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Re: 最強次元師!! ( No.915 )
日時: 2013/06/02 17:51
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第244次元 捜し求めて

 壊れた会場の、改修工事が行われていた。
 どうやら決勝戦は別の場所で行われるらしいが。
 それでもこの会場は、今後別の事に利用するのだとか。
 観客や選手の控え席も、もう原型は留めておらず。
 そんな荒れた大地と化した会場で、ミルはまだ立っていた。
 然しそこに、ロティ・アシュランが現れる事はなかったが。

 「……」

 彼女は身を翻す。
 シェルによって連れて行かれたレトヴェールを最後まで見送っていた。
 それでも彼女は、そこから一歩も動けなかった。
 彼の言ってくれた言葉が、優しく心に積もったまま。
 動く事も泣く事も、何もできずにずっとそこで立っていた。

 

 
 漸く、彼女は動いた訳だが、どうにも宛はない。
 レト達の見舞いに行こうにも、全員爆睡していて。
 起きる気配もないので、彼女は廊下に出た。
 レトに、言いたい事が山程あるのに。
 
 歩き始めて、少し経ったところ。
 飲み物売り場に行った彼女は、両手でコップを持って俯いた。
 ごくんと全部飲みほして、コップを置いてそこから立ち去ろうとする。
 然しそこで、彼女の全身にブレーキがかかる。

 目の前に、ロティが立っていた。
 
 「あ……」

 あの時の恐怖が、蘇る。
 傷だらけで包帯を巻いていた彼女は、悠々と立っていて。
 とても自分と戦っていた時の、余裕の外見をしていなかった。
 戦い果て全ての力を消失寸前の彼女は、寄り掛かっていた壁から体を離す。

 「よう、ミル・アシュラン」

 そこに憎しみの声色はなかった。
 ロティの顔は、笑ってはいなかったが、怒っている訳でもなかった。
 
 「……はっ、びっくりしたか? あたしがこんなんになっちまって」
 「え……ぁ、い、……いや……」
 「それとも、ざまあみろって、思ってんのか?」

 違う。
 ミルはそう言いたかったが、そう言えなかった。
 喉に引っかかったままの言葉が、妙に息苦しくて。
 声に出せないミルは、ぎゅっとスカートの裾を掴んだ。

 「なぁミル……お前何で黙ってた?」
 「……っ!」
 「あたしが“不正行為”を働いてたって……お前だけは気付いてたんだろ?」

 彼女の唐突な質問に、彼女は応えられず。 
 それでも、否定はしなかった。
 ロティの犯した、不正行為とは。
 ミルはその真実を知っていた。

 「リランとあの金髪が戦ってる時……あの女の次元技にちょっかい出したのは、あたしだ」
 「……」
 「まぁわざと圧縮して微弱な技にしといたから、あの女は気付かずぶっ倒れちまったがな」

 準決勝の第2試合。
 リラン・ジェミニーとキールア・シーホリーの試合の、最後の勝負の時。
 確実にキールアに勝機が傾いていたその瞬間に、ロティはキールアの次元技に細工したのだ。
 
 そう、“心操”で。

 突然操られた百槍は対応できず、自分と次元技のバランスを崩し次元技が発動不可能となった。
 その時気合を入れていたキールアも、勿論その反動で倒れてしまい。
 そう、あれは自然現象ではなく第三者による不正行為だったのだ。
 まさかロティがそれをやったとは、誰も気付かなかったのだろう。
 そう、ミル・アシュラン以外は。

 「人の罪に強く反応するお前の次元技は、一瞬であたしの行為を見抜いたんだろ?」
 「……よく、気付きましたね」
 「こっちは次元技を仕掛ける側だ。同じように反応はするさ」
 
 ロティは、俯くミルの方へ目をやった。
 そう、彼女は疑問に思っていたのだ。

 「どうして——————黙ってた?」

 そう、どうして。
 ミル・アシュランは、彼女の不正行為に気付いていたのに。
 どうしてそれを、誰にも、レトにも運営にも、言わなかったのか。
 一人で気付かないフリして、あの場にずっと立っていたのか。
 
 「レトヴェールに、あたしをこてんぱんにさせる為か? そうして喜ぶ為かよ?」
 「……ち、ちが……!」
 「じゃあ、どうして黙ってた」

 ミルが全てを打ち明ければ、強制的にロティは負けとなった。
 そうすれば、レトが大怪我をする事もなかった。
 それでも彼女は何も言わず、2人を戦わせたのだ。
 
 「ずっと……本当は、迷ってたの……」
 「……迷ってただと?」
 「言うべきか、そうじゃないか……ただずっと……貴方に負けたあたしには、その資格はないんじゃないか、とか……」

