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- Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.947 )
- 日時: 2014/01/25 00:08
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)
第254次元 サボコロの修行事情Ⅱ
「……」
「……」
「……〜〜〜ッだーっ!!!」
大きく手を広げ、サボコロはばたんと倒れた。
その音に驚いたセルナが、片目だけ開いた。
「も、もう……次元技解いて、いいか……?」
「あ、はい。お疲れ……様、です」
ぱきんとサボコロを纏っていた気が解ける。
具現化した炎皇は、上からふわふわと倒れているサボコロを見て笑っていて。
そう、あれから4、5時間という時間が経っていた。
「流石に、疲れたぜ……」
「大丈夫ですか? あ、あんまり慣れないことすると……疲れます、よね」
「あ、ああ……うぐ……っ、は、腹、減った……」
セルナは、何かを思い出したように素早く立ち上がって去っていった。
サボコロはそれを不思議に思っていたが、気にせず空を眺める。
汗だくになった体に触れる風が、物凄く気持ち良かった。
「元力に集中するって、疲れんな……なあ、炎皇」
「さぁ〜? 今の俺にゃ分かんねーけど。サボコロはどうだ? 何か掴めそうか?」
「んー……どーだろ」
ぼーっと過ぎ行く鳥や雲を眺めていたサボコロの視界が、急に陰る。
光を遮られた視界は、びっくりして一瞬閉ざされ、サボコロはがばっと起き上がった。
「わ、私、お昼ご飯作ってきてたんです……よ、宜しかったら……っ」
「いっただきまぁぁーっすゥゥッ!!!!」
「……へ?」
セルナの声も気にせずに、お弁当にがっつくサボコロ。
籠を開けると、そこにはサンドイッチがぎっしり詰まっていた。
多彩な具材と少し焼けたパンの表面がカリカリしていて、充分に食欲を誘っている。
色とりどりなトマトやレタスに魅了されたサボコロは我も忘れてサンドイッチを頬張っていた。
「……ど、どう、ですか?」
「ぷめえ!!! ほんくはんへへーよ!!! めひゃめひゃぷめえッ!!!」
「そ、それは良かった……」
最早何語を喋っているのか、それは本当にこの国の言語なのか。
サボコロが伝えようとしていた事が上手く理解できずとも、彼の表情からして気持ちは十分伝わった。
とても嬉しそうに、楽しそうに、子供みたいに食べる彼に、ふふっと笑みが零れる。
サボコロは、ごくんと頬張ったパンを強引に呑み込む。そしてがばがばと飲み物を口に放り入れた。
「お前は食わねーの?」
「あ、え……え、と……」
「遠慮すんなって! つうかお前が作ってきたんだし、一緒に食おーぜ!!」
「……はいっ」
はむっと、小さく口の先でパンを齧ったセルナ。
味がちょっと薄いかな、など考えながら、彼女もまたサンドイッチを小さく食べていく。
サボコロ程の勢いでは食べられない彼女は、楽しそうに彼を見ていた。
「ぷはーっ! 食った食ったー!!」
「喜んで頂けたようで……その、う、嬉しいです……」
「ああ、めちゃめちゃ上手かった!! お前良い嫁になるぜ絶対っ!」
「……へっ?」
「え、あ……っわ、わりい……その、無神経なこと、つうか、ふ、深い、意味はなくて……」
セルナは顔を真っ赤にして俯いた。
ぎゅっと自分の体を抱き込むように、足を寄せる。
サボコロも、思わずセルナから視線をずらしてしまった。
(まずい……俺、あんまりセルナと喋った事なかったし……変な事言っちまったし……)
同じ蛇梅隊の、同じ戦闘部班と言えど。
なかなか喋った事のない人、交流を交わした事のない人は沢山いた。
サボコロもセルナも一緒に話すようなタイプではなかった。
それが今、2人きりで修行して、急に話す事になってしまって。
まさかこんな事になるとはと、両者とも同じ事を思っていた。
「……サボコロさんは、ロクさんに、似てますね」
