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Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.949 )
日時: 2014/02/02 22:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)

 第256次元 音と空間の連携

 「炎撃ィィーッ!!!」

 
 轟と響くそれは、勢いを増してリリエン達双子に襲い掛かる。
 炎に包まれた2人は、またもリリアンの次元技によって炎を掻き消し現れた。

 「おいおいどうしたんだ? 1、2回戦の勢いはどっかいっちまったのか?」
 「凄かったのになぁー……残念ねーっ」

 ぎゅっと、拳をつくるサボコロ。 
 彼は、頭の片隅でセルナとの1週間を思い出していた。
 長くて、あっという間に終わってしまった儚い時間を。
 それでも、今まで生きた中で一番長く深く、元力と関わり向き合った。
 あの時間は、決して無駄にはなっていない。

 
 「どうしたサボコロ。貴様らしくないぞ」 
 「ああ……分かってるよ」

 無駄な元力を省く為に努力をしているつもりだが、それは元力を減らす事にしか繋がらない。
 圧縮も制御も、元力を扱うにあたって大事なものは何一つ完璧にこなしていなかった。
 どうしたら、出来るようになれる。
 レトヴェールもエンも、周りの人間は皆出来ているのに。
 そんな疑問ばかりが、サボコロの脳裏を埋め尽くした。

 「じゃあこちらからいきますか————!!」

 長い縄が、景色を覆い尽くすように空へと広がった。

 
 『——————————お前はもう、次元技を使うことが“できない”んだよ』

 エンは、しかと上を見た。
 あの言葉は、はったりではなかった。
 次元技を使えないとなると、試合の流れが悪くなるのが目に見える。
 一人、サボコロだけに戦わせる訳にもいかない。 
 エンは、矢を引く。

 
 「——————ッ!!?」

 彼の矢は、広がった縄に突き刺さり、ばさっと縄が更に天へと山をつくるように跳ねた。
 不覚にも次元技に手を出されたリリアンの元力は、一瞬不安定にざわめいた。
 武器型次元技で助かったと、エンは言葉を零す。

 
 「ちょっとー? 何してんの、リリエンっ」
 「……へえ……次元技無しでもそんな威力が出せんの? こりゃすげー」
 「誰かのせいで次元技出せんのでな。……それとも何だ? 怖気づいているのか?」

 いや、とリリエンの口元は緩む。
 彼は、腕を伸ばした。

 「でも忘れんなよ——————次元技がねーと、次元師は無力だ!!!」

 縄が、円を描いて再び空へ放たれる。
 大きな丸を象るそれは、エンとサボコロを余裕で囲った。
 地面に、べたんと張り付いた。

 「第七次元発動————縛限!!!」

 キュイィィンという何かを巻き取るかのような音が辺りを覆う。
 丸い縄は、その場で急回転すると、滑るようにして止まる。

 
 「けっ! こんな縄……——!」
 「待てサボコロ!! 迂闊に手を出……!!」

 紅蓮の炎が、エンの声を遮った。

 「炎柱————!!!!」

 エンとサボコロの周りを、炎の柱が包んだ。
 ずっと上の方まで火は上り、2人の景色を焼き尽くす。
 然し。

 「な……!!?」

 地面にはまだ、縄があった。

 「ははは! お前達は、その縄の中でしか“普段の”力を使う事ができねーんだよ!! つまり……」
 「外へ次元技を発したところで、それは私達の足元にも及ばない“一次元級”になるってこと!」
 「分かってるとは思うけど、縄の外に出る事はできねえよ? そいつは絶対条件だ」

 その縄の中でしか、普段の力を使う事ができない。
 つまり、外にいるあの2人には攻撃は届かないという事。
 並大抵の力ならば、外に力を加える事はできない。 
 そう、並大抵の力であれば。

