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- Re: 最強次元師!! ( No.905 )
- 日時: 2013/04/14 11:45
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第237次元 操られた、
「十字斬りィィ——————ッ!!!!」
双剣が、思い切って空を斬る。
然しその真空波は、ロティの体に触れる直前で、見事に砕け散る。
レトはその真意を探る為でもあるが、先程からずっと色々な技で色々と試していた。
然しどの技も、ロティには跳ね除けられてしまっている。
八斬切りも試みたが、彼女の優れた身体能力がそれを悠々と交わす。
そうしてレトは、やっとぴたりと、攻撃を止めた。
向こうで佇むロティは、嬉しそうに口元を綻ばせている。
「おいおいどうしたァー? もうギブアップかよォー?」
「……ち、っくしょ……ッ」
「そんなんじゃ……代表になんかなれねーぞ————!!!!」
ロティが腕を振るう。
それに応えるように、会場からどすんと音がなり、無数の大きな岩が現れる。
彼女が意を下すまでもなく、岩はレトの目の前に放り投げられた。
彼は咄嗟に腕で顔を庇う。
岩が、彼の全身を叩きつける。
響き渡った衝撃音と共にレトは地面に体を打ちつけた。
試合が始まって間もないのに、体が痛みを覚える。
「ぅ、ぐ……!!」
不安定な足取りで、レトはまた立ち上がった。
荒い呼吸のままで、レトはまた前を向く。
彼はもう一度双斬を握り締めた。
(あいつの技……“心操”、とか言ったか……? 一体、どういう技なんだ……?)
岩が宙に浮いたり、攻撃してきたり、地面が勝手に盛り上がったり。
先程からずっとロティの攻撃を防いできたが、攻撃の方法が大胆この上ない。
自然を使っての攻撃、という事だろうか。
では、何故“心”という単語が入るのだろう。
「……ちょっとばかし危険だが、試してみるっきゃねーよな」
レトが双斬を握り、ロティがすっと腕を構えた。
そして、そのまま。
彼は、大地を蹴り上げ飛び出した。
「うりゃあ————————ッ!!!」
なんと、何も技を唱える事なくロティの許へと駆けていったのだ。
その行動に一瞬対応しきれず、彼女は思わず右腕で顔を防ぐ。
レトは、掛け声と共に双剣で薙ぎ払う。
「うッ————————ぐぅッ!!!」
(————————!!?)
ロティが技を使わなかった事に、レトは驚いた。
そのまま吹き飛ばされたロティが前方へ飛ぶ。
その勢いを利用して彼女は空中で一回転し、ずささーッ、と足を滑らせ止まる。
切れた右腕の傷口から、容赦なく真っ赤な血が漏れていた。
「お前……」
「ぐ……ッ……流石に油断しちまった……」
「……」
「……まぁ、次はそうはいかねーけどな」
彼女の不敵な笑みにどんな考えが込められているのか。
そこまでは分からずとも、彼には少しだけ分かった事がある。
きっとあの心操という技には、条件がある。
ごく僅かだが全ての次元技の中で前提条件をクリアしていないと発動できない技もあるという。
エンの真閃でいう、正確に位置を把握しないと何処かすっとんきょうな場所へ弓が飛んで行く、といったような。
然しそこまで分かって、肝心の条件内容が分からない。
厄介な敵だと、冷や汗を一つ零す。
「お前面白いなぁー? 次元技なしに突っ込んでくるなんてさぁ……」
「……?」
長い足を動かして、静かにレトの方向へと歩み寄るロティ。
レトは一歩下がる。双斬を構えて、ロティから遠ざかるように、一歩ずつ。
「でも……お前じゃあたしには勝てねえ」
彼女は、言い切った。
すかした表情で、そう言った。
彼女は一度だけ目を閉じて、そうしてもう一度。
「“悲劇”を見せてやる————————————、覚悟しろよ」
覚悟しろと言った時。
彼女の瞳が大きく見開いた。
小さく息を吸い込む彼女は、自身に溢れた表情だった。
「第八次元発動——————————」
(——————————ッ!!?)
