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- Re: 最強次元師!! ( No.909 )
- 日時: 2013/05/12 12:09
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
- 参照: 遅れました。
第241次元 恨みの矛先
彼女はそこで、佇むようにして立っていた。
彼は彼女を知っている。
彼は、彼女を知っている。
「————————?」
何かを見つめたまま動かないレトに、ロティは首を傾げた。
目を見開いたままの彼は、そこから全く動かなかった。
ロティは、そんな彼の姿を睨む。
「余所見……してんじゃねえーぞッ!!!!」
大地から跳び上がった彼女はレトの許へ前進する。
そして彼は、気付かない。
「——————ッ!!?」
足に衝撃を受けた彼は反応が遅れ、再び痛みをその身に感じた。
掠れた視界の奥にまだ、彼女が立っていた。
「ロ……ぅ、く……っ」
(……? な、なんだこいつ……さっきから何見て……)
ロティは拳を握り締め、ぐっ、と力を入れた。
何があったかは分からない。
然しこれ程の好機はもう来ない。
彼女は大きく振りかぶった。
「……————————————ロクッ!!!!!!」
然し、彼女はそんな声に驚き、思わず退いてしまった。
彼は今、何か叫んだ。
その意味は分からないが、何かに気を取っていかれたようにずっと一点を見ていた。
「ん……————、ッ!?」
その時。
レトは、その腕に力を入れ始めた
血管が浮き上がり、塞いでいた小さな傷口からまた血が溢れ出る。
にも関わらず、彼は何かを我慢するように、腕に全力を託していた。
そして。
「ぅぐ……っらぁ——————ッ!!!!」
岩を、次元技を、ぶち破った。
飛び上がった岩をも無視して、物凄い速さでロティの横を過ぎる彼。
何が起こったのかすら分からず、ロティはただ固まっていた。
漸く指がぴくりと動いて、咄嗟に後ろを振り向く。
そこには。
「ロク————————————!!!!!!」
声を張り上げ、泣き出しそうな目で叫ぶ彼がいた。
追いかけて、足引き摺って、溢れる血も止めずに走って。
ただ、たった一人の少女を、見つめていた。
空にいる彼女は口を開いた。
声には出さず、口だけで何かを伝えようとしていた。
ただ少しだけ、本当にほんの少しだけ、微笑んで。
「———————————えっ?」
彼女は、言葉を言い終わって笑ってみせた。
ふわりと、蒼い空に呑み込まれてしまうくらい儚げな笑みを浮かべて。
レトはずっと、そこで何も言わず立っていた。空だけを眺めて。
「……」
「……くッ……余所見をすんなって……————言っただろうがッ!!!!」
そして忘れ去られていたロティが急反転し、レトの許へ走る。
自分を忘れておいて、意味不明な事ばかりを起こす彼の許へ。
レトは振り向きもしない。ロティがにやっと笑ったとき。
「……な……————ッ!?」
レトは、体を屈めロティの足を引っ掛けた。
見事盛大に転んだ彼女を余所に、彼はまた走り出す。
双斬に手を伸ばし、掴んだところでまた反転。
すぐ目の前に迫っていたロティが操る、瓦礫と対峙する。
「何見てたか知らねえが……余所見ってなァ相手に失礼だぜ? おい……!!!」
「あぁ……わりいな」
レトがふっと空を仰ぐと、そこに彼女はいなかった。
幻だっただろうか。いいや、そんな訳はないと。
何度も葛藤を繰り返し、そして、彼女の言葉を思い出す。
「なぁ……ロティ」
彼の声は普段よりも落ち着いていて、どこか安心のした声色だった。
呼びかけるように、優しく諭すように放った言葉に、ロティが不機嫌そうに応える。
「……あァ? んだよ」
