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- Re: 最強次元師!! ( No.916 )
- 日時: 2013/06/09 22:57
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第245次元 本当の姉妹
本当は、ずっと前から2人には見えない繋がりがあったのだ。
それに気付くのが遅れただけで。
それに気付くまで、一方的に片方が恨み続けていただけで。
勘違いがまた誤解を呼び、恨みや罪を重ねてしまった為に、最悪の立場で出会ってしまっただけ。
もう少し、良い形で出会う事もできただろうに。
「ホントお前バカだよな……つくづく思うわ。……ほら、顔上げろ」
すっと、目に涙を浮かばせたミルが顔を上げる。
ロティは相変わらずの無表情で、ミルの頭から手を離した。
少しだけ温もりを帯びた頭から、全身へ。
ミルは、何かが全身へ流れ込んでくるような感覚に包まれた。
暖かくて、大きな掌だった。
「お前があいつを、ハルを……愛してた……それを、誤解すんなだって?」
「……あ……は、はい……」
「……知ってたさ、んな事」
え……、と。
僅かに声を漏らしたミルは、そこで言葉を失った。
そして。
「悪かったな、ミル・アシュラン」
続けて彼女は、ミルにそんな言葉を告げた。
ミルは、都合の良い夢でも見ているのだろうか。
あのロティが、軟らかな声でそう言ったのだから。
ミルに、謝ったのだから。
「あたしは多分、お前が羨ましくて、自分を恨んでただけなんだ」
「……」
「あの男にそう説教されちまったよ……ったくこのあたしがんな事されるなんてな」
レトが放った言葉が、何とロティの心にきちんと届いていた。
あの戦場で彼女は何度もレトに反抗していたが、それでも。
彼は諦めず、彼の思う事を全て彼女に投げかけた。
そうしてどうだろう。
ロティは、その時から既に気付いていたのだ。
自分と向き合い自分と戦う彼に、勝てる訳がないのだと。
ただ何も出来なかった非力な自分を、恨んでいただけなのだと。
「なあミル、あたしを恨むか?」
「っえ?」
「仲間を傷つけお前を傷つけ、挙句お前を殺そうとしたあたしを恨むか?」
ここでロティは不敵に笑う。
ミルの答えは、決まっていた。
彼女はやっと、ロティと向き合った。
「いいえ、恨みません」
強い口調で、そう言った。
迷いのない瞳は、嘘をつかず。
はっきりとそう答えた彼女は、続ける。
「ハルを、ずっと想ってくれていたのに……どうしたら恨めるのですか」
彼女の視界が、再び霞んだ。
歪んだ景色に、ロティがいて。
彼女にずっと会いたかったミルが、彼女を恨む筈などない。
分かりきった事を聞かないで下さいと言うように、ミルはほんの少し微笑む。
僅かな涙を浮かべて、懸命に笑ってみせた。
「……————そうかよ」
ミルは涙していたので気付かなかったが、
この時確かに、ロティは優しく笑っていた。
憎悪の欠片もない、綺麗な笑顔で笑っていた。
彼女は、すっとミルの横を過ぎる。
「これからは足引っ張んじゃねーぞ、ミル」
振り向きもしないで、彼女はそう言った。
その表情は分からない。どういう顔をしているのか。
それでもロティは確かに、軟らかな笑みを、浮かべていた。
「————————同じ“アシュラン”の名を背負うなら、覚悟しとけよ、“妹”」
強い夏風が、窓から吹き込んできた。
揺れる桃色の髪が、忙しく踊っているようで。
彼女の耳に届いた言葉が、何より温かかった。
ミルは、咄嗟に振り返る。
そこにロティはいなかった。そして突然、じわりと涙を浮かんできた。
自然にぽろぽろと落ちる雫が、熱を帯びた頬を過ぎてく。
熱を帯びた心に、溶け込んでいく。
彼女はまた、小さく笑った。
「ロ゛ディ〜〜〜っ!!!!!」
廊下から消えたロティの目の前にいたのは、ぐしゃぐしゃのリランだった。
溢れた涙でもう表情が凄い事になっている。
そんな妖怪みたいな顔をしたリランに、ロティは凄く驚いた。
「ちょ、おま……なんつう顔してんだよ、妖怪みたいだぞ……」
「ずっごい感動じだぁっ!!! ロティがぁ、ロティがぁぁっ!!!」
「はぁ? 感動? 何言って……ってうぉっ!?」
突然、頭にチョップを喰らったロティ。
レトに散々ぶっ飛ばされたので、ちょっと小突いただけでぐわんぐわんとくる。
ちょっとだけ眩んだロティの後ろにいたのは、必死に背と手を伸ばしたセシルだった。
彼女も少しだけ、涙を浮かべて背伸びをしていた。
「ロティ……貴方という人は、本当はあんなに優しかったのですね……っ!」
「驚天動地……まさかあんな展開にまでなるとは」
「お……お前らなぁ……!!!!」
少しだけ頬を赤めたロティが、3人を追いかける。
今まで仲間にも非道な性格っぷりを振り撒いてきた彼女。
それが今、本当に初めて素直になってミルに謝り笑っていた。
優しく微笑んだロティがあまりに魅力的すぎて、若干2名は泣いていたのだ。
あのテシルまでもが驚いたくらいだ。相当今回の件は3人にとって衝撃的だっただろう。
「良かったですね、ロティ……どうやら貴方も人間だったらしい」
「けっ! ……皆してバカにしやがって……てめえらマジで覚えとけよ」
「はいはい。ではこれからどうしましょうかリーダー?」
「はぁ? ——————んなの、決まってんだろ!」
楽しそうに笑うロティに続くように、4人は歩き出した。
何をするのか、そんな事決まっている。
少なくとも、エポールチームの見舞いなど行かないだろうが。
4人は広い廊下を、ただただ真っ直ぐに突き進んだ。
何の迷いもなく、真っ直ぐに。
レトヴェール達が、準決勝で激戦を終え、医務室で眠っていた頃。
蛇梅隊本部内の班長室で、エポールチームが決勝へ進んだと報告を受けたセブン戦闘部班班長。
彼はがしゃんと受話器を置いて、じっと怪訝そうな目で書類に目を通していた。
今までの彼とは違い、何かに悩み耽ったような真剣な眼差しで。
「……」
その時。
コンコンと、心地の良い音が鳴り響いた。
失礼します、と良く通る声が聞こえて、続いてドアが開く。
入ってきたのは、片手に書類を携えたコールド・ペイン副班長だった。
「セブン班長、隊員の今回の任務に関して、依頼主から感謝状が……」
「コールド副班、今、少し良いかな」
「届いてって……へ? あ、ええ……構いませんが」
「まぁほんの2、3分だ」
コールド副班は、何でしょうか、と聞いた。
いきなり鋭い声で言われたものだから、本人もびっくりする。
何時になく真剣なその表情に、少しだけ背筋が凍った。
「ここ最近になって更に、なんだが……神族の動きが妙でな」
「神族の動き……ですか?」
「ああ……元魔の被害情報が半年に渡ってゼロ、というのがどうも気になるんだ」
「はぁ……確かに、妙ですね」
そして、と。
そう彼は続けた。
セブン班長は、じっと机上の紙を睨み、顔をあげた。
「ここ数年————————【運命】による被害さえも、なくなっているんだ」
静かにそう告げた班長も、そしてそれを聞いたコールド副班長も。
この事実に、驚かざるを得なかった。