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Re: 最強次元師!! ( No.904 )
日時: 2013/04/06 10:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第236次元 主将対決、レト対ロティ

 信じられない声が、事実が、レトの脳内で繰り返された。
 つまり、次の試合に負けてしまった場合。
 ボロボロで動けないエン、サボコロ、そして元力的に不利なキールア。
 加えて次の試合で更に戦えない状態になるであろうレトのうち誰かがもう一度試合する事になる。
 それは向こうも条件は同じだが、あまりに酷すぎるのではないだろうか。
 死ぬ気で、出せる全力をぶつけ叩き出して戦ったのに。
 もう一度試合をするという事は、自殺行為に近い状態になる。
 そんな事をしたら、死んでしまう者もきっと出てくる。
 生死に関わるデスマッチ。レトはそれを、決して認めたくはなかった。
 彼は強く拳を握る。隣にいたミルが、震えながらそれを見ていた。
 
 そしてまた、放送が響く。

 「それでは第3試合————————レトヴェール・エポール対ロティ・アシュラン!!!!」

 レトは振り返った。
 担架で運ばれていくキールアの姿が見える。
 傷ついて、ボロボロになって、そんな体で何度も立ち上がって。
 彼はふっとキールアから視線を外し、奥歯を噛み締めた。

 彼は、一度そこで止まった。

 「れ、レト……?」
 「……ミル……俺」
 「……っ?」
 「必ず証明する————————、お前の強さも、ハルって奴への想いも」

 そうして、力強く歩き出す。
 静かな声、落ち着いた口調。
 ミルはただそんな彼の背中を目で追う。
 ああ、あれがレトヴェール・エポールという一人の人間なのだ。
 何故かその後ろ姿が、あの義妹と重なった。

 「へぇー……? お前、ミルと知り合いなのかよ?」

 綺麗な足取りと、余裕のある男性口調を重ねて彼女は現れた。
 長身にだぼだぼした服装の彼女。
 レトより少し高めのロティは、遠くにいるレトを見つめる。

 「にしてもあいつよえーよなぁっ? マジでちょっと期待外れだったわ」
 「……」
 「あれで蛇梅隊? だっけかぁ? で有名な次元師……ねぇ」

 彼女は笑い飛ばすように、嘲笑うように。
 ミルの心の奥底に、言葉を突き刺すように言い放つ。

 「大した事ねぇなぁ——————————蛇梅隊って奴もよォッ!!!!」

 ビクン——————ッ!!、と。
 レトヴェールの体が、心が、無意識に反応する。
 彼の心臓が、忙しく脈を打つ。

 「……おい」
 
 いつもより低い声。凍える声。
 レトは一歩、踏み出した。

 「……はァ?」
 「てめえなんかにゃ絶対分かんねえよ」
 「……?」
 「俺達がどれだけ戦ってきたか、どれだけ涙流してきたか————————」



 たった一瞬だけ。
 時が、止まる。


 
 「どれだけ“自分”と————————————向き合い戦ってきたかァッ!!!!!」



 レトは双剣を思い切り横へ薙ぎ払った。
 空間が、斬り裂かれる。
 たったの一太刀で、ロティは激しい衝撃に巻き込まれ吹き飛んだ。
 一直線場に、ブレる事もなく綺麗に前方へ向かう彼女。
 景色の全てを砕くように、激しい打撃音が轟く。
 痛さも苦しさも、その速さも感じる事なく、ただ気付けば瓦礫の中にいた。 
 激しく舞う土埃の中で、苦しく笑う。

 「……っ、へぇ……やるじゃん、少年」
 
 会場にいた誰もが絶句する。
 ミルも当然驚き、その場から暫し動けなかった。
 一発目で、あのロティを吹き飛ばした。
 空間を斬り、その衝撃だけで彼女を。
 思い出しただけで、小さな震えが止まらない。

