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Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.952 )
日時: 2014/02/16 23:11
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第258次元 睨み合え

 「げほっ! ……ごほっ、ごっ……!!」
 「おい、エン大丈夫か?」
 「流石にやりすぎたか……」

 音疵という次元技を打ち砕く為に、その次元技の中で叫んでしまったエン。
 その後効果がなくなった時サボコロは次元技を使った為、彼には被害がなく。
 最初の犠牲となったエンは、激しい吐血を繰り返しながらも立っていた。

 「つうか、さっきのアレ……一体何だよ?」
 「ん……ああ、あれは我ターケルド家に代々伝わる狩猟戦法の一つでな……単なる普通の弓技だ」
 「普通……ねえ……」

 サボコロは、ちらっと辺りを見回した。
 つい先程エンが放ったあの技は、単なる、という言葉の領域を超えていた。
 次元技を打ち砕ける程の技術。流石は千年続く狩猟一族の末裔という事なのだろうか。
 2人がそんな話をしている間に、ゆらりと影は揺れる。
 青い双子は、厚い煙の中で立っていた。

 「……へ、へえ……やっぱそれなりに、やるみたいだな……」
 「咄嗟の事で動けなかったけど……つ、次はそうはいかないんだからねっ!」

 鈴のついた紐をしっかりと引っ張って、リリアンは煙から姿を現した。
 リリエンもまた、腕を顔の前で構えて衝撃を殺し立っていた。
 2人とも、まだ傷は浅い。

 (サボコロさん……頑張って……!)

 胸の前できゅっと手を握るセルナは、そう心の中で呟いた。





 「く……ッらぁッ!!」

 下から上へと。
 力いっぱいに切り上げた双剣は聖剣を弾いた。
 レトはすかさずシェルと距離をとる。
 ぐっと構えた双剣に、汗が伝う。

 「……なあレトヴェール」

 シェルは、何かを話しながらレトの許に歩み寄ってきた。
 レトは彼と一定の距離を保ちながら、一歩一歩、確実に下がっていく。

 「お前……剣術サボってただろ?」

 僅かな、動きを。
 彼は、見逃さなかった。

 「分かるんだよ……お前らを見てるとさ。次元技に頼りすぎっていうか、何ていうか……」
 「……何が言いたいんだよ」
 「俺も、お前も、他の奴らも——————今よりもっと、強くなれるってことだ」

 左手を風に遊ばせて、シェルは右手で軽く剣を握った。
 長く美しいそれは、シェルに遊ばれてくるくると回されていて。
 ぐっと、握った時には、

 「—————こういう風になッ!!!」

 彼は地面を、勢いよく蹴り飛ばしていた。
 突如加速し、レトの体の正面にまで一気に距離を縮めた。
 レトは咄嗟に、双剣を体の前で重ねる。 
 鋭く高い音が、彼の耳に痛く突き刺さる。

 「う……ッ!!」
 「おいおい……こんなもんじゃねーぞ!!」

 剣の柄に力を入れた時、双斬が跳ねた。
 大きく懐が空いたレトはバランスを崩して。
 シェルは、にっと笑った。

 「ほらよッ!!」

 風を、薙いだ。
 隊服を着ていたから直接攻撃を浴びる事はなく。
 然しその胸には大きく斜めに斬り傷が生まれた。
 派手なその傷から、どす黒い血が溢れ出る。

 「い……っつぅ……っ」
 「おっとすまねえなあ。お前の大事な隊服、斬っちまってよ」
 「……いや……謝ることねえよ……」
 「……?」
 「こいつはずっと……俺を護ってくれてた……だから今のも、それの内の一つにすぎねえ」
 「……へえ、ご立派なこった」

 何度も綻んでは、何度も直して。
 何度も汚れては、何度も洗って。

 幾度となく傷つけられても、それを拒むことはなかった。
 隣にいた、あの義妹だって、一度も代えを着た事がない。
 2人はいつだって、ボロボロで汚れきった隊服を、その身に纏っていたのだ。
 入隊した時の綺麗なものは何処にもなくても。
 その時にしか得られない、大事な疵が沢山刻まれているから。

