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Re: 最強次元師!! ( No.903 )
日時: 2013/03/27 10:57
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第235次元 砕かれた力と想い


 ————————————然し。


 「————————————ッ!!!?」
 

 もう既に全身が悲鳴を上げていた。
 体力もない。握力も、根気も。 
 次元師として足りないものが多すぎて、ありすぎて。
 それがどれだけ彼女にとって重荷になっていたのだろう。
 ただ彼女は、幼馴染の背中を追っていただけ。

 ただあの後ろ姿に——————————憧れていただけだった。

 
 「な、ん……————————ッ!!!」


 銀の槍の奥には
 鋭く光る、淡い眼光。


 金髪の少女は力の入っていない腕で——————————銀の槍を掴んでいた。


 「言、った……でしょう……————————?」

 「…………ッ!!!」

 「“負けられない”……——————————ってッ!!!!!」


 またあの鈍い瞳が——————————リランに突き刺さった瞬間だった。


 力が入って、銀の槍が揺れて、白い爪が弾かれて。
 そう、刹那の時間がゆっくりと時を刻む。
 瞬く間に、呼吸をするのも忘れてしまう程一瞬の間で。
 キールアはその槍で力強く空を斬る。
 諦めない心。全ての力を今この瞬間の全てに賭ける彼女。

 その気高き姿があまりに綺麗で。
 その気丈な姿があまりに繊細で。

 この会場にいた全員がその儚く美しい姿に心を奪われた瞬間だった。
 それは選手席にいたあのロティ・アシュランも同じ。
 彼女の全身が、震え上がる。

 (う、嘘だろ……あのリランの兎装が——————————ッ!!?)

 先程の一撃から、景色が一瞬にして変わった。
 防戦一方だったキールアの瞳が、姿が、先程までとは違う。
 第一試合のエンの姿を連想させるその光景に、誰もが絶句した。
 リランの方が、押されているように見えるのだから。

 「……“向いてない”なん、て……知ってるよそんな事!!!」
 「——————ッ!!」
 「戦闘とか大嫌いだもん!! 誰かを傷つけるなんて——————本当はしたくない!!!!」

 キールアの持つ百槍が、リランの腕を豪快に振り払った。
 弾き飛ばされるリランは一度転がったが、また跳ね上がる。
 キールアは迫り来る爪に即座に反応し、槍で抑えた。
 弾かれても尚、リランは足や手、爪、全身でキールアに襲い掛かる。

 「でも私————————諦めるのだけは嫌なんだよ!!!!」

 また、リランが引き剥がされた。
 何度食いついても、何度も弾き跳ばされる。
 鉄壁の守り。そして反応の速さ。
 それは次元技を手にして間もない次元師の動きではなかった。

 「届かないって、分かってる……——————でも、諦めたくない!!!!」
 「ッ!!?」
 「絶対——————————限界なんて自分で決めない!!!!」

 キールアの槍が空を舞う。
 彼女の身のこなし。ここに来て火がついたように加速する力。
 リランは自分を守る事に精一杯で、手を出す事ができなかった。
 いや、手を出す暇さえ、なかった。

 「“諦めるのは”——————————」

 キールアが地面を蹴り上げる。
 綺麗に高く空を舞う彼女は、百槍を地面に向けた。
 リランが、咄嗟に空を見上げる。

 「——————————“戦ってから”よ!!!!!」

 大地が大きく揺れ、地面が割れる。
 激しい衝撃に、リランは対応しきれず吹き飛んだ。
 キールアの眩しい程の情熱が、リランをここまで追い込んだ。
 次元師が最も頼り恐れる矛盾の力。
 眩しく光る心の力が、今ここで証される。

 「そう……百槍は言ってくれた」

 キールアの口調が、急に穏やかになった。
 昨日、百槍に言われた言葉。
 最後に放った彼女の言葉が、ずっとキールアの胸の中で痞えていた。
 冷たいように見えて優しい彼女の言葉が、態度が、やっと分かったような気がしたのだ。

 そうして今やっと、百槍と繋がれた。

 「いくよ百槍……必ず勝ちにいこう」
 
 (——————ったく……)
 
 貴方と繋がりたい。
 その言葉が、百槍の全身に伝わった。
 彼女らの間に、最早壁も不安も存在しない。

 この時リランには、勝てる気というものがなかった。 
 生物型次元技な為、一般の次元師よりかは次元技と深く繋がれる。  
 然し相手は言葉を喋る元霊で、見たところ本当に信頼し合っている。
 絶望という言葉を、初めて知るような気持ちだった。
 リランは力なくふらりと立ち上がる。 

 (まずい……————リランが、負ける)

 選手席のロティ。
 彼女は足を組んで、苦しい表情でそう思った。
 キールアを前に、戦意を喪失しているのが目に映る。
 このままでは負ける。想いの強さで、執念深さで、負ける。
 ロティは組んでいた足を、解いた。

 「これで……——————本当に終わりにしよう」
 「っ!?」

 キールアは、瓦礫の山を往く。
 銀の槍を片手に、威風堂々と足跡をそこに残す。
 彼女の眼光が、再びリランの心を射抜いた瞬間。

 
 「第七次元発動——————————ッ!!!!!」

 
 大地に轟く声。リランの全身に響き渡る怒号。
 この時敗北を感じたのは————————リランだけではなかった。


 「滅紫——————————烈衝!!!!!」


 キールアが槍を振り上げる。
 大地に突き刺さる銀の槍。
 空間が一瞬だけ、歪んだ時。




 パキン、と。


 キールアの腕にあった力が、そんな音と共に全て抜け落ちた。




 リランはその時既に気絶していて、
 急に力を失ったキールアも、崩れるようにして倒れた。
 誰もがその時驚きの表情を隠せず。
 

 そう。
 たった一人の女性だけが微笑んでいた事に——————————微塵も気付かずに。


 「な、なん……だ——————?」

 レトヴェールも目を見開いたまま動かなかった。
 体に半分ブレーキがかかったように、ぴくりとも動かない。
 会場には倒れている2人。
 さっき、キールアは確実に勝てる瞬間だったのに。
 不自然にも、彼女は急に倒れた。
 その事実がどうにも受け止められず、時が止まったように観客席も静まり返っていた。
  
 『え、えーっと……? これはどういう事でしょう……?』
 
 アナウンスもおろおろとし始め、その奥で審査を抗議していた。
 急に倒れた少女2人。片方は気絶だろうが、片方のキールアはあまりに不自然で。
 そんな事をあれこれ考えているうちに、マイクテストの声が響く。


 『えー、ただいまの結果を————————————“引き分け”とします!!!!』


 そう、会場中に響き渡ったとき。
 誰もがブーイングをし始めてレトヴェールさえも手に汗を握ってぐるんと振り返る。
 今彼は、今の試合を引き分けと、そう言い放ったのだから。

 「待てよ!! じゃあどうやって勝敗決めんだよ!!!!」
 「そうだそうだァ!!! 次にアシュランの方が勝ったらどうするつもりだおい!!!!」
 「何とか言えよ運営!!!!」

 怒りに震え上がる観客達を見る間もなく、レトヴェールはふらっと席に座った。 
 引き分け。引き分け。では本当に次負けたらどうなるというのだ。
 アナウンスは申し訳なさそうに小さな声を絞り出す。


 『次にアシュランチームが勝った場合————————両チームにはもう一度試合を行ってもらいます!!!』

 「「「「「——————————ッ!!!?」」」」」


 『その場合は選手ランダム形式にし————————4人のうち1人が代表として最終戦に臨んでもらいます!!!!』