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Re: 最強次元師!! 【定期更新】 ( No.953 )
日時: 2014/02/23 09:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第259次元 氷の刃、槍の矛先

 自分の周りで仲間が戦っているのが分かった。
 熱い炎の音が聞こえる。
 必死に矢を引く音が聞こえる。
 聞き慣れた、刃の競り合う音が聞こえる。

 自分の武器は、もう少し手を伸ばしたところにあって。
 でも、届きはしなくて。
 彼女は小さく息を吸っては、また小さく荒く息を零した。
 目の前に転がった自分の血の向こう側に、百槍がある。
 怖くて大嫌いだったものの奥に、自分を支えてくれた英雄がいる。

 ほんの一瞬、高鳴った心臓は。
 彼女の体を、無理やり突き動かすように。
 大きく、跳ねる。

 「……? おーい大丈夫かー? 悪いなー女相手にちょろっと本気が出ちまっ——————」

 腹部に、鈍い感触。
 臓器が口から漏れ出す程の強い衝撃が、彼を襲った。

 「……は……っ?」

 瞬間。

 「——————ぐはァッ!!?」

 風を裂いて、彼は一直線状に遥か後方まで跳んだ。
 口から派手に、血が飛び散った。
 その勢いもまるで止まらず、遠くで金属を掴む音が聞こえた。


 「ん……な、ァ……!?」


 シャラルは、この状況を上手く理解できなかった。
 突然腹部に痛みが走ったかと思えば、今度は強く背中を打ちつけていて。
 加えて腹部の痛みであるそれは槍の矛先が刺さったようなものではなくて。
 足だけで、蹴り込まれたかのような、そんな痛み。

 「……」

 キールアは、槍を掴んだ。
 虚ろなその瞳は、太陽を強く浴びる。
 シャラルは、言葉を失った。

 (……——!!?)

 陽炎に揺らめく、その瞳を。
 彼は確かに、自身の目に焼きつけた。
 太陽が、じりじりと燃える。

 「へえ……」

 体を起こした彼は、腕を構えた。
 どうやら、さっきの言葉一つで彼女の心を駆り立ててしまったらしい。
 そう気付いた彼は、彼女の目を離す事はせずに一歩、踏み出した。
 彼女の瞳は、金に輝く。


 「お前——————本当に“キールア”か?」


 彼女は何も、語らない。


 「今の蹴り、ありえねえだろ……誰だか知らねえけどさ……」
 「……」
 「さっさとモノホンのキールアさん……返してくれよなァッ!!!」

 駆け出した彼は、腕をぐっと後ろへ引っ張る。
 彼女は、片足を退いた。

 「第六次元発動————氷砲!!!!」

 氷が一瞬にして集い、それを砲撃として放った。
 鋭い氷の矢が、幾重にもなってキールアの目の前にまで迫った。
 すっと、腕を伸ばす。

 「————ッ!!?」

 彼女は、槍で氷の砲撃を払い飛ばした。
 砕け散った氷の先に、シャラルはいない。

 「こっちだよ————ッ!!!」

 遥か頭上に、彼はいた。
 掌を強く、強く花開くように。
 力の限り、めいいっぱい開く。

 「氷撃ィィ————!!!」

 今度はバラバラの氷の刃を、キールアの頭上から降らす。
 腕で防ぐ彼女は、もう片手に持った銀の槍を握り締めて。

 「第五次元発動————」

 小さく、口を開いた。

 「————戯旋風ッ!!!!」

 氷も風も全てを巻き込んで。
 彼女は槍を旋風の如く旋回させて、氷を凌いだ。
 自身の放った氷と、旋風の衝撃がシャラルを襲った。

 「うわぁぁ————!!」

 彼は地面の上を派手に転がった。
 まるでカマイタチのような風を直接受け、肌には斬り傷が幾つも見られた。
 いてて、と目を細めていた時。

 「第五次元発動——————衝砕!!!!」

 振り上げた槍の矛先が、しっかりと彼の目に突き刺さった。

 「うぐ……っ!! こっちだって!!!」

 砕かれた瓦礫の中で、彼は手を伸ばした。
 指に乗せたコインでも弾くかのようなその身構えに、キールアは咄嗟に槍を構えたが。

 「氷砲——————!!!!」

 さっきまでとは全く違う細い氷の棒が、彼女の腹部を綺麗に貫いた。
 まるで銃弾でも撃ち込まれたかのような痛みに、彼女は思わず腹部を腕で抑える。
 口から、盛大に血を吐き出す。

