コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.926 )
- 日時: 2013/07/21 21:14
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: kcbGQI7b)
- 参照: アメブロ、Twitter、skypeなど多様な面で活動中。
第250次元 その背に全てを託して
心地の良い風が吹き抜ける。
長い間過ごしてきたこの部屋とも、今日でお別れ。
昨日のうちに綺麗にしておいた部屋を、4人は後にする。
少し名残惜しい気もするが、それも仕方がない。
今日は、人族代表者トーナメント決勝戦。
誰もが望み憧れる、代表者を決める戦い。
それが、今日この日に行われる。
見事トーナメントを勝ち抜いてきたエポールチームは、廊下を歩いていた。
万全の体調に、最早傷一つ見えない元気な体で。
いつもと違う雰囲気に包まれていた4人は、顔には出さないものの緊張はしていた。
そして、強い追い風の舞う会場へと、足を踏み入れた。
「す……っげ……」
「正に決勝戦だな……」
「観客増えてねーか……!?」
「こんなに大勢の人見たの、初めてかも……」
今までの比に、ならなかった。
中には次元師もいるかもしれぬ会場には、収まりきらない程の人の波。
連なる人でいっぱいの会場には、立って観戦している者も。
レト達はその観客の多さに圧倒されながらも、選手席へ向かう。
その近くには、なんと。
「お、お前ら……!?」
蛇梅隊の全員が、レト達の選手席の後ろの席に座っていた。
勿論それは副班長を除いた、7人。
ミル、ガネスト、ラミア、ティリ、ルイル、セルナ、そしてリルダ。
7人共、晴れ晴れとした表情でレト達の入場に拍手をしていた。
「僕達ではなれなかった英雄に、なって下さいね! ここから応援してます!!」
「……まぁ、一応応援はしといてやるよ」
「私も……応援は、する。……頑張りなさいよ」
「やっほーい! 頑張ってね4人とも!! ルイルも応援してるよっ!」
「が、頑張って下さいね……!」
「僕、も……皆さんに、か、勝ってほしい、です……っ」
皆が、エポールチームの優勝を願って。
素直じゃない者もいるが、4人は快く応援を受け取った。
レトは、一番真ん中に座っていたミルに気付く。
彼女は、とても穏やかに微笑んだ。
「ありがとう……レト」
その声は、普段悪戯好きで、元気溢れるミルの声とは思えない程優しかった。
ずっと言いたかった言葉を、伝えたい気持ちをその声に込めたのか。
ミルは、言葉を紡ぐ。
「凄く……嬉しかった。レトの言葉の一つ一つが、心の中で響いてくみたいで」
「へっ? え、あぁ……まぁ、あれは思った事を言ったまで、なんだけど……」
「それでも、本当に嬉しかった! ありがとう——————あたし、貴方と……貴方達と、“仲間”で本当に良かった!」
最初に救ってくれたのは、ロクアンズ・エポールだった。
優しい心と揺るぎない決心が、ミルを救い上げた。
眩しい程の優しさが、ミルの凍りきった心を温めた。
次に彼女を救ったのは、レトヴェール・エポールだった。
同じく血の繋がっていない妹を持つミルと、自分を重ねて。
そうして感じた想いをぶつけた彼は、恐怖で震えたミルから、その全てを薙ぎ払った。
2人に出会えた事を、誇りに思うように。
ミルはいつも通り、元気な声で、決して嘘のない言葉で笑う。
「あたしも応援してるから! ……絶対勝つって——————貴方達の強さ、信じてる!!!」
レトがミルの強さを、信じたように。
ミルも心の底から、彼らの強さを信じていた。
以前のように、無邪気に笑ってみせる彼女は本当に幸せそうだった。
レトは、おう! と応えてみせた。
「——————おいおい何だよレトヴェール、あたし達は無視なワケか?」
突然に聞こえたのは、強きな男口調で。
でもその声は男性にしては高く、女性にしては少し低めの、そう。
まるで3週間前にレトが戦場で聞いた、あの人の声にとても似ていた。
「え……え——————ロティッ!!?」
ロティが、ぶらぶらと手を振っていた。
蛇梅隊の更に後ろの席に、それも他多数の人間を引き連れて。
彼女だけではなかった。今まで戦ってきた敵陣全員が、そこにいた。
「負けたら許さないから、覚悟してね? 可愛い坊やっ!」
「へ? ……ってムシェル!!?」
「私も……応援、してます……」
「……ファイまで来ているのか」