 「……一つ教えておいてやるよ、シェル」
 「何だ?」 
 「俺は結構——————意地が悪いんだよ!!」

 レトが伸ばした足は、シェルの足を引っ掛けるようにぐっと伸びた。
 思わず重心が前へ出るシェルは、見た。
 闘志に滾る、その目を。

 「——————うらぁッ!!!」

 右にあった短い剣が、同じようにシェルの体の表面を滑る。
 切り上げられた双剣は、そのままレト自身の回転によっていつもの姿勢に戻る。

 「てっめ……」
 「生憎、昔から下衆いやり方しか知らないんでね」

 たった2人で鍛えてきた体は、しなやかに動く。
 血に滲んだ隊服は、脱ぎ捨てられない。

 「はっ……おもしれえ……やっぱお前は面白いよ——————レトヴェール!!!!」

 再び駆け出したシェルは、レトの双斬と対峙する。
 突き放しては、切り刻んで、それを避けて、隙を狙って。 
 距離を取りながら、それでも相手の懐に一気に飛び込んで、機会を窺う。
 一対一の、真剣勝負は、次元技ではない2人の剣術のみによって繰り広げられていた。
 酷く純粋な、実力勝負。



 鋭く尖った氷を、銀の槍が弾く。
 氷で凍った地面を、銀の槍が砕く。
 華麗に戦場を舞いながら氷と対峙するキールアは、すたっと着地。 
 目の前にいる敵を見て、間もなく槍を構えた。

 「流石1、2回戦共勝ち抜いてきただけはあるみたいだな……」
 「……そっちこそ、流石“シード”なだけはあるみたいね」

 キールアは、そっと乱れた呼吸を正す。
 1、2回戦共に相手が女の子だったが故に、男の子を相手にするには厳しく。
 力強さが、女とは違う。腕っ節も、豪快な戦い振りも。
 キールアの細い腕では、氷を弾き壊すので精一杯。
 その先にある、敵本体へ直接的な攻撃ができない。

 「まさかキールアと戦うことになるなんて思ってもみなかったからなあ」
 「それは私も一緒よ」

 ぐっと槍を握る手に力を入れる。
 太陽を浴びて熱を帯びる槍。
 それを掴んだ手も、焼けるように熱くて。
 ふふんと楽しそうに笑うシャラルは、そんなキールアを見据えて。

 「まあ折角の機会なんだ——————楽しくやろうや!!!」

 そんな怒号と共に、冷たく光る氷の刃を放った。
 キールアの眉が一瞬ぴくりと動いた後に、彼女は顔を覆うように槍を両手で掴んだ。
 防いでは距離をとっての繰り返し。前方から物凄い速さで迫る氷を弾いては退く。
 またこれの繰り返しかと、そう思った時だった。

 「第七次元発動——————」

 全ての氷を弾いたキールアが、そっと左手を槍から離す。

 「——————氷柱!!!!」

 地面に掌をつけたシャラルが、彼女には見えなかった。
 氷の渦に巻き込まれ、キールアは空で跳ねる。
 背中を強く強打し、くるりと宙で廻った途端。

 「——————氷撃ィィッ!!!!」

 鋭く尖った幾つもの大きな氷柱が折り重なって、彼女の体に勢い良く突き刺さった。
 瞬間飛び散った鮮血が、氷の上で小さな結晶を化す。
 思わず手放した銀の槍は、氷柱に突き刺さったまま。

 「おっと……傷つけるつもりは、なかったんだけどよぉ」

 ふざけたように頭を掻く彼は、にっと笑って。

 「——————でもしょうがねえよな? これが“決勝戦”なんだから」

 自分が放った氷の山を、拳を握って砕き散らかした。
 大地に叩き付けられた少女の体は、動かない。