「お前は、本当に——————————ミルを恨んでんのか?」
思わぬ言葉に、ミルもロティも驚愕の表情を作り出す。
一瞬の間を置いて、ロティは少しだけ笑い飛ばした。
「は……何言ってんのお前? さっきから散々言ってるけどなァ————」
「————————お前が恨んでいるのは、“自分”なんじゃねーの?」
レトの声が、妙に落ち着いている事に彼女は気付いた。
そして、彼の放った言葉に、一瞬心が揺らいだ。
何言ってるんだと、言う事もできずに。
「目の前で、妹を助けられなかった自分に……腹が立ってるんじゃねーのかよ」
「……ば、バッカじゃねーの……!!? ふざけた事抜かしやがって!!!」
「お前も俺も多分一緒だ。妹一人助けられなかった自分が……情けなくて仕方ねえんだろ?」
レトは思い出す。
雨の中で、義妹が放った言葉を。
雨の中で、振り払われた右手の虚しさを。
自分の非力さ故に、助けられず、ロクの涙を見た自分を。
「悔しさも悲しさも、全部全部ミルのせいにしたって————————何も解決しねえのに!!!」
自分の悔しさも、悲しさも。
全部全部、ゴッドのせいにしたって、何も変わりはしない。
あの時、ロクを連れていった彼を恨んだって、何も解決しない。
分かっていたから、気付いたから言える。
同じ境遇にいるロティに、言える。
「うるせえ……うるせーんだよ!!!!」
「……!?」
「お前とあたしが一緒……? 自分に腹が立ってる……? 何言ってんだてめえ!!!!」
「いいかげん目覚ませって言ってんだ!!」
「できるかよ!!! ハルの名前だって、知ったのはあいつが死んでからだ!!! どれだけ長い間苦しかったか知らねーくせに!!!!」
ロティの岩が、レトの双剣を弾いた。
傾く彼は後方に滑り、自分を睨むロティを見る。
そんな2人の姿を、一言も発さないまま、一人ミルは眺めていた。
「ああ……知らねーな、んな事」
レトが双斬を握り締めるのと同時だった。
ミルの心が、少しだけ跳ねたような気がしたのは。
その背中が、その立ち姿が、何より綺麗だと思ったのは。
「でも……俺は知ってる——————ミルの強さなら、知ってる!!!」
「……————っ!?」
「きっとあいつは——————お前の数倍苦しんでたんだ!!!」
ミルは、小さな声を漏らした。
彼女は震えて、乾いた頬にまた、滴を零す。
その途端、ロティは走り出し、レトの懐に飛び込んだ。
同時に空中でまわって、自分の足をレトの顔に叩き込んだ。
反応に遅れたレトが横に飛ぶ。
凹凸のある地面を転がり、小さな石にぶつかって少し跳ねそこで倒れ込んだ。
ロティは、ゆっくり歩く。
「はぁ……? ミルが、苦しんでた……? 何言ってんだよ……ぶっ殺すぞガキ!!!!」
「大、事な……友達の、為に……あいつは、あいつは……十一次元を使う事を、決め……たんだっ」
げほげほと砂を吐く。
声を出す事さえ、口を動かす事でさえ激痛が走る。
そんな喉で、彼は思いを言い放つ。
「だ、誰も……誰の死も……——無駄にしない為にっ!!」
「見え透いた嘘……ついてんじゃねーよ!!!!」
「嘘じゃ……————ねえッ!!!!」
立ち上がったレトは、ロティの体を斬り飛ばす。
剣を取り巻く風の勢いと素早い太刀が、ロティを襲う。
彼女は思い切り背中を打つ。
そして腕に力を入れて、咄嗟に上半身だけ起こした時。
「嘘じゃねーんだよ、ロティ・アシュラン」
目の前には、レトがいた。
「——————もう分かってんだろ? お前も、あいつと同じ“姉”なんだからよ」
レトは剣を薙ぎ払う。
あの日。恐ろしく恨んだ自分の右手で。
まるで今までの罪を、哀しみを、苦しみを、消し飛ばすかのように。
力の入らない腕に必死に血を通わせて、必死に全身の力をその右手に込めて。
彼の景色が歪んでしまう程、全てが無に還った瞬間だった。