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Re: 最強次元師!! ( No.901 )
日時: 2013/04/02 11:18
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第233次元 “2人”を追って
  
 幼い頃の、義兄妹。
 まだ次元技も使い慣れていない2人は師匠について行った為、キールアは一人取り残された。
 僅か1年足らずで戻ってきた2人は、蛇梅隊に入隊したいと言った。
 2人を引き止められないキールアは唯、2人を見送った。

 そうしてどうだろう。
 一度だけ、レイチェルで元魔が出現した時があった。
 蛇梅隊の隊服を着た2人は、自分の前に立って戦ってくれた。

 その時、どれほどその背中を大きいと感じたのだろう。
 まだ子供だった頃の2人とは訳が違う。
 洗練された動き、多様な技術、身のこなし。
 少し見ない間に、2人は心も力も強くなっていたのだった。
 本当の意味で、次元技と強く深く結ばれた2人になっていた。

 キールアはその時から、2人に負い目を感じていたのかもしれない。
 当たり前だが、自分より全然強く逞しいレトとロク。
 昔からずっと一緒だったのが、幼馴染なのが、嘘みたいに。
 まるで別人のように、キールアの瞳には映っていた。

 いつか2人の隣を歩きたいと願った。
 それが例え無理でも、可能性なんかなくても。



 
 (……————キールア?)

 アシュラン・チームとの戦いを控えた前夜。
 キールアは、冷たい廊下を一人歩いていた。
 眠れないのか、他の男子3人を部屋で寝かせたまま。
 そうしてぴたりと足を止めたところで、心の中で声が響いた。

 「どうしたの? 早く寝ないと、明日まともに戦えないわよ」

 ぽんっ、という音が鳴ったかと思ったら、目の前に百槍がいた。
 千年前の英雄。たった一本の槍で戦国の時代を生き抜いた少女。 
 百槍は、少し首を傾げた。

 「ごめん……すぐ寝るよ」
 「……何かあったの? 相談になら乗るけれど」

 キールアは、壁に手をつく。
 そしてくるりとまわって、壁にとんと背を任せた。
 凭れる彼女の目が、少しだけ細くなる。

 「私ね……自信がないの」

 自然と、口から漏れた言葉。
 それは決して冗談ではなかった。
 キールアは話を続ける。

 「勝てる自信、じゃなくて……次元師として、やっていける自信」
 「……」 
 「元々戦いとか向いてないの……分かってるんだ……」

 その手で、人々の命を救ってきた。
 親の姿に、自分の先祖の姿にずっと憧れてきた。
 医師として、人々を救う為の存在として今まで生きてきた自分が、
 まさか自ら人を傷つける事になるとは、思ってもいなかった。

 「レトも、サボコロも、エンも……ロクも……皆、あんなに強いのに……」
 「……キールア……」
 「私……皆と一緒に戦える自信……ないの……」

 迷惑ばかりかけているような気さえした。
 途中で元力を失って、皆に心配かけて。
 サボコロとエンに頼って、最後の最後でまた、レトに頼って。
 いつになっても弱いままの自分が嫌で嫌で、仕方がなかった。
 キールアは、そう語る。

 「……」
 「百槍も……呆れる、よね……こんな私……」

 少しだけ笑って見せたキールアの瞳は、笑っていなかった。
 苦しくて悲しくて、今にでも溢れ出る涙を必死に堪えているような。 
 そんな、瞳。

 「そうね……——————呆れるわ」

 百槍の冷たく鋭い言葉が、キールアに突き刺さる。
 百槍は眉毛一つ動かさない。唯、口を開く。

 「今の貴方には……分からないでしょうね」
 「……えっ?」
 「貴方が気付いていなくても————————私はずっと貴方を見てきたのよ」

 心の中から、ひっそりと。
 キールアが百槍の存在に気付く事がなくても、
 百槍はずっと、ずっと。今までずっと。
 キールアの心の中から彼女を見守ってきた。

 「諦めるのは、戦ってからにしなさい」

 そう言った百槍はすっと消える。
 キールアは体を起こす。
 一瞬動きを止めると、また歩き出した。
 冷たい廊下を、少女が往く。




 


 昨日の会話が鮮明に思い出される。
 兎破の牙を、刃を、その槍で抑えながら。
 槍が重たく非情なまでにキールアに乗りかかる。
 今まで皆が味わってきた苦しみの分、彼女の上に。

 「……ぐ、……ッ!!」

 ずしんとまた重力がかかった。
 銀の槍が震える。
 不安定な心の上で、不安定になる腕の力。
 キールアの白い腕が、ぎゅっと槍を掴む。

 
 『諦めるのは、戦ってからにしなさい』


 百槍の言葉が脳裏に過ぎた瞬間、
 キールアの腕に、更に力が加わった。

 「第六次元発動————————」

 小さな声が、
 大きな思いを紡ぐ。

 「————————戯旋風ッ!!!!」

 ガキン!! と響いたのと同時。
 自分をも巻き込んだそれの衝撃で、兎破もキールアも全くの別方向に吹き飛んだ。
 戯旋風の衝撃を利用して、兎破を弾いたのだ。

 「第七次元発動————————紅刃ッ!!!!」

 煙の中から飛び出した兎破の手から、鋭く太い爪が伸びた。
 紅みを帯びたそれが、キールアを襲う。

 「ぐ……————はァッ!!」 
 
 紅い爪が弾かれる。
 大きく仰け反った兎破の腹部が空く。
 キールアは槍を地面に突き刺し、体を浮かせた。

 「はァァ——————ッ!!!!」

 槍を利用しぐるんと回ったキールアの足が、兎破を蹴飛ばした。
 前方へ飛んだ筈の兎破は空中で一回転し、その衝撃を使って全く逆の方向へ。
 つまり、キールアの許へ跳ぶ。
 兎破が、大きく振りかぶる。
 
 「キャァァ————————ッ!!!」

 兎破の高い鳴き声が耳を過ぎた時、キールアは槍だけで防ぎきれず少しだけ浮いた。
 頬に、小さな傷が入った。
 そこから僅かな血が垂れる。キールアはもう一度回って槍をぐるんと振り回す。
 彼女も兎破も、一度も動きを止めなかった。
 激しい攻防戦に、レトの表情も苦しくなっていく。

 「何で、あんな……」
 「……え?」
 「キールアの奴……やっぱりおかしい……」

 ミルは、もう一度下を見る。
 跳び回る兎破と、走り続け槍を振り回す少女の姿が瞳に映った。
 心優しいキールアだった筈が、あんなにも戦う者の表情を露にする。
 本当に本当の、次元師のような。

 (キールア、ちゃん……?)

 ミルの頬に一筋の汗が伝う。
 すうっと零れたそれは、やがて地面に吸い込まれるようにして落ちた。
 息を、呑み込む。

 「あーあ……あんなに頑張っちゃってー……」

 一人、戦わない少女はそう呟く。
 つまらない。皆皆、一生懸命で馬鹿らしい。
 そう、その表情が訴える。


 ——————————然し。


 (————————ッ!!?)

 
 一瞬、自分の心が、寒気を帯びた。
 
 
 妙な殺気。ぬるい風が、何故か冷たい。
 リランは、振り返った。


 「第七次元発動————————」


 それは、たったの一瞬だった。

 
 「————————、一閃ッ!!!!!」

 
 リランの瞳に突き刺さった槍の先。
 リランの心に突き刺さった、彼女の瞳。

 (————————ッ!!!?)


 全てが、残酷な色に染まっていた。