 彼女はそれを言うのが恐かった。
 ロティの反感を喰らう事を、恐れた訳ではなかったのに。
 そうやって迷っていた時、彼は言ったのだ。
 彼女に、こう言ったのだ。

 “『必ず証明する————————、お前の強さも、ハルって奴への想いも』”

 と。
 強く言い放った彼の言葉に、言おうと思っていた言葉を全て忘れた。
 迷っていた心が、震えていた喉がぴたっと、止まったのだった。
 彼ならば、自分の言えなかった言葉を、言ってくれるのではないか。
 彼ならば、自分が伝えられなかった想いを、届けてくれるのではないか。
 そう、思って。

 「……資格だぁ?」
 「ハルへの想いの強さで、貴方に負けた……それは、変わらない……——でも」
 「……?」
 「きちんとした形で……こうして……貴方に言いたかった事が、あったから」

 だから、レトヴェールと戦わせる事を、自然にも選んでしまった。
 心の神を義妹とする彼ならば、ロティを本当の意味で負かせる事ができる。
 そうしたら、自分に憎しみを募らせる彼女に、本当の事を言えるから。

 「——————世間から見たらあたしは、紛れもなく“367人の子供を殺した犯人”だったから」
  
 彼女がどう反論したところで変わらない事実。
 それは、彼女が367人もの人間を一斉に殺したという、あの事件である。
 あれはそう、主犯の博士が計画を練り実行したのだが、
 最終的にその実験に成功した当事者は、実験番号ML368のミル・アシュラン。
 つまり彼女である。
 主犯に同意し協力して、己が十一次元を得る為に子供達を殺した。
 こういう事実だけが、上手い具合に世間に流れるのである。
 だからハルの故郷にいたロティの耳にも、その名前と噂が届いたのであろう。
 
 “ミル・アシュランという少女が主犯者に協力して、十一次元を得た”と。

 アシュランという名前を聞いて、ハルと関係が深い事を知った彼女はミルを捜し求めた。
 その時に、ロティ本人にも次元技が覚醒したのだが。
 全く勘違いをしたまま、ミルだけを恨んでミルだけを探し歩き、そうして、見つけた。
 蛇梅隊に所属している事を、彼女は知ったのだった。

 「でも——————あたしがハルを愛していた事だけ、勘違いをしないで欲しかったんです」

 恨まれても構わない。一生蔑まれ責められ何度傷つけられても。
 それでも彼女は、親友の姉に、妹の本当の姉に、勘違いをして欲しくなかった。
 親友を騙し殺したのではなくて、ずっとずっと愛していて、突然目の前から消えた事も。
 今までずっとロティに何も言えずに、誤解させたまま年月は経ち。
 苦しんできた本当の姉に、何の挨拶もできなかった彼女は、今ここで頭を下げた。
 震えた体を、きちんと低く下げて。
 
 「……ごめ、んなさい……、ごめんなさい……!!!」
 「……」
 「ハルを、親友を……護ってあげられなくて……ごめんなさい……!!!!」

 今初めて、彼女はロティに全ての想いを告げる。
 ずっと言いたかった想いを全部吐き出す。
 謝りたくて、ミルも本当は探していたのだ。 
 いつか何処かで出会えたら、心から謝ろうと。
 そう思っていたのだ。
 
 「……」
 
 頭を下げて謝るミルの目の前で、ロティはただ立っていた。
 泣きじゃくる彼女を見て、ロティの腕がすっと上がる。
  
 「……っ!」

 ミルの頭の上に
 その大きな掌を乗せた。

 「……バッカじゃねーの」

 そう、彼女は言った。
 憎しみも怒りも込めずに、ただそう言った。

 まるで姉が、妹を叱るように。
 まるで姉が、妹を慰めるように。
 
 同じ名前を持ち、同じ妹を背負った2人が
 初めて、心を通わせた瞬間だった。

 “血”ではない“繋がり”。

 それはきっとミルとハルの間にあっただけのものではなく。
 ずっと捜し合っていた互いにも、小さく芽生え始めるものだったのではないだろうか。
 然しそれを互いが自覚するのは、ほんの少し後の話だった。