コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 最強次元師!! 【2話同時更新】 ( No.956 )
日時: 2014/03/03 00:12
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: おまけ更新【終盤間近なのでハイスピードで更新します】

 第262次元 見え始めた光明

 灯がついたように、彼の双斬は唸りを上げた。
 シェルの目前にまで、その刃が迫った時、

 彼は、一瞬だけ迷いを見せ、そして。

 「第四次元————発動!!」

 「——!?」

 「————絶華!!!」

 それはそう、華舞うように。
 目にも留まらぬ速さで、剣は荒れ狂う。
 レトの剣技を凌いで、会場の上で滑り退いた。

 「……!?」
 「あっぶねーなあ……おい」

 わあっと一際大きな歓声が会場を包み込んだ。
 天高く響くその声に、レトはにっと笑う。

 「どうやら今観客は俺の味方みたいだな」
 「どうだか……次元技使っただけでこれたぁすげーな」

 2人は、睨み合う。
 元力を使ったせいか、シェルの光剣の周りには不思議な気が纏っている。
 ぐっと、足で地を踏みしめる。

 「「第六次元発動——————!!!」」

 少年達は、声を揃えて叫んだ。
 試合開始から約1時間が経過していた時。
 両者は初めて次元と次元をぶつけ合う。
 剣士を超えた、次元師になる。





 「ったく……どうすりゃ良いんだよこれ!」
 「落ち着けサボコロ! 幸い奴らは何かを相談し合っているようだ……作戦会議するなら今だぞ」
 「つってもよぉーっ」

 丸くて長い縄は、未だにサボコロとエンの周りを這っていた。
 その中でしか、本来の力は出せない。
 その上エンの腕に巻かれた縄は、エンの元力を抑え込む働きをしていて次元は使えない。
 サボコロの不安定な次元の扱い方も考慮に入れると、とても優勢とは言えない状況だった。
 勿論、それは本人達が一番分かっている。
 だからこそ、彼らは打開策を見つけようと必死に脳を回転させているのであった。

 「あいつらをここにおびき寄せるとか?」
 「態々敵地に出向いたりはしない……下の縄を外すのが先だろうな」
 「外すって……! さっきびくともしなかったんだぞ!?」
 「だから今考えているんだろう。……もう少し冷静になって考えろ、阿呆」

 そんなエンの言葉に、サボコロは言葉を挟むのを諦めた。
 昔から、難しいことを考えるのは苦手だった。
 それ故に深く考えずに真っ先に失敗をしてしまうのだ。 
 然し、そんな性分もここでは言い訳にすらならない。通用はしない。
 考えるのが苦手な彼も、当然懸命に考えを巡らせる。

 「……俺に、考えがあんだけど」
 「貴様に……? 何だ、言ってみろ」
 「っ……、う、疑わねーの?」
 「阿呆。こんな状況で冗談がかませるか」
 「それもそうか」

 サボコロは、考えた。
 それを、エンにそっと耳打ちする。
 彼は驚いた。

 「……!」 
 「できるかなんて分かんねーし、時間もそれなりに必要になるんだけど……でも勝算は……」
 「……はっきりと言え」
 「……——時間を、稼いでくれ」

 今までにない程の、真剣な眼差し。
 真っ赤な火が灯っているかのような紅い瞳が、エンに真っ直ぐ向けられた。
 お互いを拒絶することを辞め、認め合い、背中を預け合う。
 まるであの義兄妹のような、護り合い信頼し合う戦い方に誰もが憧れていたのもその筈。
 エンは、ふっと笑った。

 「俺を誰だと思っている————————お安い御用だ」

 いつの間にか、この2人の間にも。 
 何故かあの義兄妹の背中が、重なるようになっていた。
 エンはサボコロから視線を逸らして、双子へと顔を向ける。 
 どうやら向こうも、話し合いは終わったようだ。

 「さってさてー! 出られない壁の内側にいるお前たちの、見物でもするかなっ」
 「この間にちゃっちゃと他の奴らやっちゃおーよー! 構ってる時間ないんだからね!」
 「まあまあ良いじゃないか。弱者が無様に足掻く姿も見物だぜ?」

 エンは、弓を構えた。
 戯言には興味がないとでも、言うように。

 「おっと? そっちがその気なら、こっちにも考えがある」
 「そうだね————あたしの出番!」

 鈴のついた紐を、盛大に広げる。 
 宙に浮くそれは、しゃらんと音を立てた。

 「第七次元発動————っ!」

 少年は一瞬の迷いも見せずに
 ぐっと弓を引き絞る。

 「————っ!?」

 リリアンの髪の毛を裂くように。
 一本の細い矢が彼女の頬を掠めた。
 鈴を持つ手が無造作に揺れる。

 「どうした? 音は鳴らさないのか?」
 「こんの——っ!」

 エンの言動に、リリアンは一瞬でかっとなる。

 「次元技使えない次元師なんて————ただの人間なんだからね!!」

 鈴は——広がった。

 「第八次元発動————鈴鳴!!!

