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Re: 最強次元師!! 【定期更新】 ( No.955 )
日時: 2014/03/02 10:52
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: 2話同時更新!

 第261次元 右に、左に

 「う、ぐぁ——!!!」

 衝撃に乗って、シェルは派手に地面の上を転がり回った。
 口から、真っ赤な液体が零れ落ちる。
 レトは、剣を払う。

 「ま、まるで別人みたいだな……どうしたんだ?」

 シェルは笑いながら立ち上がった。
 レトはその時、元力の様子が元に戻ったのを感じた。
 すうっと息を吐く。

 (す、すげえ……————)

 レトは心の中でそっとそう呟いた。
 ただ剣を重ねるだけではない。
 息を止めて動きを読んで、刃を受け流して隙をつく。
 そしてそれだけでは止まらず、一瞬の迷いを見せない。
 自信に満ちた一太刀が、一気に相手との実力差をつめる。
 決して、一秒も無駄にはしない。

 正に英雄の名を背負うに相応しい——————絶対な自信と判断力。





 「レト達……大丈夫でしょうか?」
 「心配ないよーっ! レトちゃん達だもん!」
 「……だと良いけど」
 「今のところ……戦況は良くない」

 観客席に並んでいた蛇梅隊の一同。
 そして今まで1、2回戦で戦った相手のチームがじっと会場にいるエポールチームを眺めている。
 ティリナサ・ヴィヴィオの言う通り、戦況は良くなかった。
 今レトが主将であるシェルを押し気味であるとは言え、全体的には押されている。
 とくに双子組には手を焼いている。
 キールアも一瞬人が変わったようにシャラルを気圧していたが、また元通りになっている。
 皆が皆、腕を組んでうーんと唸っていた時。


 「おーやってるやってるーっ」


 背後から、蛇梅隊戦闘部班隊員なら誰でも知っているであろう声が聞こえてきた。
 一同は、咄嗟に振り返った。

 「え……コールド副班!?」

 ガネストの声は、その場に響き渡った。
 名前を呼ばれた彼は、口に咥えていたタバコを指で挟む。
 本部で仕事に追われているはずの彼が、何故ここにいる、と。
 誰もが思った。

 「今はお仕事中じゃないのー?」
 「ん? ああ……その辺は任せろ」
 「任せろっていうか、任せてきたんですよね?」
 「うるせえ! 俺だって副班を代表して態々来てやったんだぞ?」
 「態々……ねえ」
 「本部じゃ他の副班達が泣いてそうだねー」
 「……お前らなあ」

 深いため息は、響く歓声に紛れて消える。
 よいしょ、とコールド副班は空いている席に座り込んだ。

 「どうだ? レト達は」
 「んー……ちょっと苦戦してるみたいです」
 「そうか……なら大丈夫だな」
 「……はい?」

 ガネストが思わず聞き返す。
 コールド副班は、自信ありげに微笑んでいて。
 煙をふうっと吐くと、懸命に剣を振るうレトに目をやった。

 「大丈夫、って……!」
 「だってそうだろう? ————今まで、奴らが“初めから”善戦したことがあったか?」
 「……え……」
 「つまりそういうこった」

 椅子に凭れていた背を、離す。
 その背中を丸めると、彼はふっと笑ってこう言った。

 「苦境から必ず這い上がる力を持ってる————絶対不屈の強い魂持ってんだよ」

 まるで何かを思い出すように。
 彼は、優しい瞳をして言った。
 ガネストは、その表情に言葉を失う。
 心の底から、絶対勝つと信じ切っているからこそ、こんな顔ができるのだと。
 ガネストだけでなく、その場にいた全員が口を開くのをやめた。

 (ま……実際、複雑っちゃあ複雑なんだけどな……)

 レト達ではなく、今度はちらっとデルトールチームの方へ視線を移す彼。
 その中にいる、一人の青年を彼は見ていた。
 そうしてもう一度、同じ言葉を揺らいだ心の中で呟いた。





 「双斬……お前……」

 レトは、握る剣に語りかけた。
 双斬はそんなレトの心の中で、言葉を紡ぐ。

 (……レト、相手の言葉に惑わされないで。剣術の良し悪しなんて、最終的にどうでもいいんだ)

 「……!?」

 (大事なのは、その剣にどんな想いを“乗せるのか”————つまり、その剣に君の全てを託すんだ)

 今までにないほど落ち着ききった声と、静かな口調。
 たった1分にも満たなかったあの凄まじい光景は、全て霊となってしまった彼の仕業で。
 レトも言葉を挟まず、同じように真剣に少年の言葉に耳を傾ける。

 「どんな、想い……?」

 (僕はね、この“双斬”を使っていた時———————憧れの人に“ある言葉”をもらったんだ)

 「……?」

 (何だか分かる?)

