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Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.958 )
日時: 2014/03/09 10:12
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: 同時更新!

 第264次元 禁忌

 その光景は、たった数分の出来事であった。
 会場が息を呑む。騒いでいた観客の声も遠くなっていく。

 リリアンは、笑った。

 「第七次元発動————音疵!!!」

 キールアの頭の中で、何かが弾き飛んだ。
 無音。静寂。何も聞こえない世界が一気に彼女の中で広がった。
 ぴたりと、足を止めた。

 「え……何も聞こえな————きゃあっ!!」

 ズキズキッ、と頭の中から鈍器で叩かれるような痛み。
 体の節々から、血が溢れ出す。
 音がそのまま疵となる、無音の次元技。

 「キールア!!」

 縛られたままのサボコロが叫んだ。
 キールアは、その場で蹲る。
 既に体は傷で溢れ返っている。
 それなのに彼女の体から、鮮血が空を舞う。
 体を震わせながらも、立ち上がる。

 (音が……聞こえない……————)

 でも、と。
 槍に再び力が入る。
 血で滾る掌で、鉄の塊を掴んだ。
 よろめいて、息を深く吐いた。

 「はは! 絶対絶命だなあ、おい!」
 「全員次元技使えないんじゃあもう、おしまいかなあ?」
 「これでくたばる奴らじゃない気もするけどな……」

 エンは痛みの走る頭を抑え込んで、キールアの元に駆け寄った。
 彼女は、カタカタと震えている。

 (何で……何で俺は……————っ)

 サボコロは、必死に転がった。 
 声は出せる。然し手の位置、足の位置が悪い。
 このまま次元技を出しても、自滅するだけ。
 然し目の前には、次元技の使えない2人がいる。
 ただ転がっているだけの自分とは、違って。

 「……安心しろサボコロ……キールアは俺が守ろう」

 エンは、キールアの前に出た。
 腕に巻かれた縄を、解かないまま。

 「何言って——!!」

 シャラルが、一歩前に出る。
 手を翳して、ゆっくりと。
 やめろ、やめろと。
 サボコロの中で、心臓は忙しく脈を打つ。

 「残念だよホント……——勝ち目なんて、最初からなかったろ?」

 意識が朦朧としていて、分からない。
 キールアはぐらつく視界の中で、ただ目の前にいるエンだけを見据えた。
 彼は何をしようとしているのだろう。
 自分は今、何をしようとしているのだろう。

 サボコロは、叫んだ。


 「やめろォォ————ッ!!!」


 鋭く尖ったナイフのように。
 2人に突き刺さる、氷の刃。

 全てが、スローモーションにも見えた。
 氷が飛ぶ。エンの体に、キールアの瞳に。
 その全てが、勢い良く放たれ貫いた。


 彼の心臓に、灯は焚きつけられた。
 ドクンと、心臓はそれを知らせるように大きく高鳴る。
 彼の中で、彼の視界の中で。
 何かが、動き出す。

 「う……ぁ……っ」

 何かを吐き出そうとしているようにも、見えた。
 彼は、不安定な足取りで立ち上がる。
 膝から落ちて、頭はぶら下がった。

 その時。

 「うあああああああ————っ!!!」

 雄叫びが、会場を包み込む。
 倒れた2人を見下ろしていた3人の視線が、サボコロに集まった。
 騒ぎ立てる会場。遠くにいたレトも、思わず顔を向けた。

 彼の中で、渦巻く何か。
 それを彼は、塞き止めようと、していた。
 会場席にいる、セルナの心臓も高鳴っていく。
 もしかして、と。
 不安が脳裏を過った————正にその時。

 「——————なあ」

 体は縛られたままだった。
 いつだって熱い彼の言葉が、酷く冷たく会場に響く。

 「……ああ?」
 「“どうしようもなくなった時”……って、いつだ?」
 「はあ?」

 サボコロが揺れる。
 緊張の走る会場で、彼は一人冷静だった。

 「……悪いな————セルナ」

 小さい声だった。
 それは、彼女に届くはずもない音だった。

 彼女の頬に——————涙は伝う。


 「今しか……————————ねえだろ!!!!」


 彼は吠える。怒りの波は空間を伝う。
 溢れ出したかと思った力の流れは————————“止まった”。

 刹那。


 「第八次元発動——————」


 彼は未だに縛られたままだ。
 にも関わらず、彼の周りは炎で溢れる。
 誰もが背筋を凍らせた。誰もがこの時恐怖に陥る。

 灯のついた彼の瞳が————シャラル達に焼きついた時。


 「——————————獄炎撃ィ!!!」


 放たれた大火は——————会場中を巻き込んだ。
 それは、さっきまでの炎とは、比べ物にならない程。
 死の恐怖を、一瞬にして焚きつけられる。

 全ての元力を圧縮し放たれたそれは、その場にいた英雄大六師にある記憶を蘇らせた。


 (嘘だ……こんな炎——————あの時の……!!)


