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Re: 最強次元師!! ( No.933 )
日時: 2013/08/25 18:31
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: kcbGQI7b)
参照: 【本編】アメブロ、Twitter、skypeなど多様な面で活動中。

 第253次元 サボコロの修行事情Ⅰ

 「……!?」

 くくく、と楽しげにリリエンは笑った。
 続いて、挑戦的な瞳を、戸惑うエンに向けた。
  
 「攻撃してみろよ! どうせできねーけどな!!」
 「遊んでないでさっさと片付けるわよりリエン!! ——————音振!!!」

 ばっと鈴がついた紐を広げるリリアン。
 じゃらっという響きが、合図となるように。
 途端に、地面ががたがたと震えだした。

 「な、何だ……!!?」
 「く……っ、これじゃあ身動きが……!!」

 震動の止まない地面で、2人がうろたえている時。 
 太い縄がびゅるんという音を奏で風を泳いできた。 
 エンとサボコロは、そこから身動きもできず、その縄にすら気付かず。
  
 (————捉えた!!)

 リリエンが、そう心の中で確信した。
 正にその時。

 「く……ッ——————炎撃ィィッ!!」

 体勢を崩したサボコロが、強く腕を伸ばす。
 彼の腕を取り巻く炎が、伸びてきた縄に引火。
 その縄の元を掴んでいたリリエンは、咄嗟に腕を引く。 
 燃える縄の火を消すように、バチン!! と地面に縄を叩きつけた。

 「へえ……上手いじゃん。でも君にしては、少し威力が弱かったんじゃない?」
 「……」
 「ねえ、怖気づいてんの?」

 頬に汗を滑らせたリリエンは、その場から少し離れる。
 地面の揺れが、収まった。

 (あっぶねえー……成功して良かったぜ)

 サボコロは、すっと腕を下ろす。
 確かに、彼の次元技にしてはいつもより迫力が足りない。
 次元級が低い訳でもなさそうだ、とエンは思う。
 
 実は、彼はここ1週間、ずっとこの修行をしていたのだ。





 
 「……“元力の圧縮”ぅ?」
 「あ、ああっ! お前なら分かると思ってな!」

 今から1週間程前のこと。
 サボコロは、ずっと自身の元力の扱い方に悩んでいた。
 元より元力の扱い方が下手な彼は、通常の300倍以上もの元力を有しその扱いに長けたミルに頼みこむ事に。
 勿論彼女は彼の頼みを快く引き受けた。が然し。
 
 「……多分、あの子の方があたしより上手いと思うんだよね」
 「へ? あの子って?」
 「すぐ呼んであげるから、今日は休んで。明日からみっちり修行しなよ!」

 ミルはそう言って微笑み、さっさと部屋に戻ってしまった。
 サボコロは仕方がないので、その日は一日中体を休ませる事にした。

 次の日。
 ミルに言われて滝つぼの方で座ってぼーっと待っていたサボコロ。 
 暢気に空に浮かぶ蝶なんかを見つめながら待っていると。

 「あ、あのー……」

 申し訳なさそうな、小さな声がサボコロの集中を断った。
 びくんとした彼は咄嗟に振り向き。

 「……へ?」

 そこに立っていた、彼女に驚く。
 もじもじと俯き立っていたのは、紛れもないセルナ・マリーヌだった。

 「せ……セルナ!? な、なんでお前ここに……!」
 「え、えと……ミルさん、に頼まれて……その……」

 まさか、セルナを連れてこられるとは。
 サボコロは半分がっかりし、半分は驚きに満ちていた。
 
 「もしかして、お前が俺の修行に?」
 「は、はい……い、一応……」
 「お、おう……」
 「……あの、時間も、勿体ないので……始め、ますか?」

 そう言ったセルナに応えるべく、サボコロはよいしょと腰を浮かせ立ち上がった。
 どう考えても、元力を扱うのに慣れていなさそうな人を連れてこられてしまった。

 (こ、困った……)

