コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.913 )
- 日時: 2013/05/19 11:00
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第242次元 全てを繋ぐ一撃
薄暗い景色が広がる。
その先には、ロティ・アシュランがいるのだろう。
彼女はレトに吹き飛ばされ、背後に控えていた壊れた会場が飛んだ彼女の勢いを止めていた。
彼、レトヴェール・エポールは思う。
既に元力もギリギリであろう。これ以上戦うと本当に拙い、と。
ロティの怖さはその執念深さにあり、何度も立ち上がりレトに反撃してきた。
今回こそは、やられてくれていると助かるのだが。
(……? やけに静かだな……)
普通ならここで、酷い形相でロティが突っ込んでくる筈なのだが。
彼女が歩いてくるような、近づいてくる気配というものがなかった。
レトは少し、構えを緩める。
「……————っ!」
そこに、いた。
気だるそうにポケットに手を突っ込み、歩く彼女の姿が。
少しだけ長い髪を揺らして、長身の彼女は歩いてきた。
レトは剣を構える。
「……おい、レトヴェール」
彼女はやっと口を開いて、俯いていた顔を上げた。
見事に頬には傷が多い。直接的ではなく間接的にレトが繰り出した技の、風の勢いなどの傷だろう。
頬に垂れた血は固まりつつあり、彼女はそれを拭った。
薄くなった血が、彼女の頬にこびり付いたまま。
「何だ?」
「最後にしようぜ」
は? とレトは思わず変な声をあげてしまった。
緊張感に溢れていた雰囲気を、少しだけ壊されたように。
ロティの唐突な提案に、彼は首を傾げてみせた。
「お互い元力なんて殆どねえ。だから、最後にしようぜ」
「……つまり、出せる元力全部出し切れ、と?」
「そういうこった。……お前のせいで、初めてなんか、空っぽに近い状態になっちまってね」
ロティの口調は悪魔で落ち着いていて、とても優しかった。
然しそれを信じていい訳もない。彼女の演技かもしれない。
レトは、分かった、と口に出す。
「じゃあレトヴェール、ちょっと賭けをしようじゃねーの」
「……賭け?」
「ああ。あたしが勝ったら、ミルを好きにさせてもらうけどな」
「……なるほどな。じゃあ、俺が勝ったら——————」
そこで、ロティはレトが言葉を言い終わるその前に
言葉を、発した。
「——————お前が勝ったら、ミルに全部謝ってやるよ」
今までの事、全部な、と。
ロティはそう言った。
その言葉に拍子抜けになるレトは、大きく目を見開く。
思わぬ提案に驚く彼。
そう、あの彼女が、自らそう言ってくるとは思わなかったから。
「嫌か?」
「えっ? ああ……いや……それで構わない」
「そうか……————————じゃあ」
レトは、ちょっとした違和感を感じる。
今までとは違う風の軌道に。
彼女は本当に、全元力をぶつけてくるつもりだろう。
彼も覚悟を決めて、血に塗れ赤黒くなってしまった双斬を握り締めた。
「いくぞレトヴェール————————、心操!!!!!!」
彼女の怒号に反応した瓦礫が、まるで磁石に引っ張られる金属のように一点に集中した。
小さな岩から大きな岩、瓦礫、鉄板までありとあらゆる物体が重なって、漸く一つの形を成す。
それは、人間のような形をした大きなゴーレムであった。
この大きさ、そして込められた元力を感じるに、九次元級とはとても思えない強さを放っていた。
然しこれは十次元ではない。本当に彼女は、出せる全てをこのゴーレムに託していた。
「……こ、これ……っ!」
「こういう事もできんだよ——————————さぁ全力で来いレトヴェール!!!!!!」
ドシン、ドシン……大きな音が段々、更に大きさを増す。
近づくそれが、遂にはレトの上に被さり太陽が消える。
間近で見れば見る程、その大きさは尋常ではなかった。
大きな岩や瓦礫で形成された不細工な腕が、少し揺れる。
そしてゴーレムの酷く太い腕がぐぐっと後ろへ引き下がった。
大きな腕が、勢いを増し、そして。
「——————————見てろよ、ミル」
小さく勝ち誇った笑みを浮かべて。
そう言い放った口調はとても穏やかで。
言われたミルはまた何も言わずに、何も流さずに。
ぎゅっと、手摺を掴んだ。
何かに縋るように、弱い掌が手摺を掴んだ。
「俺は絶対————————————」
彼の瞳に力が戻ると同時。
彼の腕に力が入ると同時。
彼はもう一度だけ、彼女の言葉を思い出した。
「————————————誰の想いも無駄にはしない!!」
この時、彼には分かっていたのかもしれない。
ロティの心の内側に、あったものが。
彼女が無意識にの内に、心の中にしまいこんでいたものに。
「第九次元発動————————————!!!!」
そしてミルが感じていた不安も、罪悪感も。
キールアやエン、サボコロが自分に託した思いも。
彼の脳裏に、過ぎる。
「————————————万闘円斬ッ!!!!!!」
全てを、この一撃に込めて。
『お、お、おおおお……おっ?』
今まで殆ど出番の無かった実況が、瓦礫を超えてマイクを必死に掴み現れた。
右手に携えたそれを強く握って、割れたメガネを整えた。
「しょ、勝者————————————エポールチーム!!!!!」
突如、今までのとは比にならない程の歓声が沸きあがった。
何と会場の内側に、まだ人が沢山いたのだ。
妙に静まり返っていて、誰の声も聞こえなかったのに。
きっと彼らの試合を見て、思わず黙り込んでしまったのだろう。
真剣に目を凝らし、彼らの試合を見て、見事勝ち鬨をあげたエポールチームに喝采を浴びせた。
未だ鳴り止まぬ喝采と拍手、そして叫び声にレトは苦笑いを零した。
こんな場面、前回もあった気がする、と。
そう思いながら。
レトの全身から、力が抜けていった。
もう戦えねーわ、と小さく零す彼の横では、双斬はえへへと笑っていて。
いつも通りのいつも以上に戻った2人の笑顔は、とても綺麗で。
これで、全て終わった。
正式に、人族代表になれる。
そう。
「いやーお前、やっぱ強いんだな————————レトヴェール」
思っていた。
「……え……————っ?」
どこかで聞いた事のある、大人びた声。
いつかどこかの村の隣町で、偶然に出会った。
知っている顔が、そこにあった。
「よおレトヴェール……会えるの、楽しみにしてたぜ?」
淡く爽やかな青色の髪を靡かせて、彼は現れたのだ。
シェル・デルトール。
剣術を扱う次元師の彼が、そこにいた。
「な、んで……」
「何でって……言わなかったか? 俺は、代表者になる、ってな」
「で、でも……今、決勝戦は終わって———————っ!!」
レトの言葉を、声を、思いを遮るように。
シェルは不敵な笑みを浮かべて、言い放つ。
「“決勝戦は終わった”? 何言ってんだよレトヴェール」
「……————っ!!?」
笑い飛ばした彼の言葉が、レトの心を抉った時。
彼は非情にも続けるのだ。
エポールチームに、絶望の予感を与えるように。
「——————————————決勝戦は、“俺達”と“お前ら”が戦い合うんだよ」