤い景色が広がっていた。
 兎破が大きく仰け反ったのと同時、傾いた兎破の向こうに、キールアがいた。
 銀の槍を高く上げ、全てを薙ぎ払ったような姿でそこにいる。

 「——————ッ!!?」

 「第六次元発動————————」

 キールアはそこから、一歩も動かず。

 「——————乱れ突きィィッ!!!!」

 目のも止まらぬ速さで、銀の槍が狂ったように唸りを上げた。
 最後の一撃を受けた兎破は、その背中に主人を乗せたまま前方遥か遠くへ吹き飛ぶ。
 腹部に全ての衝撃を与え、尚次元師そのものを突き飛ばしたキールア。
 彼女はボロボロの体で、ゆっくりと立ち上がる。
 肋骨は何本かいっている。見えなくともキールアには分かった。
 それ程までに彼女の体は悲鳴を上げていた。

 「う、ぐ……———————、ッ!!!?」

 リランが頭を摩っていた時、
 既に目の前にはキールアがいた。
 大きく槍を振り上げて、リランをしかと見据えていた。  

 「第五次元発動————————衝砕ッ!!!!」

 地面が、揺れる。
 大地に突き刺した槍が、まるで叫び声を出すように衝撃音を奏でた。
 音が、衝撃が、空気を伝わって大地に轟いた時、
 リランと兎破は魚の如く大きく跳ね上がった。
  
 「————————第六次元、発動」

 キールアは、小さくそう呟く。
 彼女の攻撃は、止まらない。

 「——————戯旋風ッ!!!!」

 頭上から降ってきたリランと兎破。
 それを弾くかのように、百槍を扇風機のように振り回す。
 その風と威力にまたも弾かれた1人と1匹は、キールアから少し離れた所に飛ばされる。
 リランは、腕で顔を伏せたまま荒く息を吸っていた。
 彼女もレトヴェールも、驚きの表情を隠せずにいた。

 (キー……ルア……?)

 レトは息を呑んだ。
 キールアは昔から、戦闘とはかけ離れた所にいる人間だった。
 戦いを嫌い、奉仕や福祉に手を尽くしていた彼女が、自ら人を傷つける行為を行っている。
 第1回戦でもその目で見てきたが、それがどうしても信じられなくて。

 昔のキールアと、今のキールア。
 どちらも同じ彼女だが、今のキールアからは昔の姿が想像もつかない。
 泣き虫で血や争いを嫌う人間の瞳をしていない。
 銀の槍を片手に持ち、昨日次元技を手に入れたにしては抜群の戦闘センスに溢れている。
 昔の彼女を知っているレトにとってその事実は、違和感に満ちていた。

 「……ぁ、は……ぁ……っ」

 リランは口元を拭う。
 霞む視界の向こうに、キールアが立っていた。
 次元技に目覚め1日も経っていない彼女を、完全に見縊っていた。
 リランはすっと腕の力を抜く。

 「はは……強いんだね? 君」
 「……」
 「ちょーっと、見縊ってたよ……?」

 リランの腕に、力が入る。
 ゆったりとした動きで、まるで天に引っ張られるように腕を上げた。

 「第七次元発動——————」
 「……ッ!!」
 「——————強加ァッ!!!!」

 兎の兎破の傷が癒え、轟という胸に響く音が鳴った。
 兎破の赤い瞳が煌く。真っ白な毛の全てが逆立っているようにも見える。
 白くて鋭い牙が、もう一度現れる。
 どうやら多少の傷が癒えているところを見ると、次元技に攻撃し続けても無駄のようだ。
 次元師の方をやらなければ、こっちが先にやられる。

 「キャァァァ——————ッ!!!!」
 「——————ッ!!?」

 兎破はそのままキールアに突進する。
 その白く太い腕を、キールアは槍で防ぐ。
 力強さが、その重さに比例してキールアの腕に乗る。
 弾こうにも完全に槍を抑えられている。
 このままでは動けないと、キールアは奥歯を噛み締めた。
 キールアの体が押され、彼女の足が後ろへと下がった。

 その時。

 (——————ッ!!?)

 突然、全ての力が抜けた。
 勢いあまって前へと傾く彼女の体。
 白い兎が、腕を振り上げていた。

 「うわァ————!!?」

 まるで全身をビンタするように、勢い良く横へと突き飛ばされた。
 何度も地面の上を波打った後、汚れた雑巾のように転がるキールア。
 彼女の左半身が、悲鳴をあげる。
 左腕に力が入らない。

 (どう、して……なのかな……)

 キールアの右手が、転がった槍を求めた。

 (もっと、もっと……!!!)
 
 キールアの中指が、目の前の槍に触れる。 

 (——————————次元技と、繋がりたいのに……っ!!)

 彼女は、体を引き摺って槍をその手にする。
 舞う砂埃の中で、ただ一つの願いを抱いて。

 「やっぱり立っちゃうんだ」

 リランは歩く。
 兎破の許へ、歩く。
 恐ろしく戦闘意欲の強いキールアに、少しだけ恐怖感を覚えながら。
 
 「ま……だ、まだァッ!!!」
 
 キールアは加速した。
 ぐるんと槍を振りまわし、兎破と対峙する。
 ガキン!! と響く音の中で、キールアは強く思う。
 勝たなくてはいけないのは分かっている。
 強くならなくてはいけないのは、分かっているのに。
 
 それらとは全く別の思いが、キールアを駆り立てる。
 彼女の脳裏に、義兄妹の影が過ぎった。
 ずっと憧れ続けていた逞しい後ろ姿が、

 今更になって、酷く綺麗に思い出されていた。