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Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.957 )
日時: 2014/03/05 19:53
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: 【終盤間近なのでハイスピードで更新します】

 第263次元 自分と、他人

 キールア・シーホリーは驚いた。
 氷が目前まで迫ったところで、その全てが赤く飲み込まれたのを見たのだ。
 シャラルも目を見開いて、何が起こったのか分からないといった表情である。
 その炎はただ、威力あるままに放たれたものではなくて。 
 まるで強さそのものを抑え込んだかのような、威力の塊。

 「あいつ……!」

 (サボコロ……——)

 今までの彼の次元技から、考えもつかないような光景だった。
 目を向けると、彼もまたきょとんとしている。

 「そうか、あいつ炎の次元技を……——それなら!」
 「! ちょっとあんた——待ちなさい!!」

 キールアと対峙していた彼は、急に向きを変えた。
 彼女もまた彼を追う。
 氷を使う彼にとって、炎の次元技は弱点そのもの。
 サボコロを先に討っておこうと、そう思ったのだろう。
 サボコロ本人は、その事に気付かなかった。

 「第六次元発動————氷砲!!!」

 怒号が、キールアの耳に突き刺さる。
 彼女は、睨むようにして前を見る。

 (————間に合え!!)

 刹那。
 気づかないサボコロの目前に、細い氷の閃光。
 エンが口を開けた時、

 誰かが、サボコロの体を押し飛ばした。

 「————っ!?」

 地面を転がるサボコロは、頭を抑える。
 何が起きたんだ、と細い視界で前を見た。

 キールアが、腹部から血を噴き出して立っていた。

 「え……——っ」

 彼女は膝から崩れ落ちた。
 しっかりと槍の柄を握ったまま、だらんと項垂れる。
 サボコロは急いでキールアに駆け寄った。

 「おいキールア!! しっかりしろ!!」
 「さ、サボ……良か、った……間に合っ……」
 「お前そんな体で……おいしっかりしろってば!!」

 シャラルは、驚愕の表情だった。
 サボコロに向けて放ったものが、キールアに突き刺さった。
 彼女は既に満身創痍だったはずだ。
 少し前に脇腹も貫いている。
 泣きたくなるほど傷つけられている。
 それでも泣かない。
 弱音も、決して吐かない。
 ただ諦めるか、といった表情で敵を見据える眼は、
 シャラルに、深く突き刺さっていた。

 「何で……」
 「おいキールア!!」
 「他人の為に……そこまでできるかよ……」

 彼は、キールアを知っているつもりだった。
 最初に会った時、彼女は普通の女の子で。
 可愛らしくて、弱弱しくて、あの義兄妹に守られている存在で。

 次の見たのは、戦場で治癒を行う次元師の彼女だった。
 彼女も次元師だったのか、と少し残念な思いを抱いたのを、覚えている。
 でもその姿も、昔とあまり変わりはなかった。

 然し。

 「大丈夫だよ……もう平気。ありがとう、サボコロ」

 彼女は立ち上がった。
 体が何度悲鳴をあげても、それを表には出さない。
 口にも出さない。諦めたいとも、言わないまま。

 それは、今までシャラルが見てきた彼女の姿ではなかった。

 「あいつぜってえ許さねえ……!!」
 「サボコロが無事なら良かったんだよ……狙われてたんだから」
 「尚更許せねえよそんなん!!」
 「……!」
 「無茶すんなよ、キールア。俺達が守ってやるから」

 サボコロは、キールアの頭に手を乗せた。
 わっ、と驚くキールアも、少しだけ笑った。
 その瞬間だけ、全ての痛みを忘れられた。

 「ちょっとシャラルっ! 邪魔しないでよねーっ」
 「そっちの男が先だっつの……くそっ」
 「あら? ご機嫌斜めみたいっすね」
 「……そうでもねえよ」

 目の前で見た。
 自分にはないもの。
 自分の体も省みずに、他人を救える勇気。

 「あいつらってなんか……不思議だよな」
 「ああ?」
 「さっきもそうだったよ、サボコロ君の為にってエン君は必死に痛みに耐えて」
 「今までもそうだったみたいだし……なんか変—っ」
 「……」

 他人の為、ではないのかもしれない。
 もしかしたらもう、彼らにとっては
 お互いは他人ではないのかもしれない。

 「俺は……人間ってのは“自分”と“他人”で構成されてると思ってた」 

 シャラルは、ぽつりと呟いた。
 リリアンもリリエンも、思わず彼の方へ目を向けた。

 「シャラル……?」
 「あいつらには、それ以外の“何か”があるのかもしれねえ」

 得体の知れない感情。
 想像もつかない、不思議な関係。
 モヤモヤした頭を、シャラルは掻き回した。

 「まあ折角の機会だ————今度は3対3でやろうぜ」

 リリエンの提案を、否定する者はいなかった。
 キールアは、サボコロとエンの後ろに立つ。
 溢れて止まない血が、彼女の内側で煮え立つようにドクドクと音を鳴らしていた。