 「あんたに教えてやるよ——————————俺達の強さを!!!!」

 「へぇ……————————そいつぁ面白えッ!!!!」

 ドン——————ッ!!!と、空間を気の波が伝う。
 2人ともいつの間にか戦闘態勢に入っていて、お互いの力をぶつけ合う。
 ロティは踊るようにレトの攻撃を避け、レトは避ける間を与える事なく剣を振るった。
 矛盾の勝負。どちらも攻撃している、どちらも避けている。
 然しどちらの体にも、傷はつかない。

 「第六次元発動——————————十字斬りィィッ!!!!」

 剣を重ね、外側に思い切って振り払う。
 描かれた十字の真空波が、空間を伝う。
 
 然し。

 「————————……え……っ!!?」

 真空波は、ロティの体に当たる直前で、砕け散った。
 何か固いものにぶつかって割れるように、真空波は跡形もなく風に流れる。
 ロティの表情から笑みは消えない。 
 
 「おいおいそれだけか? 武器型なんだからもうちょっと楽しませろよ?」
 「……?」
 「じゃねーとあたしに——————————勝てねえよ!!!!!」

 ロティが足に力を入れて加速したのは刹那の間。
 気付けばレトの腹部には蹴りが入り、レトもまた遥か後方にある壁へとぶち当たった。
 もの凄い速さで、もの凄い威力で。
 レトの腹部に痛みが残る。少しだけ血を吐き捨てた。
 彼は、立ち上がる。
 
 「見せてやるよあたしの力——————————、第八次元発動!!!!」

 ロティがそう叫び、レトは不安定な体を起こす。
 
 「——————————心操!!!!」

 ほんの刹那の間。
 彼女の声に応えるように、大地が、空が、小さく揺れた。
 それは本当に一瞬で、観客は殆ど気付かないまま。
 レトは会場で唯一人、その微妙な震えに感づく。
 然しロティは変わらぬまま微笑んでいて、
 可笑しいと思っているのが、自分だけのようで。
 レトはただ、もう一度双斬をその手にした。


 「さぁ——————————遊んでやるよ、少年」


 妙に自身ありげに微笑む彼女。
 レトは一歩、ギュン、と足に力を入れる。
 そして。

 「第七次元発動————————十字斬りィィッ!!!!」

 大地を蹴り上げたレトは、加速し、派手に双斬を振り払った。
 横一文字で、十字を斬るように。
 真っ白な真空波が、ロティ目掛けて地面を駆ける。


 「だから言ったじゃん————————」


 然し。


 「————————んなんじゃ勝てねえって!!!!」


 真空波は、またしても砕け散った。
 バラバラと、音を立てて崩れる欠片。
 ガラスの破片のように、それは割れるような音を奏でて消え去った。
 レトはもう一度驚きの表情を作り上げる。
 どうして、効かないのだと。

 「学ぼうぜ? 少年。仮にも代表者候補だろ?」
 「……く……ッ」
 「さて……——————今度はこっちの番だぜ!!!!」

 ロティは駆け出した。
 そして右手を開き、ふっと横へ、空気を薙ぎ払う。
 そして。

 「————————ッ!!?」

 床にあった、大きな岩の破片が、浮かんだ。

 「うぁぁ————————ッ!!!!」

 咄嗟に腕で身を守るが、その衝撃は強くレトは突き飛ばされた。
 岩が物凄い速さでレトの懐に飛び込んできた。
 まるでおもちゃのように、自在に方向まで操って。
 ロティは、右手で面白そうに岩を宙に浮かべていた。
 ふわふわと遊ばせるそれは、残酷非道な岩の塊だけれど。
 レトは掠れる視界の中で、その岩を睨んでいた。

 「お前はもう逃げられねえーよ、レトヴェール」

 男口調で、すらっとした体。
 ロティの楽しそうな姿を、
 レトの苦しそうな姿を、
 ミル・アシュランは、ただ眺めていた。
 自分の体が、無意識に震えているのにも気付かずに。