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- Re: 最強次元師!! ( No.906 )
- 日時: 2013/04/21 13:28
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第238次元 ずっと、昔から
もう一度、双斬が体の一部を貫く。
そしてもう片方の双斬が、左腕に突き刺さって。
まるで連続でパンチをくらうように、双斬が突き刺さり抜けて、また突き刺さる。
黒いコートが、赤黒く染まっていく。
(レト——————!!!! もうやめろって言ってるじゃないか!!! どうして……どうして君は……!!!!)
涙交じりの、震えた声がこだまする。
それとは裏腹に、2本の剣が自分に襲い掛かって来る。
レトは、何も言わなかった。
「う……ぐ、ぁ……ッ」
痛いとも、やめろとも、何も。
今双斬を動かそうにも、まるで糸で繋がれているように誰かに引っ張られている。
そう、自分ではどうしたって動かせない。
それなのに必死に、数千本の糸から、たった一本の糸を手繰り寄せるように。
たった一本の希望を、掴み取るように。
「は、はは……」
彼は、小さく笑いを零した。
ロティが眉をひそめる。
「何が可笑しいんだてめェ? それともあれか、刺されすぎて可笑しくなっちまったのかァ?」
いや、とレトはまたそう言う。
ぐらりと不安定な足取りで、ふらふらしながらも立ったままで。
その顔にも、金色の髪にも、赤いものをべったりと塗りつけたままで。
「“死にたい”、か……普通なら、この状況でいっそ殺してくれ、って言うん、だろうな……って……」
「……何が言いたいんだよ」
「俺は……死にたいなんて、思わねーよ」
彼は、前を、向いた。
俯いていた顔が、起き上がる。
閉じていた瞳が、力強く現れる。
「やれよ、好きなだけ」
「……!?」
「そのかわり俺は————————それを数千倍にして返してやる!!!!」
絞り出し張り上げた声に、全ての力を込めて。
言い放たれたその言葉に、双斬の震えた声が響いた。
(……れ、と……、ぼく……ぼ、くは…………ッ!!!!)
泣き出しそうな声が、目の前にある双剣から、或いは自分の中から聞こえたような気がした。
その弱弱しい訴えに、レトは優しく微笑みを浮かべて。
自分の血に塗れた双斬を、掴んだ。
(……!!?)
「や、っぱり……しっくりくるな……お前」
それを見ていたロティの顔が、一変する。
憤怒に溢れた表情は、余裕の色を一切感じさせず。
腕を、勢いよく振り上げる。
「ふ、ざけんな…………“それ”は、あたしのもんだァ——————————ッ!!!!!」
レトが握っていた右手の短剣が、自らぐるんと捻じ曲がった。
その先にあったのは、レトの脇腹で。
レトが双斬を掴んだまま、自分で自分を刺したかのような景色が広がる。
左の手は、ぶらんと提げられていたまま。
「お前の……もんじゃねーよ——————————!!!!!」
レトが、腹に刺さった短剣を抜く。
同時に散った、鮮血。
痛みの限界まできているのに、彼の怒号に力が入っていた。
彼の瞳に、力が、入っていた。
「双斬はお前のもんでも、俺のもんでもねえ……」
(な、……なん……————!!?)
「双斬は……ッ!!」
右にも、左にも、血が煮え滾る程の強い力を。
絶対離さないと、絶対渡さないと、そう訴えるような強き瞳で。
「ずっと前から俺の“憧れ”で——————————俺の“友達”なんだよッ!!!!!!」
その瞬間。
レトが放った声が、空気をも砕くように。
ロティの次元技が、崩れ落ちたように。
たった一言の思いが————————八次元級の次元技を打ち砕いた。
「何で……お前……今何して……!!!?」
「てめえに言った筈だ、ロティ・アシュラン——————————」
彼が握り締めたそれは、
彼の憧れで、彼の友達で。
昔、一度だけその英雄に助けられた、その時からずっと。
「——————————俺達の“強さ”を、教えてやるって!!!!!」
双剣に、全ての想いを乗せて。
双剣に、全ての強さを乗せて。
まるでその剣に、双斬に……“友達”に————————全てを、伝えるように。
(まずい……くる————————!!!)
