コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.918 )
- 日時: 2013/06/30 18:02
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5PvEL/lW)
- 参照: 先週は胃腸炎に襲われていました。
第247次元 それぞれが
「納得いかん」
ぴしゃり、と。
エン・ターケルドは言い切った。
彼の目の前には、はぁ、と溜息を吐くキールア・シーホリーがいる。
彼女はじっと、彼の足を見て言った。
「納得いかない、って……無理だよまだ、その足じゃあ」
「然し俺達には、そんな時間はないだろう。早く鍛錬に行きたいんだ、許せキールア」
「……ダメったらダメ! 第一、まともに歩く事もできないくせに」
めっ! とキールアが言った隣にはまだ、サボコロ・ミクシーが寝息を立てていた。
一向に目を覚まさない彼に目をやったエンは、キールアの方へ顔を向きなおす。
「奴には、借りがあるんだ……起きた時に無様な姿を見せたくない」
「……無様な姿? 何を言ってるの、本当に死ぬところだったのにっ」
「……っ!」
「お願いだから、生きてる事に感謝して。その傷は、全然無様なものじゃないわ」
医者の娘としてのプライドか、千年続いてきた医師一族としての誇りか。
彼女の目はとても真剣だった。
エンは、諦めたのか、息を吐く。
分かったと、言わんばかりの顔で。
「分かった、だからせめて歩かせてくれ」
「歩く? できるの?」
「杖を使えばなんとかな。飲み物を取ってくるだけだ」
「……ふーん」
あまり信用していない目でじっとエンを見つめるキールア。
目を細めた彼女は次に、こう告げる。
「ダメ」
「……!?」
「私が取りにいく。今は安静にしてて」
「……俺が行く」
「ダメ」
今度はキールアがはっきりそう言った。
彼女はくるりと回って、一歩踏み出す。
何の飲み物が良いかを聞こうとし、顔だけ振り向いた時。
白くて細い腕に、冷たい感触が走った。
「……えっ?」
彼女の腕を掴んでいたのは、エンだった。
「俺が……行く」
「……エン」
「これだけは譲れん。頼むから、俺に行かせてくれ」
エンの瞳もまた真剣なもので。
キールアは、そんな真っ直ぐな瞳に驚いた。
綺麗なその瞳に、ほんの少し見蕩れて。
「分かった……分かったから」
「……うん」
「そのかわり、私も一緒に行く」
エンは素っ頓狂な声を上げる。
あまりにも無表情で、キールアがそう言ったから。
思わず彼は、キールアの腕から手を離した。
「エンが倒れたら、誰が手助けするの? まさか光節には無理があるし」
(き、キールア殿……)
「だから私も一緒に行く。私にだって、シーホリー家としてのプライドがあるもの」
エンは諦めて、分かったとまた呟いた。
そうして松葉杖に捕まったエンの隣で、キールアが歩き出した。
2人は、同時に部屋を出る。
勿論、取り残されたのは眠ったままのサボコロと
2人の会話を、一部始終どころか全部聞いていたレトヴェールの2人な訳だが。
激しい応酬に一言も口を挟めなかった彼は、やっと大きく息を吐いた。
まるで今までずっと息を止めていたかのように。
緊張の糸が急にぷつんと切れ、彼は肩を竦める。
「? どうしたの? レト」
「え? あぁ双斬か……いや、すげえなって」
「何がー?」
「2人とも……一歩も退かねーんだもん」
お互いにプライドもあり、珍しく長い間喋っていた2人。
言い合いをしているところは本当に珍しい、というより初めてではないだろうか。
一見大人しく温厚に見える2人だが、実はそういった事には妙に熱くなる。
サボコロとエンが言い合っている姿が、急に浮かんできた。
「何だよレトかっわいいなーっ!」
「はぁ?」
「妬きもち、でしょっ!」