その一言が、ざあっと風を連れてくる。
草が揺れた時、セルナはお弁当を片付けながら、自然にそう呟いた。
「正直なところとか、真っ直ぐなところとか……私、なんだかサボコロさんといると安心します」
「……そ、そうか?」
「はい……サボコロさんも、ロクさんも、元力量多いですしっ」
考えた事もなかった。
自分とロクが、似ているだなんて。
同じ部隊になって、何度か任務へも出向いたけれど。
自分自身で気付かない事もあるもんだとサボコロは妙に納得した。
「俺は、セルナはもっと暗い奴だと思ってたけどな!」
「……そ、そこは正直すぎるの……では……?」
「でも、すげえよな。もっと皆のこと、知りたくなった!」
だって、気付けない事もあるんだろ? と。
サボコロは、にかっと笑った。
さっきまで涙目だったセルナの表情は自然と綻んだ。
よいしょと、セルナは立ち上がった。
「では……そろそろ実践をやってみますか?」
「おっ! 待ってましたあ!!」
少し離れたところになる木に、寄り掛からせるようにして弁当箱を置くセルナ。
漸く修行の成果を試せる、と内心わくわくのサボコロはまだ、知らなかった。
「では次元技を発動して下さい」
「おうよ!」
先程と同じように、サボコロは一瞬目を瞑って次元技を発動。
セルナは、またも確認して口元を歪ませた。
「じゃあ、いきますよ?」
「? ちょ、ちょっと待てよ! お前まだ次元技……!」
「私、もう次元技発動してますよ?」
はい? というサボコロの表情に、セルナは笑う。
すっと、腕を構える彼女。
「“最初”からずっと————私は次元技を発動したまんまなんです」
え、という小さな声は。
セルナの足が、空を切る音に、遮られた。
「うぉあッ!? ちょ、ちょ……!!」
「因みに技を使うのは禁じます。どれ程元力を制御し切れているか、見極める為に体術で戦ってもらいます」
「え!? それじゃあお前も……!!」
ぐんと伸びる彼女の腕が、彼の顔を綺麗に横切る。
顔を殴られそうになった、そこまでは理解できる。然し彼には、咄嗟に目を瞑る刹那さえ与えられず。
気が付けば、自分の顔の横に、セルナの白くて綺麗な腕が伸びていた。
「私は技を使うまでもなく……次元技を発動した状態だけでも、貴方と戦えます」
今の攻撃で、それはサボコロも理解できた。
肉体強化の次元技。
腕から足、胴体や頭。体ならばどの部位も強くする事ができるセルナの次元技。
技を使わずとも多少肉体が強化される彼女を相手に、サボコロは正直戦いたくないとさえ思った。
彼女の強さは、本物であったから。
「う、ぐ……!!」
「どうしました? サボコロさん。さっきから……避けてばっかりですよ!」
「わ、っかってらあ!!!」
セルナの旋回を、しゃがんで避けるサボコロ。
そのまま空を跳び、セルナは彼と対峙。
ぐっと拳を握り締め、すっと、サボコロの視界から消えた。
「え!!?」
「こっちです、サボコロさん」
気が付けば。
後ろから、彼女の声が響いていた。
腕を引く彼女の比例して、サボコロは咄嗟に顔だけでも後ろへ引いた。
伸びた彼女の腕が、彼の顔の前まで迫る。
視界が、彼女の拳に埋め尽くされた。
(つ、つれえ……次元を発動したまま動くのも、次元技使わないのも……神経使うなぁおい!!!)
セルナの一撃が、当たった時点で終わる。
彼女の一撃は生身の人間が受け止められる程弱くはない。
それこそ、建物の壁など、少し蹴っただけで崩れてしまうような。
常人の身体能力のそれを遥かに上回る彼女の次元技は、真っ向から受け止められるものではなかった。
「はあ……ぁ、はあ……!!」
「大丈夫ですか? 私はまだまだいけますよ」
「……だ、大丈夫だ……っ」
元力は使っていない。
それなのに、サボコロは衰弱し疲弊しきっている。
元力の体の流れに集中しているのと、セルナの動きを見ているのと。
あっちにもこっちにも集中力を散漫している彼は、最早視界すらぐらつく程の体力で。
まさかこれ程とは、とサボコロがそう感じた時。
それを最後にして、彼は遂に倒れ込んでしまった。