「私もですキールア・シーホリー。負けたら承知しませんですから」
「る、ルルネ……っ」
「……ふん。せいぜい無様な姿は見せるなよ、レトヴェール」
「り、リフォルもいんのかよ……おいおい、どうなってんだ?」
混乱している4人は、まだ気付かない。
その4人の隣に座っていた、別の4人組に。
そう、中心辺りに座っていたロティの隣にはまだ3人座っている。
ちらっとロティの方を向いたレトは、やっとその存在に気付く。
「って……お、おお前らまで!!?」
いたのは、ロティ・アシュラン率いるアシュランチームの面子だった。
「私達を倒しておいて、ここで負けようものなら本気で殺しますからね、お二方」
「げ!! セシル!!?」
「悪木盗泉……戻れぬ道なら、進むまで。……負けるなよ」
「わ、分かっている……テシルよ」
「キールアちゃんっ、あたしも応援してる! でも負けたらぴょーんってしちゃうからね!!」
「ぴょ、ぴょーん……?、?」
「もう1回見せてくれよ、あたし達をこてんぱんにしてくれた————てめえらの強さってやつを!!!」
一斉に、15人の視線が集った。
自分の仲間と、自分の敵と。
それなのに、何故か全員が仲間のようで。
まるで全員が、最初から仲の良かった仲間のようで。
ロティは、小さく息を吸う。
「もう1回言うぜ————————————ぜってえ勝ってこい!!!!!」
頷く仲間達。
レト達は、お互いの顔を見合わせる。
そして、向き直って。
「「「「———————————もちろんッ!!!!」」」」
全員の想いを、その背に託す。
逞しく成長した4人は、この戦いが始まった時とはまるで別人だった。
真実の嘘を暴き、不屈の心で地獄から這い上がり、
そうして辿り着いた次元師の戦いの中で、大きく成長した4人。
次元技が覚醒したり、両次元発動したり、限界を超えた勝負を繰り広げたり。
いつだって生と死の境界線の上にいた4人だったが、全て困難は乗り越えてきた。
負けても尚歯を食い縛ってここまで辿り着いた。
あとは、託された使命に、強き願いに、応えてみせるだけ。
「エン、サボコロ……キールア——————————いくぞ!!!!!」
「「「おう————————!!!!!」」」
ここに再び、強い絆が誕生する。
誰も負けはしないと、また固く決意を結んだ。
4人は、会場へ目をやる。
立っているのは、良く見知った4人組。
シェル率いる、デルトールチームのメンバーだった。
「さぁ始めようぜ————————レトヴェール!!!!」
会場は、今までの比にならない程広く大きかった。
決勝戦用に用意したものらしく、場所もこの間とは違う。
吹き荒れていた風も、シェルの叫びによって掻き消される。
エポールチームが会場に降り立ったところで、お馴染みのアナウンスが流れた。
『えーえー……ではこれより————————————決勝戦を開始します!!!!!!』
上がる歓声の中に佇む8人は、落ち着いていた。
デルトールチームの方は、シェル以外皆フードを被っていたが、エポールチームには分かっていた。
分かっていて尚、それを口には出さなかった。
景色に乱反射する歓声の中で、怒号の中で、またもアナウンスが響く。
『尚、決勝戦は今までとは違う戦闘形式で戦ってもらいます。なので説明を良く聞いて下さい。
決勝戦には、今までにあった第1試合、第2試合といったものがありません。
4対4のガチンコバトル——————先に敵の大将を討ち取った側の勝ちとなります!!』
ざわつく会場で一番驚いていたのは、勿論エポール・チームだった。
これは、神人世界戦争のルールに基づいている。
戦争では、先に大将を倒すか殺すか、降参させた方が勝ちという至ってシンプルなルールになっている。
その練習も兼ねての戦闘形式だろう。異論の声は上がらなかった。
『えーっと……それでは、双方準備は宜しいですか?』
喧しい観客の声と、吹き荒れる風を除けば、静寂であっただろうこの場所。
デルトールチームは、全員フードを脱ぎ捨てる。
そこにいたのは——————紛れもない“奴ら”で。
今更動揺もしないレト達が、ほんの少し構えをとったところで。
それでは、と。聞き慣れたアナウンスが響き渡る。
『人族代表決定戦最終選考決勝戦—————————————開始ィィ!!!!!』
「「「「「「「「次元の扉——————————発動!!!!!!!!」」」」」」」」
激しく響く次元師達の決意で————————最終決戦の火蓋は、切って落とされた。