景色の全部を巻き込んだ一撃。
風を纏って、光を乗せて。
渾身の力をその右手に、全て託して。
今、一体となる。
「……ぁ……は……ッ、あ……」
レトはがくんと膝を落とした。
流石に暴れすぎたな、と。
昨日の戦闘で負った傷もまだ残っているのに。
彼は薄ら笑みを浮かべて、煙漂う方へ、ロティの方へ目を向ける。
灰の煙から現れたロティは、けほっ、と一つ咳を零した。
先ほどまでの狂った様子はなく、いつになく落ち着いた面持ちで。
「……」
彼女は何も言わずに、ただ立ち上がった。
肩に乗った小さな瓦礫や土を払う。
そうして漸く、口を開いた。
「…………何で……全部、取られなきゃいけねーんだよ……」
(…………?)
ロティの落ち着いたような、それでいて怒りの滲み出た台詞が聞こえてきた。
レトは双斬を構えて、ロティから目を離さずにいた。
然し彼女は攻撃をしかけてくる様子はなく、ただのらりと、くらりと歩いていた。
「家も……友達も……全部、全部……!!!!」
「お、おい……お前!!!」
「何で……何でだよ……!!! あたしが、何したってんだよォ……!!!」
怒っているようで、泣いているようなそんな声。
怒りに震えているのか泣いているから震えているのか分からず、ただそこで。
ぴたっと、足を止めた。
「何で全部————————————奪われなきゃいけねーんだよ!!!!!!」
ロティの叫びがレトの遥か後方まで響き渡る。
彼女は、何を言っているのだろう。
狂っているのか、まるで周りの景色が、声が彼女の中に入っていっていない。
多分、きっとレトの姿すら見えていない。
では一体彼女の目には、何が映っているというのだ。
「お前、何言って……」
「うるさい!!! お前に分かるかよ!!!! ————————“妹”さえ取られたあたしの気持ちなんて!!!!!!」
ミル・アシュランの心臓が跳ねた。
きっと彼女は、レトヴェールに言っているのではない。
選手席にいる、ミルにそう訴えているのだ。
こっちを向いていなくとも分かる。彼女の声が、そう言っている。
「い、もうと…………?」
「そうだよ、あいつが悪いんだ……全部、全部……!!!」
「……っ」
「そうだろ——————————なァミル・アシュラン!!!!!」
びくっ!!、とミルの体が震え上がった。
レトもその台詞に驚き、不覚にも震えてしまった。
彼女の握った拳が、妙に恐ろしく見えて。
「お前は知らねえだろ? あたしがどんな思いで毎日毎日怯えながら暮らしてたか……」
「……っ?」
「それなのにあいつは……ミル・アシュランは……あたしの知らないところでハルとずっと一緒にいた奴なんだぞ!!!!」
ミルの震えは止まらず、額からは汗が滲み出ていた。
ロティの言葉の数々が、一つ一つ、ミルに突き刺さっていく。
「あたしはあいつを絶対許さねえ……!!!!」
ロティが、両腕を上げた。
天に向かい咲く向日葵のように、その手を大きく開いて。
俯いたままの彼女が今どんな表情をしているのか、分からずに。
「あたしと、ハルと……同じ名前を持つ資格なんて、あいつにはねえ!!!!」
景色が歪む。
ずどんと、大地を揺るがす怒号が鳴り響く。
すると、会場に亀裂が出来始めた。
何だ何だと、誰もが戸惑い観客が動揺していた時。
「ハルの“姉”は————————————あたし1人で十分なんだよォッ!!!!!」
途端、広いこの会場が崩れ始めた。
大きな瓦礫が降ってくる。席に、地面に、大きな亀裂が入る。
観客が怯え叫びながら避難している中で、たった1人だけ。
桃色の髪を持つ彼女だけは、そこから動けずにいた。
蒼い空。
壊れた会場。
割れた大地の上で、佇む2人。
それを見守る、たった1人の少女。
誰もいなくなった会場で——————————今、それぞれの想いが交差する。