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- Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.948 )
- 日時: 2014/01/26 11:29
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)
第255次元 サボコロの修行事情Ⅲ
(約30分とちょっと……やっぱり、サボコロさんにはまだ…………)
すっと、構えていた腕を下ろすセルナ。
彼女はよいしょとサボコロを抱えると、滝つぼのもっと近くまで寄った。
横たわらせ、湿ったタオルで彼の額を覆う。
彼女はゆっくりと手を伸ばし、彼の髪にそっと触れた。
今の時刻は、いつだろうか。
すっと体が力を取り戻していくように、綺麗な空気が体中を循環していて。
サボコロは、心地の良い風に当たったまま、目を開いた。
目に映ったのは、目を瞑ったままのセルナだった。
「あ、れ……俺、何して……」
はっとして彼は気付く。
セルナとの実践中に、集中切れで倒れてしまったことに。
体内の元力の流れ、そしてセルナの動き一つ一つに細かく集中を回す。
目まぐるしくもなるそれの繰り返しに、彼の体はついていけなくなり、限界に達してしまった。
そしてその強い反動で倒れ、今に至った訳で。
いや、そんな事よりも。
今のサボコロには別のことが気に掛かっていた。
そう。このやわらかく気持ちの良い感覚はなんだろう、と。
「ん……っておぅわッ!!!?」
セルナの膝に、自分の頭があった事に気付いた彼は飛び上がった。
気付かないうちに膝枕なんてされていたのかと、サボコロの心臓が忙しく音を奏でた。
途端、くすくすと、小さく笑う声が聞こえてきた。
「ぷぷぷ……もう傑作ーっ! そんなに慌てちゃって……純情だねー!!」
「てっめミル……お前いつからそこに……」
「ん。今来たばっかだよっ?」
笑いが堪えられませんと言うようににししと笑ったままのミル。
サボコロは、彼女からわざと視線をずらしぷいっとそっぽを向いた。
「どう? セルナとの修行の方は」
「ん……何かダメだ。集中力が足りてないし、制御ってのがこんなに難しいとは……」
唸るサボコロを余所に、ミルは立ったまま、彼を見た。
何だ、ちょっとは変わってるじゃん、とでも言うように。
「セルナ、元力の扱い方が上手いでしょ?」
「っ! それな!! なんかずっと次元技発動しててもバテなくて……」
「多分蛇梅隊で一番上手いよ、あの子。何たって肉体強化の次元技だしね」
サボコロは、驚きを表情で表現した。
目を見開く彼に、逆にミルはすっと目を細める。
「元々生と死の境界線の中でセルナは戦ってきた……それも理由の一つだね。
そしてあの次元技は直接体に負担がかかるから、どうしても体内の元力に集中がいく。
……強くなる為に、生きる為に……必死に頑張ったんだよ、きっと」
サボコロは、じっと眠るセルナを見た。
普段はあまり戦闘を好まない彼女は、ロクに助けられる前までほぼ人間の扱いを受けていなかった。
それを世の中の言語で例えるなら、そう、“奴隷”のような。
研究者に追い掛け回され、ろくに蛇梅隊支部に帰る事もできず。
傷つけられ蔑まれ、家族まで殺された彼女はきっと、強く、生きる為に必死になったのだろう。
だからあんなにも強く凛々しい。
サボコロは、自分が何だか小さく見えてきた。
「ロクに救われて……嬉しかったんだろうな……」
自然に、彼の口からそう言葉が漏れた。
嘗ては自分も、そうだったから。
ミルもサボコロも、同じ神に、助けられた身だったから。
セルナの気持ちも、ロクに助けられた者達の気持ちも、当然分かった。
仲間だと言ってくれたあの言葉に、優しさに、笑顔に、どれ程救われたのだろう。
「じゃあね、サボコロ君。仲良くやったげてね!」
「ちょ、もう暗いし俺もそろそろ帰……!」
「送ってあげてよ。男でしょっ?」
ミルは大きく伸びをすると、さっさと歩いていってしまった。
眠ったまま起きないセルナを背負って、サボコロは立ち上がる。
伸ばした背中がぐきりと音を立てたが、それも気にせずに。
朝からずっと、サボコロの面倒を見ていた上に、彼の看病を何時間もしていた彼女。
サボコロは、ぐっと腕に力を入れて、会場に戻った。
片手に、軽くなった弁当箱を忘れず。
毎日のように同じような修行を繰り返して迎えた数日後。
サボコロは今日も座禅を組んで、じっと集中していた。
明日に迎えた決勝戦まで、もう24時間は切った。
それでもまだ、元力の制御は上手くいってなかった。
「……」
「……」
「……」
「……サボコロさん、チャック全開ですよ?」
「ぶふッ!!?」
サボコロは、何かを思い切り噴き出した。
そして、重力に従順に、がつんと地面とご対面。
強く打ちつけた頭を摩りながら、ゆっくりと体を起こす。
「せ、セルナさん一体何を……」
「だ、ダメですよ……集中力を途切らせては……」
「今のはちょっとアカン……」
「……そ、そうですか?」
いってー、と頭を掻き回すサボコロ。
セルナの顔は、途端に陰った。
小さく、息を吐く。
「サボコロさん、私ではきっともう……貴方の力にはなれません」
そう、小さな声で強く言い張る。
サボコロは、頭に巻いていたタオルを解き、顔を拭っていた。
「え……」
「これ以上は、多分できません……私には、貴方に“道”を作ることしかできないんです」
「み、道……?」
「渡るのは、貴方自身です……これ以上は、もう……お役に立つことが……」
ここ数日、ずっと思っていた事だった。
サボコロの成長は、然程良くはなく。
徐々にしか、彼の元力の制御は伸びを見せなかった。
震えるセルナの頭にぽんと、サボコロは自分の手を乗せた。
「お前は充分やったって! できないのは俺のせいだし……すっげー助かった!!」
「サボコロ、さん……」
「役に立つとか立たないとか……んなんじゃねーって。お前が作った道、絶対渡ってやるから!!!」
ぐりぐりと、セルナの頭を撫でくり回るサボコロ。
見上げたサボコロが、セルナには大きく見えた。
もうこれからは、彼自身の努力にかかっている。
実践でないと、次元師は伸ばす事ができないのも事実。
セルナは、きゅっと自分の手を握った。
「……サボコロさん」
「ん?」
「最後に、貴方に教えておきたい事が、あるのですが……」
「え……」
セルナは、苦しそうに俯いた。
涙を零すのを、まるで誰にも見られたくないかのように。
「これは……非常に危険な技です。本当に……どうしようも、なくなった時に、使って下さい」
「え、それって……」
ぎゅっと、更に強く握った手を、そっと下ろして。
上を、見上げた。
「瞬間的に“全元力を圧縮”する——————————“禁忌”の技です」
彼女の言葉が、サボコロの胸に強く刺さった。
抜ける事のないそれは、次の日にまで、ずっと彼の脳裏に焼きついた。
ここ数日。
然程仲の良くなかったセルナに触れて、彼女の色々な一面を見る事ができた。
笑った顔も怒った顔も、悲しそうな顔も、全て。
でも、最後に放ったその言葉だけには、何故だか全ての感情は当てはまらず。
何故だか、今までで一番苦しそうで儚そうな、そんな表情だった。