 
 「小細工使いやがってちくしょー……俺の修行の意味がねーじゃねえか」
 「……? それより、早くここから脱出する方法を————」

 サボコロの腕が、途端炎に包まれる。 
 にやっと微笑む彼は、拳を力強く前へ押し出す。

 
 「炎砲————!!!!」

 炎の砲撃が、渦を巻いて縄の外へ出た。

 
 「だから効かねえって————」
 「!!? 避けてリリエン——!!!」
 
 そう吐き出された言葉は、目の前を過ぎる炎に掻き消された。
 リリエンを大きく喰らうように、炎は彼を包んだ。

 「“技の威力は一次元級”? ——————知るかよんなこたぁッ!!!」

 その一撃は、まるで一次元の威力ではなかった。
 厚い煙の中から姿を現したリリエンは、口元に手を当て咳を繰り返す。

 
 「す、すっげーな……マジで見縊ってた……」 
 「あぁんもう!! 勝手なことばっかりしないでよぅッ!!」
 「……分かってるってっ」

 
 (にしてもあいつ……何て元力量だよこんにゃろう……)

 リリエンの視線の先に、少しばかり息を乱すサボコロがいた。 
 無理やり一度に多量の元力を消費したせいか、息が上がっているのが見てとれる。
 ただ、と彼は思う。

 「お前の次元技……雑だな」
 「……!!?」
 「元力増やしゃ良いってもんじゃねえ……その量は認めるが、使い方はまるでダメだな」
 「わ、かってるよ、んな事!!」
 「せいぜいそれで頑張んな……宝の持ち腐れになる前にな」

 サボコロの眉間にしわが寄ると、リリアンはふっと呆れたように息を漏らした。 
 転んだリリエンの背中を叩き、じゃらっと鈴を手に取る。 

 
 「でも忘れないでよ! その次元技はいくら頑張ったって普段の半分以下の力なんだから!!!」

 鈴が盛大に音を奏でる。
 幾つも重ねて、びんと鈴のついた紐を伸ばす。
 
 「鈴鳴聖——————!!!!」

 キーンという金属音が、2人の耳を突き抜けていく。
 2人は咄嗟に構える。
 然し、頭が痛くなったり、体に害が加わる訳ではなかった。 

 
 「な、なんだこれ……」
 「……おい、サボコロ……様子が可笑しくないか?」

 音が、無くなった。
 まるで不屈の試練で洞窟に放り込まれたときのような感覚が、また2人を襲う。
 ぴちゃん、と、サボコロの頬を伝う冷たい滴が、地面に打ちつけられた。

 「一体何が——————んぐぅッ!!?」

 腹部に、妙な感覚が走る。
 突然、思い切り腹を締め付けられたような痛みが顕れ、サボコロの体は綺麗にくの字に曲がった。
 自由になった腕が無気力なまま空を泳いだ時。
 
 耳に、その声は届く。

 「——————締砕!!!!」

 サボコロの体が、まるで魚が大きく跳ね上がるように反り返った。
 びたんと、体の表面が地面の上で滑り転がる。

 
 「が、ぁ……!!」

 エンは、背後にいたリリエンの笑顔に、顔をしかめた。
 無力な右手が、拳をつくる。

 「だから……俺ばっか見てても、勝てねえーよ?」

 鈴の音が、伝う。 
 その音は、2人の耳には届かない。

 
 「さっさとレトヴェール倒しにいきたいから……あんた達、そこでおねんねしててくれる?」

 リリアンが、鈴を広げた。 
 彼女の青い瞳は、ゆっくりと開かれる。

 「第八次元発動——————音疵!!!」

 動物が雄叫びを上げるかのような轟声。
 然しエンとサボコロには未だに音が何も聞こえない。
 因みにいうと、エンとサボコロには今さっきリリアンが叫んだ次元技も聞こえていない。
 何をされたのか、分からなかった。

 (この空間だけ、外の音が遮断されている……のか……?)

 その時、サボコロが酷く咳を吐いた。
 一緒に吐き出された真っ赤な血を睨みながら、口元を拭って立ち上がる。
 
 
 「ちっくしょ……体がいて……————ぐはァッ!!?」

 
 それは、本当に途端のことだった。

 「どうしたサボコロ!!? 何があっ————んぐぁッ!!?」

 
 2人とも、派手に血を吐き捨てた。
 口を開いていると自然に血が溢れ出てくるような、そんな喉の痛み。
 焼き切られる程の熱い痛みが、じわじわと喉を締め付ける。
 エンは膝と手をつき、サボコロはまたしても地面に伏した。

 そんな2人の姿を見て、双子はとても楽しそうに笑ってみせる。
 並んだ瞳が——、絶対的な勝利を確信させるようだった。