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Re: 最強次元師!! ( No.917 )
日時: 2013/06/16 10:00
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5PvEL/lW)

 第246次元 副班のお仕事

 淡々とした口調でそう告げたセブン班長に対して、コールド副班は声も出なかった。
 彼が放った、衝撃の一言。
 【運命】による被害が、数年に亘って全くと言って良いほど無くなっている。
 極悪非道な彼の事だ、そんな事態は在り得ないと言って良かった。

 「そんな……あの“デスニー”による被害が、ですか……!?」
 「ああ……被害にはあったが、それを免れている“例外”なら、存在するのだがな」
 
 え、と。
 コールド副班は聞き返す。
 
 「蛇梅隊戦闘部班、一番隊の2人と【妖精】……いや、ロクアンズ・エポールの3人、だがな」

 セブン班長ははっきりとそう告げた。
 ここ数年の中で被害に遭ったのはこの3人のみ。
 レトヴェール・エポール、エン・ターケルド、そしてロクアンズ・エポールである。
 彼らは偶然にも、【運命】に命を奪われなかった。
 その代わり、体の一部を貰い再度挑みに来る事を要求していた。

 「……レトヴェールとロクアンズの2人なら、なんとなく想像はつくのですが……」 
 「問題はエン、か……」
 「そうですね。……3人共、元霊持ちではありますが……」
 「……それだけの理由で生かす事はまずない。他にも理由がある筈だと、私は思っている」

 デスニーだけではない、最近の神族の妙な動き。
 深い意味があって行われている事だとすれば、それに対して恐怖さえ感じる。 
 そう班長は思っていたのだ。
 真剣な面持ちだった班長の顔が、少しだけ綻ぶ。

 「すまなかったね、呼び止めてしまって……もう下がっていいぞ」
 「え、あ……はい。では、失礼します」

 ぺこりと頭を下げたコールド副班は、持ってきた資料だけ置いて部屋を後にした。
 ぱたんという音が響く。
 その時、班長の顔は既に険しく変わっていた。


 
 ただ広い、寂しげな廊下。
 真っ白で汚れ一つない綺麗な廊下を、コールド副班は歩いていた。
 手ぶらになった手は、頭を掻いていて。
 彼は溜息を吐く。

 「……? どうかしましたか? コールド副班長」

 この綺麗な声色は、とコールド副班は振り返った。
 藍色を連想させる髪色は、目の前でふわりと揺れる。
 子首を傾げたその声の主、フィラ副班長の肩には相変わらず蛇が乗っていて。
 小さな蛇、蛇梅もまたフィラ副班の動作と連動して首を傾けた。

 「フィラ、お前こそこんなところで何してんだ?」
 「え? 私は今、談話室でミラルの愚痴を聞いていたんです」
 「はは……あいつも相変わらずだな」
 「ええ。序に提出しなきゃいけない書類があったので、自室に取りに戻っていました」
 
 フィラ副班は、幾重にも重なっている書類をひょいと上げる。
 そこには“器物損害賠償金の請求 及び当事者の処分概要”と書かれていた。
 コールド副班の口は苦しそうに歪む。

 「これ……もしかして」
 「あ、はい。……ちょっと、というかかなりセルナが暴れてしまって……」
 「処分関連の書類なんて、レトとロク以来だな、おい……」
 「はは……本当ですね」
 
 ここで、コールド副班はつい数分前の会話を思い出した。
 班長が言い放った、神族の奇妙な動向。
 今神族は何を考え、神族に何が起こっているのか。
 それすら分からないもどかしさと焦りで、本当はいっぱいいっぱいだった。
 コールド副班がまた、髪をくしゃりと乱した。

 「……何か、あったんですか?」

 心配げに聞くフィラ副班。
 然しコールド副班は、笑って誤魔化した。
 別に、何でもないよと。

 「ところで、さ……フィラ」
 「あ、はい! 何でしょうかっ?」
 
 ぱあっと明るくなったフィラ副班に、少しだけ微笑んだ彼。
 先輩であるコールド副班に頼られる事が、きっと嬉しいのだろう。

 「班長って……俺達に何か、隠してるように思えないか?」

 衝撃的な一言に、フィラ副班は一瞬だけ時を忘れた。
 そう言ったコールド副班も、視線をずらす。
 驚きに満ちた彼女は、うっかり書類を落としそうになって慌てて支える。

 「そ、それ、って……っ?」
 「俺の推測だ。絶対とは言えない……でも何か、班長と俺達の間に距離があるな、って」
 「距離、ですか……?」
 「時々班長が本当は誰なんだか分かんなくなるんだよ……可笑しいだろ?」
 
 笑った顔は、笑っていなくて。
 フィラ副班の目が曇っていたのに、コールド副班は気付かなかった。
 彼女の藍の髪が揺れて、顔が隠れる。

 「……、長は……」
 「……?」
 「班長は……セブン君は……昔から、リーダーシップの取れる人だったんです……」
 「昔から、そうなのか?」
 「ええ……責任感強くて頼れる人で、でも……」

 フィラ副班の発言が、止まる。
 ぎゅっと書類を抱え込んで、すっと綺麗な顔を上げた。

 「痛い時、苦しい時……「痛い」って、「苦しい」って、絶対に言わない」
 「……」
 「秘密主義で、我侭でもあって……人一倍正義感強い、そんな人なんです」
 「……フィラ……」
 「班長が何かを隠しているのは、きっと今……凄く苦しいからだと、私は思います」
 
 へへ、と笑った彼女の顔はとても苦しそうだった。
 コールド副班は、そんな彼女の頭にぽんと手を乗せる。
 そしてくしゃくしゃに撫で、振り返って一歩、前へ踏み出した。

 「バカだな、俺も……」
 「……?、?」
 「班長が出してるサインに気付くのは、いつ何時であれど、俺達の役目なのに」
 「……コールド、副班……」
 「班長がもし苦しいって言ったら、その時は俺達で支えてやろう、フィラ」

 それがきっと、副班にとって最も大事な仕事だ。
 最後にそう言って、広い廊下を突き進んで行く彼の背中。
 何故か、とても広くて温かそうだな、とフィラ副班は思う。
 そして書類片手に、談話室で待ちぼうけを喰らっている親友の許へ戻って行った。
 
 この時確かに、2人は知らなかった。
 この2人だけでなく、他の副班長も、研究部班も、援助部班も。
 そして戦闘部班隊員でさえ。
 
 班長は椅子から立ち上がり、険しい表情のまま、班長室を後にした。
 向かった先は、隊長室。
 蛇梅隊全体を仕切る、最高責任者。
 その男は、こんこんと鳴り響いた音に反応して、くるりと椅子ごと回る。

 「……どうしたのかね、セブン班長」
 「ええ、少し————隊長殿に、お話が御座いまして」

 向き合うのはいつ以来か。
 緊張の糸が走る中、2人は言葉を紡ぎ合う。
 まだ誰も知らない事実を、明かすように。

 
 「……? どうしたの、蛇梅?」


 ぶわりと強く流れ込む風。
 蛇梅は、震えていた。
 温い風は、フィラ副班のいる部屋を、和やかに吹き抜ける。