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Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.951 )
日時: 2014/02/10 20:29
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: WKDPqBFA)
参照: すっかり忘れてました

 第257次元 勇姿をその瞳に焼きつけて

 (こ、これは一体……!!?)

 言葉を発した途端、2人は喉の痛みに襲われた。 
 掠れた視界の向こう側に、リリアンが得意げに微笑んでいて。

 (まずい……早く、どうにかしないと……! 然し今は喋ることが……!)

 「お、ぃ……エン……だいじょ—————」
 「!!? 馬鹿か貴様は!!! 喋っては—————!!!」

 悲劇は、繰り返された。
 2人の言葉は、紡がれる事なく真っ赤な色に染まった。
 どくん、どくん、と。
 心臓の音と紛れて、体の中で血が暴れ出していた。
 苦しい以外の、感情が失われたかのように。

 「ちょっと倒れてくれるだけで、良いんだけどなー……」
 「まあそこらへんは流石蛇梅隊って感じだけどなあ」

 打開策が、見つからない。
 次元技を発動するのに、必ず言葉を発する事が前提的な条件となっている。
 然し今エンは次元技を発動できない上に、声が出せない。
 声を出したら体中が痛みに襲われるこの次元技の意図に、サボコロが気付いているとも思えなかった。 
 そしてこの次元技は魔法型。どうしたって、砕く事はできない。
 仮にこの次元技を破壊できたとしても、待っているのは下に這い回っている縄。

 空間を支配し、次元技が最も必要とする声を、支配する次元技。
 これ程のコンビネーションを、2人は見た事がなかった。
 完全に勝算が断たされた時、2人は莫大な音をその耳にする。

 「「————————!!?」」

 音が遮断されたこの空間の中でさえ、その音は響いた。
 煙が、晴れきった。そこにいたのは。

 「おいおいそんなもんかキールア!!! ——————本気出して良いんだぜ!!!」
 「じゃあそうさせてもらうわ————!!!!」

 槍を天高く伸ばし、少年が飛ばした太い氷柱を見据える、少女。
 突き刺さる、その瞬間に、槍は大きく牙を向く。
 華麗に全てを弾き、落ちた少年に、その切っ先を向けた。
 地面が、割れた音が鳴る。
 突き刺さった刃が、太陽の照り返しで真っ白に光る。

 「氷弾————!!」

 弾かれた少年は、真っ直ぐ手を伸ばした。
 少女は、ぐっと強く、また強く銀槍を握る。
 雨が降るように襲いかかる氷の塊をしのぎながら、彼女はくるりと回った。

 「旋輪の舞————!!!」

 まるで車輪が地面を滑るように。
 斜めに廻る槍は、風を巻き込んで大きく舞った。
 それを、少年はしなやかな体つきで鮮やかに空を跳んで交わす。
 地面を、踏み殺して。
 少女は、少年の目の前で槍を翳した。

 「————何!!?」
 「狂乱蓮舞————ッ!!!」

 体の周りで、槍を素早く何度も旋回させる。
 速く、それでいて何より力強く風を斬り舞い続ける槍が、少年の体を派手に弾き飛ばした。
 少年は、ぐんと顔を前へと突き出した。

 「氷柱————!!!」

 硬く凸凹した地面に手を突き刺す。
 地面から突如出現した氷は、長い柱を作るように天へと伸びていった。
 その中心にいたのが、キールアだった。

 (キール……————!!?)