 「すまないキールア、俺は今次元技が使えない」
 「……!? そうなの?」 
 「ああ……必ず打開策を見つけてみせる」

 エンの、力の入った目。キールアはコクンと頷いた。
 見るからにサボコロもエンも傷だらけで、これ以上動くには困難だ。
 自分の体だって、あと何分もつか分からない。
 自分の気持ちが諦めるその前に、決着をつけてやると。
 もう一度、その胸に誓いを立てた。

 「——————炎撃ィッ!!」

 サボコロが、炎を放った。
 いつもと違う、力を圧縮する事を覚えた勢力のある次元技。
 リリアンは鈴を広げた。

 「鈴解————っ!!」

 炎を、鈴の奏でる音で、掻き消した。
 瞬間、技は紡がれる。

 「氷撃ィィ————ッ!!」

 炎が消えたと同時に、空洞から氷が弾き飛んでくる。
 キールアが駆けて出た。

 「戯旋風————!!」

 槍は唸るように旋回する。
 氷は壁にぶち当たったかのように、派手に砕け散った。
 サボコロは走り出す。

 「見え見えなんだよ————絡縄!!」

 リリエンの縄が、走り出したサボコロの体に巻き付いた。
 バタンと倒れるサボコロ。
 キールアは慌てて走り寄ろうとする。

 「サボコロ——っ!」

 彼女の視線が、敵から外れたと同時。
 鈴は、しゃらんと鳴った。
 刹那。

 「————言ったはずだ」

 小さい声は。
 自分の鈴を、弾き飛ばした。

 「音は……——鳴らさないのか、と」

 自分の鈴と矢が、地面を滑る。
 またやられた。
 リリアンは悔しさを胸に、荒々しく落ちた鈴を掴み取る。

 「ふざけんなって言って————!!」

 キールアは、駆けだしていた。
 しゅん、と金の髪は大きく揺れる。


 「————敵は目の前だけじゃないのよ」


 空高く。
 金の少女は————槍の矛先を、地へと向ける。

 「堕陣————必撃ィッ!!」

 地面を砕く音が響いた。
 衝撃で跳んだ3人は、地面に転がる。

 「ごほっ! げほ……ぐ、くぅ……」
 「大丈夫か? 2人とも」
 「あ、ああ……」

 キールアは元の居場所へ駆けて行く。
 サボコロとエンを守るように、立ち塞がった。

 「無茶はするなよ、キールア」
 「エンこそ」

 サボコロは必死にもがくが、縄は解けない。
 次元級もきっと大きい。並の力ではどうにもできなさそうだと気付く。

 「まった小細工……————鈴鳴!!!」

 鈴が音を鳴らしたと同時に、2人は頭を抱えた。
 頭の中から響き渡る激音が、再び襲う。
 それでも。

 「こんな、もん……?」
 「拍子抜けだな……————全く!!」

 エンは弓を引き絞る。
 キールアは、顰めた顔で槍を構えた。

 「「————ッ!?」」

 真正面から、キールアが突っ込んでくる。
 驚いた3人は、次元技を、態勢を、構えた。

 「バカじゃないの? ————真正面から突っ込んでくるなんてさ!」

 鈴を広げる。腕を構える。
 キールアは、瞬間に、その場で急停止した。

 「————は?」

 ばっとしゃがみ込んで、笑う。
 刹那————矢は放たれた。

 「「「————っ!!?」」」

 3人の、目の前。
 キールアが視界からどいた瞬間に、無数の矢が3人に突き刺さった。
 足を伸ばして、キールアも振りかぶる。

 「ちょ……速————っ!!」

 槍の矛先は、地面を指す。

 「————衝砕ィ!!!」

 叫んで、止まった。
 一瞬にして、腕が止まったのが分かる。
 シャラルは、尻餅をついたまま腕を伸ばしていた。

 「————氷撃」

 氷漬けにされた腕が、槍を巻き込んで凍っていた。
 シャラルが足を伸ばす。
 キールアは派手に転がった。

 「いっつぅ……」
 「あっぶねえな……つか、おっかねえ」

 キールアを囲むようにして、3人が立つ。 
 転がったままのキールアが上体を起こした時。
 既に自分が包囲されている事に気付いた。
 3人の表情が、キールアの背筋を一気に凍らせた。

 (まずい————っ!)

 エンが慌てて駆け出した。
 然し鈴鳴を受けている彼は、その場で膝から崩れ落ちた。
 それを見たリリアンはたった一人でしゃがみ込んで、可愛らしい表情でにぱっと笑う。


 「————ここまでみたいだねっ?」


 鈴は、しゃんしゃんと、音を鳴らした。