コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 最強次元師!!【外伝(!?)不定期更新中!!】 ( No.945 )
日時: 2014/01/13 23:42
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)
参照: 本編の更新ができない代わりにちょこっとサイドエピソード書きます。


うぉぉぉおおぉぉぉお!

本編を進め隊ですが今すごく我慢中なんです。
なのでやっぱり他の方を進めていきたいと思います。
今回は本編に関わりのある番外編を書きますよ。

では!



 【英雄と妖精】

 妖精をご存知だろうか。
 その存在はとても美しい歌声を持ち、とても美しい心を持った‘‘神‘‘であった。

 深く生い茂った森を連想させる、深緑の長い髪。
 肌は生まれたての赤子のように艶やかに月夜に照らされていた。
 何より潤んだような緑の瞳は、全ての人間の心に真っ直ぐ光を灯すほど優しい色をしている。
 
 彼女の名前はフェアリー・ロック。
 今より遥か昔、千年前の時代に生きた儚き神の一人である。

 
 

 既に辺りは暗くなっていた。
 青年は、気晴らしにと思って黙って外へ出た。
 聞こえるのは虫と、風と、草木の音。

 そして、聞き惚れるほど嫋やかに流れる何かの‘‘音‘‘。

 青年は驚いて、その音の元を探し回った。
 奥の方から聞こえてくる。自然に混じった、可憐な音色が。
 青年は、広場へ辿り着いた。そこで見たのは。

 「————え」

 一目で、心を奪われた。
 てっきり誰かが音楽を奏でているものだと、疑っていた。
 そこには人がいた。
 とても美しく、とても妖麗な女性が。

 「……————う、うわッ!?」

 女性の顔が見てみたい。
 長い髪が風と舞い、うまく人物を把握できない。
 もどかしくて、足を踏み出す。
 図らずも————木の根に引っかかってしまった。

 「!?」

 虫が、風が、鳥が、自然が。
 一斉にして音を失った。
 自然が奏で織りなすオーケストラが、一瞬にして砕け散る。
 曲の中心にいた女性が、はっとして音のした方へ顔を向けた。
 青年は、転んでいた。
 
 「は、はは……今宵はとても良い満月、ですね……はは……」

 上手い言葉が見つからない。言い訳はどうしたら良いのだろう。
 だらだらと流れる汗に、冷たい風がよく響く。
 女性はすっと歩き出した。

 「……大丈夫、ですか?」

 青年は、その時はっきりと彼女の顔を見た。 
 透き通った肌。その上に浮かんだ緑の瞳が、じっとこちらの様子を伺っている。
 どくん、と心臓が激しく高鳴ったのと同時に、青年は後ずさりをしてしまった。

 「え!? あ、はいぃ! だ、ダイジョウブです!」

 思わず言葉が裏返る。何て言ったら良いのか分からない。
 どんな男性も一目で恋に落としそうなほどの笑顔に、心をまるごと貫かれたようだった。
 紅潮した頬を隠すように、青年は顔を腕で覆った。

 「……それは良かったっ」

 まるで天使のようだと思った。
 微笑んだだけで、考えていることや思っていることを全て洗い流されてしまうようで。
 気がついたら青年の瞳には、彼女しか映らなくなっていた。
 
 「き、君は……どうして、ここへ?」
 「実は少し……迷ってしまって」
 「迷ったの?」
 「ええ。そしたら、周りの自然の音が溢れ出してた……気がついたら、唄っていたの」

 恥ずかしい、というように彼女も照れ笑いをする。
 そうだったのか。と青年は思った。
 つられて彼も笑った。

 「そうだったんだ……」
 「……あの……もしかして」
 「?」
 「どこかで、お会いしませんでしたか……?」

 青年は首を傾げた。
 もしもどこかで会っていたら、こんなに綺麗な女性を忘れるはずはない。
 彼は否定した。

 「え? もしそうなら覚えていると思うけど……」
 「そうですか……すみません、変な事を聞いちゃって」
 「あ、ううん。気にしないで! ……その」
 「……?」
 「歌声、とても綺麗だった……。な、名前を聞いても、良いかな?」
 「……えっ」                          
 
 女性は目を丸くする。
 いきなりすぎて言葉がでてこないのか、口を噤んで。
 ただその間は短く、女性はそっと、声を漏らした。

  
 「……フェアリー————————‘‘フェアリー・ロック‘‘です」

 
 青年はその名前を耳にした。
 そして、その名がいずれ世界を動かす鍵となることを、知らずにいた。
 特別な名前のように思えて、心が弾む。

 「ふぇ、ありー……」 
 「……貴方は?」

 はっと驚く青年。
 彼は自身の持つ、サラサラした金髪を少し掻き上げた。
 彼も、恥ずかしそうに笑った。
 
 「僕の名前はポプラ。————‘‘ポプラ・エポール‘‘さ」

 木々が大きくざわめいた。
 そして彼女の心も。
 女性は信じられないという表情で、震えた唇を必死に動かした。

 「え……ぽ、プラ……? あの、‘‘ポプラ・エポール‘‘王子……————!?」

 そうして開いた口を、さっと両手で抑えた。
 青年、ポプラはにっこりと笑う。
 
 間違いはない。
 彼はメルギース最大の権力保持国家、‘‘レイチェル王国‘‘の王子であった。
 国民なら誰もがその英雄たる彼の姿に憧れる。誰もがその勇姿に夢を抱く。
 紛れもなく、メルギース最強の英雄と謳われるほどの人物。
 それがこの金髪の青年であった。

 「う、嘘……その、ごめ、ではなくて……申し訳ありませんっ!」
 「へ?」
 「貴殿のようなお方に、か、軽々しく接してしまい……その、あの……!!」
 「気にしないでおくれよ。僕はそんな事、全然気にしないし」
 「ですが……!」
 「良いって! 僕はただ————君と友達になりたかっただけなんだ」
 
 ちょっと嘘だけどね、と心の中で呟くポプラ。
 彼は自分の身分にあまり実感がない。そして彼の周りにいる人々も。
 明るくて優しくて、誰よりも強い彼には、たくさんの友人もいた。

 「私、と……友……達……?」
 「うん。良ければもっと聴かせてよ————君の‘‘歌声‘‘を」

 こうして一人の妖精と、一人の英雄は出会う。
 然し絶対に出会ってはいけなかった2人が、こうして向き合い笑っていられていたのも。


 あと、数年の話。

 


 *



 ちょっと短かったですね。
 なんか2800字オーバーしないのは珍しいのかな。でも頑張りました。
 本編では本当にほんの少ししか触れられなかった2人の出会い。
 楽しんで頂けたら幸いです。

 後に本編でも書くかもですけどね。一応変なタイミングで書いてみました。
 では。