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- Re: 最強次元師!! ( No.914 )
- 日時: 2013/05/26 19:04
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第243次元 超えるべき壁
衝撃的な彼の言葉に、レトは言葉を失った。
レトだけではなく、会場にいたシェル以外の全員が。
何も言えず、何も考えられず。
何故、という疑問が何度もレトの頭を過ぎった。
「そ、れ……どう……いう……」
「あーえっと因みに、俺のチームはなぁ……聞いて驚くなよ?」
「そういう事を、聞いてるんじゃ……!!!!」
『えーえー……ゴホン……実はですねー』
実況が咳払いをして、静まり返った会場に目をやった。
彼は続ける。何故そこに試合とは無関係のシェルがいるのか。
そして、決勝戦の本当の意味を。
『今回のトーナメントには、実は“シード権制度”というものが設けられておりまして、ええ。
第一次予選、第二次予選共に最速、トップで突破したチームのみに与えられる制度な訳です。
そしてそのシード権は、決勝まで進んだチームと、そこで初めて当たる事になります。
今までその事を黙っていたのは、更に大会を盛り上げる為なので……運営委員の指示で御座います』
つまり、元々シェル率いるデルトールチームには決勝へ進む権利が与えられていた。
一次予選、二次予選共圧倒的な速さで突破した彼のチームの存在を知る者もそういない。
二次予選も、通常経緯でのトーナメント進出は4チーム、という意味だったのだろう。
「……っていう意味だ、分かったか?」
「そんな制度……知らなかったし……こんな状態じゃ不利すぎんじゃねーかよ!!! ……っ!? ぐ……っ!」
「んな怪我で大声出すなよレトヴェール。お前重症じゃん……ほら、さっさと医務室行くぞ」
「ちょ、まだ話……は、終わってねー……っ、ぞっ!!」
「……安心しろ、試合は3週間後だ」
「……!?」
「それまでにきっちりに治しとけよ——————大事なライバルがこんなんじゃ、張り合いがねーからな」
レトは、その言葉を聞いてふっと意識を持っていかれた。
全身全霊で戦った彼に今必要なのは抗議ではなく休暇である。
彼を背負ったシェルは、弟を見守るような感覚に包まれながら会場から出て行った。
起き上がって反論する力も残されていない彼は、大きな背中に身を託して眠ったのだ。
「……っ……ん……、ぁ……?」
目を開けると、天井があった。
ぼーっとしたまま、ぼんやりと映った白い天井を見つめるレト。
時計の針だろうか。カチカチと、同じテンポで小さく音が響いているのが聞こえた。
彼は頭を動かす事も、体を動かす事もできずにただじっと天井だけを見つめていた。
まだ霞む視界の中で、彼は少しだけ考える。
ああ、ここは医務室なのかな、と。
「あ゛ー……もう動けねーよう……」
暖かい背中の上で、彼はぐっすり眠っていたらしい。
この間倒れた時間帯が、夕方の6、7時近くだったのだ。
そして今、時計の針は2の文字を刺している。
はて。それだけでは今日が何日なのか分かりもしない。
「あれっ? レト起きたのっ!?」
彼の耳に届いたのは、凛とした綺麗な響きだった。
可憐な声でそう言った彼女は、ひょっこりベッドに顔を出す。
そこには、キールア・シーホリーがいた。
「ようキールア……昨日は凄かったな」
「……はぁ? 昨日? 何言ってるの」
「え?」
彼女は溜息を吐いた。
右手に持っていた板は、どうやら医務関係の物らしいが。
キールアはそれに目を移し、ちらっと一度だけレトの方を向く。
「あんた、それ多分5日前の話だけど」
ぴしゃりと、彼女ははっきりそう言った。
レトはその場から動く事もできない為、顔だけで驚きを表現した。
目を、真ん丸にして。
「え……うぇえッ!!?」
「そうよ。あんた4日も寝てたんだから」
「よ、っか……?」
「因みに私とエンは昨日起きたんだけどね」
彼女は、ほら、というように診断表を彼に見せた。
確かに、ここ4日間、彼の体調の記録がしてあった。
然しどの欄にも彼の状態は【爆睡】と書かれていたが。
これを書いたのは字面的にも性格的にもキールアであろう。
そうレトは心の中でひっそりと思った。
「でも起きて良かった。顔を見た限りだと元気そうだし、1週間あれば完治とまではいかなくとも良くなるわ」
「1週間ってお前……俺、結構怪我酷いんですけど」
「知ってるわよ。でも私の次元技も忘れないでね?」
「ああ……傷口塞ぐ事もできんだっけ?」
「まぁ……うん。一応ねっ!」
然し、それだと彼女の負担が大きいのではないだろうか。
レトはそう思う。
ただでさえこの間の戦いでかなり元力を消耗しているのに。
キールアの本来の次元技である百槍とは別に、慰楽という次元技がある。
それが百槍と少しだけ結びついていて、ある程度以前の技も使えるのだとか。
それを使って、少しでも早く怪我を治す事ができる。
キールアにとって、仲間を助ける事は生き甲斐にも繋がる。
だから良いのよって、彼女は笑った。
「って、あれ……」
「ん? どうしたの?」
「サボコロは? もしかしてまだ起きてねーのか?」
キールアは、少しだけ目を細めた。
そして、うん、と繋げた。
「サボコロもあんたも張り合えるくらいタフだけど、同じくらい重症でね……全然起きる気配がないの」
「そ、そっか……」
「サボコロの場合、弓矢を思い切り心臓付近に撃たれているし、肋骨も何本かいってるしで……」
「……っ! そういえば、エンの足はどうなんだ?」
レトはその時の情景を鮮明に思い出した。
確か、自分の足に八次元級の次元技をぶっ刺していた筈。
自我を保つ為とはいえ大胆な事をした彼の足は、どうなっているのかと。
彼はそれが気になっていたのだ。
「エンは起きてはいるけど、歩いたりするの、暫く禁止されてるの」
「禁止……?」
「ええ……どうも足の骨まで砕いたみたいで、よくもまぁ試合中あれだけ動けたなって医者もびっくり」
「そうか……。あいつ自身、どう思ってんだ? 怪我については」
「そりゃあ本人は、今からでもリハビリする!! って騒いでるよ。明日には爆発しそうな勢いでね」
少し冗談を交えて言ったキールアの言葉に嘘はなく。
エンは足を動かす事、つまりリハビリの要求を昨日からずっと出している。
動きたいですオーラがエンの苛々した表情からも伺えるだろう。
「……なぁキールア」
「? 何よ突然」
「お前、聞いたか? ……決勝戦の事」
ああ、とキールアは声を漏らした。
アシュランチームとの試合は、実は準決勝で。
新たに乱入して来たデルトールチームとの試合が、本当に本当の決勝戦。
勝利を目の前にして打ち砕かれた希望は、絶望へと変わる。
幾ら3週間という長い時間があれど、その程度の時間で治る傷じゃない。
それは4人共同じだった。
「聞いたよ……今朝ね。……でも」
「……?」
「いつかは超えなきゃいけない壁なら、怖い事一つもないよ」
だって、絶対負けたりしないんでしょう?
そう、キールアは笑った。
彼が自分を安心させてくれたあの言葉を言って。
彼女はレトから離れ、今度はサボコロの許へ行く。
戦場でも見たあの後ろ姿が、今にもあって。
そういえば彼女にとっての戦場は、ここでもあったなと。
そして、彼女の言う通りだと、そうとも思ったのだ。
いつかは必ず、超えるべき壁だった事を。
今更彼は、思い出したのだった。