 会場はざわめく。
 炎の海は、観客達の目前にまで迫り、奇声や叫び声も鳴り響いた。
 遠方にいたレトもシェルも、呑み込まれる。

 『き……危険です!! 非常に危険な炎が会場を包み込んでいます!! 速やかに火の届かない所まで避難して下さい!!』

 アナウンスが響く。会場はまだ焦りと不安と怒号で溢れ返っていた。
 サボコロはただ、ぐったりと地に伏せる。
 セルナは一人、震えて立っていた。

 「ちょ、セルナここ危ないよ!? 早く逃げないと!!」
 「……」
 「セルナってばあ!!」

 ミルが腕を引こうとする。然しセルナは動じない。
 じっと、目を見開いて彼を見ている。
 自分のせいだ、と身も心も震えて止まらない。

 「ごほっ……げほっ、げほっ……」
 「だ、大丈夫か、キールア……!!」
 「大丈夫っ……何とか百槍で……サボコロは!?」
 「それが……」

 薄暗い煙の中で、彼は倒れていた。
 キールアは口を押えながら、必死に彼の体を揺さぶった。
 返事はない。

 「サボコロ! しっかりしてよ!!」
 「ダメだ……気を失っている……早く俺達も……っ」

 サボコロを背負って、深い煙の中から出る。
 彼は起きない。ぐったりとしたまま、動かない。
 デルトールチームの3人も、伏せったままだった。

 「何が起こって……」
 「……」

 被害の少なかったレトとシェル。
 2人は腕で顔を覆いながらサボコロの方へ向いていた。
 何をしたんだと、レトも焦る気持ちを抑えられない。
 悍ましくて恐ろしい元力の塊を放り投げられたかのような感覚だった。

 「……! リリエンリリアン! シャラル!!」

 シェルは駆けだした。
 伏せていたリリエンの顔を、くるりと回して仰向けにさせた。
 彼もまた返事をしない。

 「どうしてこんな……っ」

 シェルの中で、何かが沸き上がる。
 レトも、咳を繰り返すキールアとエンの姿を見つけた。
 どうやら意識はあるみたいだと、安堵した時。

 「許さねえ……あいつ……!!」

 シェルの中から、聞いたこともないような低い声。
 はっとしてレトはシェルを見た。
 その表情は——怒りに満ちていた。

 「シェ……!」

 レトの声は届かず。 
 シェルは————迷わずキールア達のいる方へ加速した。

 「————なっ!?」

 驚いた時には遅かった。
 キールアの背中に乗っていたサボコロに、彼は斬りかかる。

 「くらァッ!!」

 気配を感じたキールアは、振り返った。
 反応もできず、目を見開いて。
 鮮血は、舞った。

 「————……っ!」

 ガシャン、と響く金属音。 
 双斬は、落ちた。

 「……!」
 「傷つけなんて、させねえよ……!!」

 レトは、キールアの目の前で立ち塞がっていた。
 闘志に滾る瞳を見て、シェルも我に返る。

 「シェル……」

 シェルの背後から響く、弱弱しい声。
 リリエンもリリアンも、そしてシャラルも。
 よろめきながら立っていた。

 「お前ら……!」
 「私達は大丈夫だから……」
 「頭に血が上るなんて、らしくねえんじゃね?」
 「一杯喰わされただけだ。すぐにやり返す」

 バラバラに戦っていたはずの4人は。
 この時初めて、心を完全に一つにした。
 レトは斬りつけられた腹部を抑えてがくんと落ちた。

 「レト!!」
 「大丈夫か? キールア」
 「私は平気……でも、サボコロが!」
 「意識はねえみたいだな……」

 再び、1人を欠いた7人が同時に向き合った。 
 誰もが傷だらけで、誰もがもう体力すらも残っていない終盤。
 先に大将を討った方が勝ち。
 デルトールチームの視線は、レトに集まった。

 「最終戦だ……派手にやろうぜ? レトヴェール」
 「はっ……死ぬまで戦う気かよ」

 挑戦的な瞳が交差する。
 キールアもエンも、立ち上がった。

 太陽が落ちる。
 8人の影を、夕焼けは照らし出す。
 紅く染まった会場は、もう一度————戦士達の勇士を抱いた。