「……お前の思考回路はどうかしてんのか」
違うよ、とレトは言った。
最早双斬以外この場で話す相手がいないレトは、すっと前を見る。
向こう側にある白い壁を、じっと見つめたまま動かない彼。
弱りきったその手は、ぎゅっとシーツを掴んでいた。
「なぁ、本当に……本当に、ロクは、いたよな?」
静かな声は、広い病室の中ですっと消えゆく。
聞こえている筈もないサボコロは、気持ち良さそうに眠っていて。
双斬は、思わぬ一言に言葉を失った。
「俺、見たんだ……笑ってた、ロクを見たんだ」
「レト……それ、って……」
「分かってる……いる訳ないって、分かってんだけど……」
固い決意が紐解かれた瞬間と言っても良かった。
淡い空の上には笑った彼女がいた。
長い髪を風に遊ばせ、右目を閉じた彼女は、無邪気に笑っていた。
最後に見た彼女とは違う、皆が信じた彼女の形。
昔と違わぬ姿だったロクアンズは、レトの目の前に現れ消えた。
「ごめん……僕、あの時は何も見えなくて分かんなかったんだ。レトが叫んだから、気付いたんだけど」
「そういえば俺、お前の事置き去りにしてたっけ」
「そうだよ……僕を無視して走っちゃうんだもん、何があったか心配だったよ」
悪かったと言わんばかりの顔で苦笑いを作る。
この決定戦で、何度かレトの目の前に現れていた彼女だが、本当にそれは本物だったのか。
あまりにもロクに会いたがっていたレトが見た、幻覚だったのではないだろうか。
今思うと、どれも確かなものはなく、不安定なものにしかならなかった。
レトは、伸ばしていた背中を曲げる。ぼふっと上半身を倒す。
ずっと上にあった蛍光灯が、眩しく見えた。
それから、1週間経った日の事。
1週間後を決勝戦に控えた3人は、朝から外へと足を運んでいた。
3人、というのはレトとエンと、そしてサボコロである。
5日ほど前にサボコロは目を覚まし、驚異的な回復力で徐々に良くなっていった。
キールアもその再生力を奇妙に思っていたが、本人がぴんぴんしていたので良しとした。
そうして男子3人は場外へ、キールアもどこかへ消えていた。
最近までもの静かだったのが嘘のように、騒ぎ鍛錬に力を入れる彼ら。
その姿が、外で見受けられる。
「う……くっ!?」
「反応が遅いぞレト!! それでは奴らには勝てん!!!」
遠距離を得意とするエンの攻撃に、レトは双斬で対抗していた。
ここは外、と行っても郊外で、周りには木々自然しかない。
何処から敵が現れるか分からない緊迫とした空気の中で、エンとレトは特訓していた。
サボコロは起きるのが遅かった為まだ不安定だが、それでも一人で練習をしているようで。
元気になった途端に動かれて、正直キールアは何度溜息を漏らした事か。
そんな3人は、良くも悪くも動き続けていた。
「そっこだぁーっ!!」
ざッ!! と一本の木を切り払うように、ぶんと剣を薙いだ。
木の影にいたエンが、驚いて木から落ちる。
どでん! と大きな音が響き、木の葉が舞った。
「へへーん、やっと見つけたぜ」
「良く分かったな……不特定に矢を放っていた筈なのだが」
「結構俺も場数踏んでっからなぁー……ロティもこういう感じだったし」
「なるほどな……して、あのバカは?」
「へ? あぁサボコロの事か? あいつは多分、川にいるんじゃないかな」
「川だと?」
「ああ……多分、精神集中の修行だな。あいつが一番冷静保ってられないタイプだし」
「……奴なりに、弱点は克服しようとしている訳か」
「ま、そういうこった」
もしかしたら、エンに迷惑をかけない為なのかもしれない。
レトは密かにそんな事を思っていた。
さっさと土を払って、エンは立ち上がる。
きっと彼にも、サボコロの考えている事が分かるのだろう。
バカめ、と小さく言葉を零した。
2人は、休む間もなくもう一度練習に戻る。
形は違えど同じ思いを抱く4人は、そうして1週間後を迎えた。