レトの心の内にいた少年が
大きく酷く、反応する。
まるで今から、全てを取られるかのように。
「——————————心操!!!!!!」
ロティがそう叫んだのと同時。
ガシャン!!! という激しい音が、レトの耳まで届いた。
急な事に反応できず、恐る恐る自分の手を見た。
そこに、双斬はなかった。
「え……————————っ」
自分の手から滑り落ちたように、
自分の足元に、双剣が転がり落ちていた。
カタカタと震えるそれは、次の瞬間何かに引っ張れるように前方へと飛んでいった。
その先には、ロティ・アシュランがいた。
「遊ぼうぜレトヴェール……————————てめぇの大事な“これ”でなぁッ!!!!」
ロティが腕を上げる。
宙に浮いた双斬が、震えたまま。
今、この時瞬間で一体、何が起こっているのか。
レトにさえ、分からなかった。
(レト————————————ッ!!!!)
幼く大きな怒号が、
フリーズしていたレトを起こした。
この声の主を、彼は良く知っている。
(逃げるんだレト!!! 君は無事に助からない————————ッ!!!!!」)
「双……斬……」
(早く……ッ、レトォォ——————————!!!!!!)
何かを切り裂くような音が鳴り響く。
それが聞こえるまで、一体何秒かかっただろう。
いつの間にか、レトの目の前には赤い何かがあった。
散っているようにも見える。自分の視界を赤いものが遮るように。
然しそこには全く別の、“物”まで見えた。
「う……ぐはァ——————ッ!!?」
片目だけで、視界を探る。
必死になって、霞んだ景色に目を凝らす。
僅かな光の先にいたのは————————血に塗れた双剣だった。
「ふ……ははははは!!!!! 良いぜその目!!! その表情!!! ——————————最高に楽しいなァおい!!!!」
「……ぅ……え……——————っ?」
今やっと、しっかりとした情景を目の前にする。
腹部から血が溢れて止まらず
目の前にはぎらりと輝く双剣の矛先があった。
血の滴るそれが、自分に向けられた時。
レトはやっとそれを、理解した。
(双、斬を————————————“操ってる”!!?)
と、次の瞬間。
「いっけェエ——————————ッ!!!!」
彼女が腕を振り下ろす。
2本の短剣が、容赦なく自分の体を突き刺し貫いた。
未だ震えたまま、双剣が自分を裂く。
今まで共に戦ってきた英雄が、主人である次元師に、歯向かった瞬間。
こんな状況、見た事もなければ聞いた事すらない。
第三者の次元師の介入によって起こった————————“次元師”と“次元技”の“悲劇”。
「う、ぐぁ……ッ……げほッ……ぐ、双……ざ……ッ」
吐き出した血を睨む。
目の前でそれを見ていた双斬が、叫ぶ。
(今の僕には僕を止められない!!!! お願いだから逃げてレト—————————!!!!!)
レトは、傷だらけの体で、立ち上がる。
血に塗れた体で、それでも尚。
目の前の英雄に、何かを訴えるように。
「今この次元技はあたしのもんだ!!!! 次元の扉を閉じる事なんざできねーよ!!!!!」
「……」
「んだよ無視か? ……あぁ、なるほどな」
何も言わないレトに、ぽんと手を打つロティ。
にたりと、彼女は笑った。
「“死にたい”なら、そう言えよ——————————“トモダチ”の手で、殺してやるからさァッ!!!!」
彼女は声を張り上げ、腕を振り下ろした。
双斬の声がレトの中で響いた時にはもう、遅かった。
酷い傷口を更に抉るように、不安定な体を大きく揺さぶるように。
今まで共に闘ってきた“英雄”の矛先が、少年の眼に焼き付いた。