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- Re: 最強次元師!! ( No.907 )
- 日時: 2013/04/28 15:08
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第239次元 姉はどちらか
「第九次元——————————発動ッ!!!!!」
長身の女性、ロティ・アシュランの怒りは止まる事を知らず。
周りの景色どころか、彼女にはもうレトも声も届かない。
怒りと哀しみが入り混じった声が、レトの両耳をぶち抜くように響いた。
「——————————心操!!!!!」
蛇梅隊戦闘部隊の、六番隊所属。
セルナ・マリーヌの次元技は、“強加”の一つだけある。
きっとそれと同じ型なのだろう。ロティも“心操”一つだけの次元技。
然しそれは逆に、相手の行動次第で勝機がどちらに向くか大きく変わってくるのだ。
それに毎度毎度技を考える時間も大きく省ける。
彼女は他の人と違って余裕を持って戦場に出てくる事ができる、という訳で。
きっと彼女自身の強さの理由の一つとして、それがあるのだろう。
(……っ?)
今までとは、違うのだろうか。
レトヴェールの体には何の変化もない。
また周りには動かし易そうな瓦礫が転がっているのに、全く微動だにしていない。
何が起こるか分からない。境界線の淵際にいるような、そんな気分。
レトの頬を一つの汗が過ぎると、同時に。
「ぃ————————————ッ!!!?」
小さな声が、喉にまで来て詰まった。
苦しそうに痰を吐くが、それ以上何も出されなかった。
喉がジリジリと焼けるように、心臓が唸りを上げるように、
急にレトはそんな痛みを襲われた。
その衝撃で思わず地面に膝をつく。
「はは……は……そうだよ、この技はなァ」
「うぇ……あ……ァ……ッ!!」
「“人間の心”さえも、操る事ができんだよォ——————ッ!!」
レトの脳裏に、一部の記憶が蘇る。
あれは、蛇梅隊アシュランチームの試合の時。
主将、ミル・アシュランはロティと戦っている時、妙に苦しく藻掻いているように見えた。
喉元を抑え、びくんと体を唸らせ、遂には何かが砕け散ったように彼女は崩れ落ちた。
あの時の様子が、今になって鮮明に蘇る。
そういえば、ミルもこんな状態だったと。
彼女もこんな風に、藻掻き苦しんでいたな、と。
「あいつとおんなじ方法でこの舞台から降りてもらうぜ、レトヴェール!!!!!」
ミルが、俯いた。
震えながら、涙を溜めながら、上を向く事なんかできないというように。
苦しく散っていった自分に重ねて、レトを見るのが怖くて。
そんな時だった。
「あい、つは……舞台、から……降り、ちゃいねーだろ、が……ッ」
掠れたような声。
既に喉は潰れていても可笑しくないのに。
喉を焼き切ったような痛みがまだ、そこで渦を巻いているのに。
彼はまた、口を開いた。
「……何だと」
「ま、だ……ぃん、だろ……そこに、さ……」
左手で腹部を抑え、右手で、ミルを指し示した。
ゆっくりと、まるで釣り上げられているかのように、だらんと腕を動かして。
「……お前も、あいつの味方なのかよ」
ぼそっと、ロティが言葉を零した。
彼女は一瞬気だるそうな顔をする。
恨みも憎しみも、全部込めたような表情で言い放った。
「人の妹をとっておいて、姉面して今更なんだってんだ!!! 勝手にハルを奪い殺したのはあいつじゃねーか!!!!」
それと同時に、レトの口から血が勢い良く吐き出された。
体がガタガタと揺れている。悲鳴をあげているのが、声に出されなくとも分かる。
落とした双斬を苦しそうに、細い目で見ていた。
掴む事は、できない。
「ハルを、殺……したの、は……あい、つじゃあ、な……ッ!!」」
「分かってる!!! どうせ研究の責任者である博士だって言いたいんだろう? でもそんな事言ってんじゃねえ!!!」
「う……ぁッ……!!」
「何も知らないまま10年近くハルと一緒にいて、急にハルが死んだ途端にあれだ!!!