 彼女はお世辞にも、強いとは言えない次元師であった。
 元力量も一般より少し多いくらいで、蛇梅隊から見たら少なく、加えて実戦向きではない。
 これは性格上の問題にもなるが、決勝戦の修行には不釣合いな人材ともとれる。

 「えっと、まず俺どうすりゃいい?」
 「あ、はい。サボコロさんは、元力の扱い方、制御法に悩んでいらっしゃるんですよね?」
 「あ、ああ……」
 「サボコロさんは元力が常人より多いので、制御するのも難しいと思うのですが……」

 然しそれは、大きな力を制御できた時、更に多大な力を得る事ができるようになる。  
 そう、彼女は言い切った。
 戦争に置いて、大きな先手となる、元力が多いという特徴。
 続いてセルナは淡々と語る。
 
 「私、準決勝の第2試合、見させて貰いました……最後の大技は、本当に凄かったと思います」
 「い、いやあ……」
 「でも……」
 「……?」
 「あれは、エンさんに負担がかかりすぎる、と……そう、思いませんでしたか?」
 
 サボコロは、びくりと反応した。
 セルナの目は、じっとサボコロを見つめる事もなく、すぐにぱっと俯いた。
 
 「両次元は、武器型の次元師に負担がかかる。元力の圧縮の仕方一つで、本当に変わるんです」
 「……」
 「魔法型は元力の扱い方が武器型より難しい……だから、サボコロさんも……」
 「え、あー……えっと……つまり、俺は……どう、すれば?」
 「あ、そうですよね。すみません。……えっと、ですね」
 
 セルナは、すっと地面を指差した。
 
 「座って下さい」
 「……へ?」
 「ただ座るんじゃ、なくて……次元技を発動したまま、何もせずに座っていて下さい」
 
 言われた通りに、サボコロはぼすんと地面に座った。
 胡座をかいて、そっと目を閉じ、次元技を発動する。
 空気が変わったのをセルナは確認し、サボコロはまた、瞳を開いた。

 「え、と……これで良いのか?」
 「あ、はい……それでは、これから言う指示に従って下さい」

 セルナも同じように、サボコロの目の前に座る。
 正座をした彼女は少しだけスカートの裾を正し前を向く。
 
 「元力というのは、体に流れる小さな粒子です。その一つ一つに集中する事はできません。
  ですから我々次元師は、その粒子の流れを意識の中で辿り、体の中で流れを掴みます。
  流れを掴む事ができるようになるには、自身の元力を上手く扱えるようにならないといけません。
  目を閉じて感じてみて下さい。心に溢れ体を駆け巡る“それ”は、きっと貴方の中で暴れている」

 目を閉じた彼は、集中する。
 自身の心に問いかけるように。心臓の音だけが、聞こえるように。
 ざわざわと、溢れ暴れ回っている元力を、感じるように。
 
 「そして元力を上手く制御する為に、一つだけ良い方法があります。これには個人差がありますが……。
  イメージして下さい。体に溢れ流れる元力を、全て心に詰め込むように、心で塞き止めるように」

 まるで氾濫した川の水を、防波堤で抑えるかのようなイメージ。
 制御されていない元力というのは、出会いたての動物と同じ。
 自分を恐れ、震えながら反抗し、威嚇する。
 各々の心に、牙を向くそれを止める。

 たったそれだけが、元力を扱うということ。
 
 「……ん……っ」
 「……っ?」 
 「……っぅおおお————!!?」
 
 サボコロは、そんな声を張り上げて思わず飛び退いた。
 だっと溢れる汗が、彼の体に張り付いていた。
 荒い息を繰り返す。
 
 「い、今……胸が、急に熱くなって……!!?」
 「!!? そ、それですサボコロさん!!」
 「へ!?」
 「今の感じ……忘れないで下さい。大変かもしれませんが、貴方にならきっとできます!」
  
 セルナが、今日一番の笑顔でぱっと明るくなった。
 こんな風に笑う彼女も、これだけ彼女の言葉を聞くのも。
 サボコロにとっては初めてで。
 そして何より。

 これほど元力を、心に染みる程感じたのも、初めてだった。