 レトは首を振る。
 その瞬間、長い剣は飛んできた。
 その柄をしっかりと握ったシェルが、レトの懐まで一気に距離を縮める。
 レトは気付くのが遅れ、少しだけ服を掠めた。

 (それは——————)

 シェルの剣が、均衡していた力を相殺する。
 弾き飛ばして、剣を振るう。
 レトはその全てに受けて立ってみせた。
 双斬が、息を吸い込んだ気がした。


 (『僕は君の持つ双剣が——————酷く羨ましいよ』って)


 レトも、息を吐いた。

 (彼は言ったんだ……『君は、その双剣に“二つの想い”を重ねることができるんだ』って)

 「ふ、二つの想い……って?」

 シェルは、また剣を振り上げた。
 レトは剣を引いて咄嗟にそれを避ける。
 剣は横に軌道を描く。
 レトがそれを、右の剣で防ごうと、した時。

 強い響きを秘めた幼い声が、怒号となってレトの体中を駆け巡る。


 (“右の手には”——————)

 「————!?」

 (——————“自分の正直な、心を乗せて”!!!)


 双斬の声が、強く心の内側を叩く。
 ドクンと波打つ心の波が、脳に突き刺さる。
 反射的に、レトは片腕に力を入れて————シェルの剣を止めた。

 「……——!?」

 少し前の、双斬がやった時のように。

 「な……う、嘘だろ……!」

 歯も立たなかったシェルの剣技に、片腕だけで対抗してみせた。
 シェルも驚いたまま動かない。
 はっとした彼はまた、レトから離れた。
 心がまだ、忙しく脈を打っている。
 妙なドキドキがレトの中で消えない。

 (そして——————)

 レトは、その先を聞くこともなく踏み出した。
 右の剣を、下げる。
 左の剣は、刃先を変えて。


 (————————“左の手には、大切なものへの誓いを乗せて”!!!!)


 金の瞳が淡く光る。
 シェルが咄嗟に、顔の前で剣を翳した。

 「う、ぐ……————うわァッ!!!」

 真っ直ぐに、迷いなく斬り上げられた一撃。
 押し負けたシェルは、空間の渦に巻き込まれる。
 カマイタチのような旋風の中を、シェルは踊り弾かれる。
 レトは、目を見開いてポカンとしていた。

 「す、げ……」

 (忘れないで、レト……——君ならできるって、信じてる)

 それから、双斬の声は聞こえなくなった。
 千年前、“紅蓮の魔剣使い”とも謳われていた英雄の言葉。
 レトは、双斬の言葉をしかと心に刻み込む。

 「ちょっとは楽しめそうだな……レトヴェール」

 ぺっ、と唾を吐き捨てた。
 彼はにやっと口元を歪ませてゆっくりと歩く。
 そして、加速する。

 「ぐ……!!」
 「ほら、見せろよ……お前の本気を!!」

 剣と剣が鬩ぎ合う。
 レトは、じっと、自分の剣を見ていた。

 双斬はどんな想いを、この双剣に込めていたのだろう。
 どんな決意と誓いを、この双剣に乗せていたのだろう。

 自分なら?
 レト自身、頭がこんがらがっていて状況は呑めずにいる。
 彼がもし、この双斬に何か想いを託すとしたら、どのようなものだろう。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、急にふっとシェルの腕の力が緩んだことに気付いた。

 「————今だ!!!」

 十字に重ねた剣は、隙をついた。
 手押し相撲をするかのように、バランスを崩した光剣が空を舞う。
 レトは、さっきの言葉を思い出した。

 「——俺だって、やられてばっかじゃねーよ」

 すっと、右の手に力が入る。
 彼もそう、やっと。

 この時、“昔の自分”を思い出した。

 不適な笑みも。
 自信に溢れた言葉も。
 何処かの誰かと、背中を合わせて戦った日々も。

 彼の右腕に、その全てが乗りかかった。

 「うりゃあ————ッ!!!」

 彼は知っている。
 諦めろというのは、“彼ら”にとって————その魂に豪なる大火を灯す言葉となる事を。