十一次元なんて大層なもんぶら提げて、あいつは笑ってんだぜ!!? そんな非道な事が他にあるかよ!!!!!」
幸せに満ちた毎日の先にあったのは、哀しみに満ちたあの情景だった。
誰一人動かない。真っ白な部屋一面に塗りたくられた真っ赤な色。
でも、あの時。
ミル・アシュランは確かに思ったのだ。
“何故自分だけ生かした?” と。
仲の良かった友達が、皆、367人全員が一斉にして亡くなった。
いや、殺された、という表現の方が正しいのかもしれない。
自分が十一次元を得る為だけに、罪のない友達は全員逝ってしまったのだ。
自分は何も知らなかったのに。
「ハルを殺した挙句十一次元を手にしたあいつに、ハルの姉妹を語る資格なんてねえんだよ!!!!」
「……ィ、ぎ……ぁ……」
「血も繋がってないあいつが、“アシュラン”の名を背負う資格なんて、ねえんだよ——————!!!!」
レトは未だ藻掻き苦しんでいた。
視界が不安定で、双斬が何重にも見える。
確かなものを掴む事が、今の彼にも、そしてミル自身にもできはしなかった。
彼は体の奥底から、じりじりと焼ける痛みに襲われる。
それは、ミルも同じだった。
「……い……か、よ……」
震えていたミルに届いたのは、
とても小さく弱りきった声だった。
「姉妹、に……兄妹に……血の、繋がり……なんて……い、るかよ……!!!!!」
レトの体は既にもう動かない。
限界を超えた先にある、声を出す事さえ困難な状態なのに。
彼の強い響きが、ミルの心にまできちんと届いた。
「……な、ん……だと……!?」
レトは、今度こそ手を伸ばした。
届け届けと、何度心の中で唱えたか知らない。
然し彼の指先には、冷たく光る、友達がいた。
ほんの少し、触れる。
「本当の、姉がどっちか、だと……? んな、もん……もう、分かりきって……んじゃ、ねえか……」
「……」
「ずっと一緒に、いて……守ってくれて……まるで“姉妹”みたいに過ごしてきたのは、どっちだよ……?」
ロティの表情が変わる。
ミルの震えも、止まった。
2人は同じ人間の上にいた。
然し片方は、血の繋がりなんてどこにもなかった。
それでもミルとハルには、確かに繋がりがあっただろう。
それは。
「もう分か、んだろ……?」
「……っ!」
「大切なのは血じゃ、ねえ……——————————“絆”の繋がりだろうがっ!!」
赤の他人。
血の繋がりなんてどこにもなく。
偶然にも、必然にも、出会ってしまった。
そこから、“キョウダイ”になった。
「…………俺だって、同じなんだよ」
レトは双斬を掴んだ。
動かない体を、自分を、必死に動かして。
もう既にボロボロの体で、立ち上がった。
彼の心はまだ、負けてはいない。
「俺にも……——————————」
心臓と、心の跳ねが一致する。
この時何故かレトには。
誰かと両次元を開く時の感覚が、不意に蘇った。
「——————————“絆”で繋がった、兄妹がいんだよッ!!!!」
彼の放った怒号と同時に、放たれた渾身の一撃。
思い切り空を切る。先程とは比べものにならない程の真空波が生まれた。
その紅き刃は牙を剥く。
唸りを上げて、まるで空間さえ切り裂く程の強い風を纏い。
ロティは、動かなかった。
「——————————ッ!!?」
いや、動けなかった。
彼の言葉があまりに強くて。
分かってはいても、ずっと無視してきた気持ちを言われて。
彼女は動く術を、一瞬にして忘れてしまったのだ。
『アシュランっていうのは、あたしが此処に来る前のお母さんの姓……だったかな?
——————ほら、“姉妹”みたいでしょっ!』
彼女は、そんな言葉を、思い出した。
同じアシュランの名を背負い
同じ人物と接してきた2人は
全く別の形の、“姉”だった。
どちらも同じ、姉なのに。
どちらも違う、姉だったのだ。