 サボコロが、そう心の中で叫ぶのと、ほぼ同時。
 決して低次元級の技ではないその氷の柱に、
 ひびが、入る。

 「戯旋風————!!!」

 砕け散った氷を浴びて、たった一瞬動けなかった少年の前には、

 「堕陣————————必撃ィッ!!!!」

 誇り高く天高く。 
 銀の槍を振り下ろした少女が、いた。

 鳴り響く轟音は、サボコロやエンの耳にもしっかりと届いた。
 本来ならば届くはずもないその激しい音が、2人の心を駆り立てた。
 決して、一歩も退かない彼女の意思が、彼女の心が。
 一切の偽りを彩らず、ただ鮮やかに2人の瞳に焼きついた。

 (す、すっげえ……)

 一度だけ見た事があった。シャラルの戦う姿を。
 彼も決して、弱くはない。
 それどころか、蛇梅隊に所属していても可笑しくないくらい強い次元師だった。
 そんな彼相手に、キールアは退くことをしなかった。
 つい最近百槍という次元技を手にし、つい最近になって戦闘を知った彼女は、恐れる事を知らず。
 まるで随分と前から次元師だったかのようなその戦いぶりに、誰もが驚かざるを得なかった。

 (……そう、か)

 エンは、ぐっと弓を掴む。
 右手に、めいいっぱいの力を入れる。
 戦闘嫌いなあのキールアでさえ、あんなに一生懸命戦っている。
 傷ついても転んでも、何度だって立ち上がって。
 彼女のその懸命さは、エンとサボコロの心を、突き動かした。

 「……え……っ!」

 エンの名前を叫ぼうとしたサボコロに、キッ、と睨みを返すエン。
 慌てて口を塞いだサボコロは、エンの右手に目がいった。 
 ぐっと、力を入れているのが遠くからでもわかる。

 「……? もしかしてエン君、八次元級の技を、普通の弓矢で打ち砕く気?」
 「は? それマジかよ」
 「無駄だよーっ!? だって一次元にもならないそんなものじゃ、可能性はゼロだよ?」
 「……」
 「良いから、そこで大人しくしてなって」

 リリアンは、鈴片手に歩き出した。
 リリエンも、エンとサボコロに笑いかけ手を振った。
 双子が向かった先には、レトヴェールよりも先に、キールアだった。
 まずい、と2人が思った時。

 「ごめんねシャラル——————ちょっと、邪魔させてもらうよ?」

 リンと響く微かな音を、キールアは聞き逃さなかった。
 氷の塊を防ぐ彼女は、くるりと回しながら持ち方を変え。

 「鈴め——————!!!」

 リリアンの言葉は、最後まで紡がれなかった。
 全ての氷を弾き終わったキールアは、右手に持った槍一つだけで、空間を思いきり叩いた。
 ガラスを割ったかのような、鋭い音と飛び散った次元技の中で、
 双子は、どちらも驚きを隠せずにいた。

 「邪魔を、しないで」

 落ち着いていて、決して無駄のない一撃と、その言葉。
 次元技を使うこともなく、キールアはリリアンの鈴鳴を打ち砕いた。
 相手にならないと、そう言われているようで。
 リリアンの表情は、途端に変わる。

 「ふざけないでよ————!!!!」

 リリアンの叫びが、エンとサボコロにも届く。
 またしてもキールアの強さを見た2人は、今度こそ本当に、拳を、心を、構える。
 決心したその思いは、形となる。 

 「第七次元発動——————っ!!!」

 その時リリエンは、咄嗟に振り向いた。
 目の前にあるその光景に、血の気が引いていくのが分かった。

 「やめろリリアン————!!!」

 気付くのが、遅すぎた。


 「狩流奥義————————砕拳烈火!!!!!」


 指に込めた、全身に込めた思いが、形へ。


 「————ッ!!?」

 硬い壁を打ち破り今、迷わず空を駆ける一撃。
 鋭い牙がリリアンの体を貫いたその時。
 リリエンは、またしても気付くのが遅れた。

 「第八次元発動————」

 少年は、拳一つで、地面を強く叩く。

 「——————炎柱!!!!」

 地面から湧き出た炎の柱が、双子を呑み込んだ。
 エンが、サボコロの後ろからゆっくりと歩いてきた。

 サボコロの中で、どくんと響くその音は
 本人にさえ、届かなかった。