 「へへ……まだまだ本番はこれからだぜキールア!!!」
 「……ッ!!」

 金色の瞳が、ギラリとシャラルを睨み付ける。
 彼女と距離を取るシャラルは、ふぅと息をしながら口元を拭った。
 ぺっ、と血を吐き捨てて、彼はそっと腹に手を添える。

 (一番初めの攻撃で肋骨が何本かいってる……慎重にやらねえとな……)

 キールアが再び槍をその手に掴む。
 然しその手もまた、じんわりと汗で湿っていた。
 熱い掌で冷たい槍の柄を掴んでいると妙に気持ちが悪い。
 それでも、離しはしないと。
 ぎゅっと、力を入れる。

 「第七次元発動——————氷撃ィッ!!」

 拳を思い切り地面に叩き付ける。
 その衝撃を伝うように、地面が薄い氷に追われていくのが分かった。
 自分の足元にまで氷が迫った時、キールアは迷わず宙に跳んだ。
 そこで。

 「かかったな————!!」

 跳んだキールアの真後ろに、いつの間にか彼がいた。
 シャラルは彼女の目の前で手を翳す。

 「氷砲————!!!!」

 キールアは、そんな一瞬の出来事を。
 まるでものともせずに。

 「戯旋風————ッ!!」

 氷の砲撃を、見事に砕く。
 こんな容易い作戦なんて、と思っていた。
 その時。


 「だから、“かかったな”って言ったんだよ」


 景色の中に、氷の塊が幾つもあって。
 彼女にとっては、それが死角となっていた事に、本人は気付かず。
 氷と共に宙にいた彼女は、下を見た。

 シャラルは、にっと笑って地面に手を置いていた。

 「氷柱——————ッ!!!」

 地面に這う氷のプレートを派手に打ち砕いて、氷の柱はキールアを包む。
 これは本当に拙いと、ぐっと更に銀の槍を掴んだ時にはもう遅かった。

 「————!!?」

 どすんと、体が地面に落ちる。
 周りには、氷の壁。


 「……っ!?」


 そう。
 ぽっかりと、まるで筒のような空間の中で。
 彼女は咄嗟に思考を失った。

 それが、仇となるとも知らずに。

 「そこならもう、逃げることもできねーよな?」

 聞こえたのは、そんな挑発的な声で。
 その声は、ずっとずっと、上の方から響いていた。

 「第八次元発動——————」

 ふわりと金の髪を揺らして。
 上を見た。

 「——————氷砲!!!!!」

 真上から迫る氷が、自分を包んで轟音を奏でた。
 太くて硬い氷の槍が自分目掛けて降ってくると共に、彼女は咄嗟に目を瞑った。


 「ふぅ……天才ってのは辛いねえ……」


 すたっと空中から落ちるシャラルは、そう呟いた。
 目の前には、大きく冷たい氷の柱が聳え立っていて。
 中で凍っていると思われる金髪の少女は、出て来ない。
 シャラルはやりすぎたか、と言葉を零した。

 (あ……れ……わ、私……)

 冷たい感触が肌を伝ってきた。
 そっと目を開けると、そこには少しだけ歪んだ景色があって。
 周りには、不透明な氷しかない事に気付いた。
 自分は、氷付けにされているのだろうか。
 半分働いていない脳で必死に考える。

 (……よく、思い出せない……でも……)

 動かない体が、どんどん冷えていく全身が。
 自分に力を、与えてくれない。
 心臓の音が、遠ざかる。


 (ああ……私……や、っぱ……り……)


 目を、閉じようとした。
 冷えて遠ざかる意識も、全く動かない体も、まるで死んでいくように。
 ゆっくりと、ゆっくりと、消えていくみたいに。
 すっと、何かが頬を過ぎった。

 その時。


 「ん……——————……はっ?」


 何気なく、シャラルは振り返った。
 そこに、あったのは。


 「寝るにはまだはえーんじゃねえか————————なあキールアッ!!!!」


 橙に光る、炎の景色。

 「何だと————!!?」

 双子と戦っていた筈の紅い少年は、炎を放つ。
 真っ赤に燃え滾るそれは。

 キールアの心に、小さく火を灯した。