 突如、エンの脳内に激痛が走った。
 それは脳の内側から叩きつけるような激音の痛み。
 彼は、弓を落とす。

 「うぐ……!!」
 「八次元級だよ? ——簡単に破れると思わないでよね!」

 サボコロはエンの声に反応して我に返った。
 集中を途中で切らせ、エンに目をやった。
 頭を抱えて必死に痛みを堪える彼の姿が、目に入った。

 「エン!?」
 「阿呆!! こっちには来るな!!」
 「……!?」
 「貴様は貴様のやるべき事に全霊を注げ!! 俺に構っている暇などない筈だろう⁉」
 「でもお前が……!!」
 「言った筈だ……——貴様に心配されると気色が悪いと」

 エンは、後ろを振り向かなかった。 
 まるで大事な人を守るように。
 誰も、傷つけないように。
 己が盾となって————その場で立ち上がる。

 「無茶はよくないなあ……」
 「サボコロ君、助けてあげないの? 仲間が痛みで死んじゃうかもよっ?」
 「く……っそ……!!」
 「じ、時間を……稼げ、と言ったのは貴様……だろう……」
 「……エン……」
 「普段何も考えない貴様が必死になって生んだ結果なら————それに従うまでだ」

 それはエンの、素直な気持ちだった。
 声はやわらかく、表情は見えなくとも分かる。
 決心した。今はサボコロに、全てを託してやると。

 サボコロの中でマグマのように、燃え上がる感情が
 一斉に————全身を駆け巡った。

 ————————そんな、時だった。

 「そうだな————エン」

 彼は一歩、踏み出した。
 前屈みになって立つエンの肩に
 自分の手を、ぽんと置いた。
 サボコロの瞳に、火がつく。

 「集中するとか元力捉えるとか……やっぱよく分かんねえよ」
 「さぼ、こ……っ」
 「でもこれだけは分かる————」

 サボコロは腕を上げる。
 ぎゅっと、力強く拳はその形を成した。

 彼の中で————何かが、溢れ出す。


 「てめえを犠牲にしてまで——————得るもんじゃねえって!!!」


 大火は放たれた。
 拳は————地面を強く叩いた。


 「——————炎柱!!!!」


 それは、一次元級のものの筈だった。
 普段の生活の中で使うような、弱い火の筈だった。

 然し目の前に広がったのは。
 人間に死の恐怖を与えるほどの————“獄炎“

 「何だと————!!」
 「リリエン逃げて——っ!!」

 縄の近くにいた双子は
 同時に戦火の中へ巻き込まれてしまった。

 「今のは……」
 「……」
 「何か、掴めたようだな」
 「……だと良いんだけどなっ」

 セルナと特訓していた日々を思い出した。
 その数は少なかったけれど、確かに今のような感覚に目覚めたことはあった。
 熱い元力が、体中を駆け巡る。
 普段大人しい獣が、突然牙を向くように。 
 サボコロはじっと自身の右手を見つめた。

 「あ、おいエン……!」
 「何だ?」
 「縄が……」

 2人の周りを囲むように。
 2人にまるで、テリトリーでも与えるように。
 張られ、這い蹲っていた縄が、無くなっていた。

 「今の炎で……!?」
 「マジか……」

 分厚い煙の向こうに、揺らめく影は2つ。
 苦しそうに咳を吐いて、双子は姿を現した。

 「どんだけだよ……ったくよ」
 「ホント意味不明! 意地悪いの大っ嫌いっ!!」

 リリアンは、片手に鈴を。
 リリエンは、片手に縄を。
 両者ともすぐに戦えるように、腕を構えて歩いてきた。

 「こっからがホントの本番だぜ!!」
 「……調子乗んないでってば!」

 人で溢れ返る観客席。
 その一席で、必死にサボコロを見守るセルナは、
 またぎゅっと、強く強く祈るように————手を握りしめた。