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Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.959 )
日時: 2014/03/09 19:53
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: 同時更新!

 第265次元 力を振り絞って

 「ねえセルナ……」
 「あ、はい……何でしょう?」
 「サボコロ君のやったアレ……何だったの?」

 ミルは不安げに、セルナに問う。
 彼女は、紅い会場を見下ろした。
 炎は消えた。然し彼は起きないままだった。
 ぎゅっと胸の辺りを掴む。

 「全元力を……圧縮する禁忌の技です」
 「え!? ぜ、全元力って……!!」

 ミルは驚いたといった表情でただ、セルナを見る。
 コクン、と彼女は力なく頷いた。

 「そんなことって……」
 「やろうと思えば……誰にでもできるものです」
 「え……?」
 「ただ、リバウンドが、代償が、大きすぎて……」

 溢れ出しそうな涙を、彼女は必死に堪えていた。

 サボコロと修行を始めて数日後。
 明日決戦を迎えるサボコロは、元力の制御が未だできていなかった。
 心苦しくて、笑うのも辛くて、セルナはその時、昨夜の事を思い出した。
 サボコロに禁忌を教えたのは、それが理由でもあった。

 『なあ炎皇……俺さ』
 『んー?』
 『どうやったら……強くなれんのかな』

 炎皇は驚いた。
 その台詞を聞いたことはあった。然しその表情は。
 優しくて、横暴ではなくて、ただ強くなりたいという切実な表情だった。

 『エンも、キールアも、レトも……必死になって頑張ってる』
 『それはお前もなんじゃないのか?』 
 『俺はただ……足手まといになってるだけだよ』

 自分の人生を捨てたキールア。
 自分の足を、己の矢で貫いて、サボコロの仇を討ったエン。
 自分がどれだけ傷つけられようと、一瞬たりとも諦めを見せなかったレト。

 いつだって彼らは、他人の為に何かを捨てていた。
 それなのに、自分は何も賭けられず、護られるばかりだと。

 『エンと両次元発動できたのだって、お前のおかげなんだぜ?』
 『そうかもしれねえけど……でもさ』
 『?』
 『やっぱりなんか思うよ……俺にも、皆を守れるほどの力があれば良いのにって』

 皆を守れるほどの力。
 彼はそう言った。今までよりずっと、力の入った言葉で。
 セルナはその言葉を聞いて翌日、悪いとは思っていても、教えてしまったのだ。
 皆を守れる力が欲しいと彼は言った。
 彼女なら、それを教えることができる。
 とても単純なようで、それは単純ではないことを知っていた。
 だから彼女は今になって、とてつもなく後悔をしていた。

 「サボコロさんの力に……なりたかったんです……ただ、それだけで……」
 「セルナ……」
 「私は……彼に“罪”を教えただけだった……っ」

 ミルは、その言葉に大きく反応する。
 罪、それは彼女の心に重たく乗りかかった。
 彼女は、会場を見下ろした。
 レトもキールアもエンも、そして倒れたままのサボコロも。
 必死に何かと戦っている。
 剣を振るって槍を振り回して、弓を引き絞って。
 サボコロの姿を見ただけでも、胸が張り裂けそうな痛みに襲われる。

 「私はただ……————彼の笑う顔が見たいだけだったのに」

 方法を教えてもらったサボコロの顔は、とても喜に満ちていた。
 ただ、危険だから控えてほしいと、一言セルナは添えた。
 それがこんな結果を招いてしまうとは、分かってはいたのかもしれないけれど
 あまりにも酷な現実だと、思った。

 セルナは語る。
 ミルはただ、静かにそれを聞いていた。





 「うらァ——ッ!!」

 双剣は唸った。シェルは、その一撃を防ぐ。
 向かってくる氷の刃を、キールアは自分を盾にして躍り出る。

 「!! 大丈夫かキールア!?」
 「平気っ! 私の心配はしないでっ」

 彼女は駆け出す。
 その時エンは、じっくりと自分の腕を見ていた。
 縄は、燃えてなくなっていた。

 (サボコロ、感謝する……————必ずこの手で勝つと誓おう!!)

 弓を、引いた。

 「一閃————!!」

 煌めいた一撃は、双子に向かって放たれた。
 鈴も縄も、同時に広げた。

 「————鈴解!!」
 「————絡縄!!」

 鈴が弓の軌道を弾いた。縄は、真っ直ぐにエンに伸びる。
 彼は弓を片手に、器用な動きでその全てを避けきった。

 「はあ……は、ぁ……っ」
 「これじゃ、キリねえぞ……!!」
 「……っ」

 主将同士、未だに剣を重ね合っている。
 然し残った5人は、荒く呼吸を繰り返している。
 ちょっと前には、深く煙も吸い込んでいる体。
 体はガタガタと震えている。

 (体ぶっ壊れる前に……大将やっちまった方がはえーんじゃねーか?)

 シャラルはちらっとレトを見る。
 彼も傷だらけだ。然し残りの5人ほどではない。
 やるなら今だと、決意を新たにする。

 「悪いなシェル……これ以上はもちそうにねえや」

 シャラルは腕を構えた。
 レトに向けられているものだと、キールアは咄嗟に気付く。
 彼女は、またしても前に出る。

 「邪魔すんなよキールア」
 「何で? レトは私達の仲間だよ」
 「死ぬぞって言ってんだよ」

 お互い、本気だった。
 どちらかの大将を先に討った方が勝ち。
 答えは至ってシンプルだったとシャラルは笑う。

 「自分のことを傷つけてまで、俺達が戦い合う理由なんてなかったんじゃねーの?」
 「何を言ってるの? ……私はただ、レトを守るだけよ」
 「ご立派だな……もう、動けねーんだろ?」

 女のキールアに、その言葉は深く胸を貫いた。
 分かってはいた。自分は元々体力が少ない。
 つい最近まで医者の卵だった彼女に、戦闘は厳しすぎると。 
 寧ろここまで上り詰めてきたことが奇跡だったと。
 誰もが思っている事だった。

 「自分がどうなっても良いっていうのかよ」
 「今までレトが、ロクが……私のことを守ってくれたから」
 「だから引き下がれねえって?」
 「今度は私が、守る番でしょう?」

 槍を構えた。腕はすっと伸びる。
 後ろで戦うレトに、視線は向けない。

 「それじゃあ仲良くくたばれよ————っ!!」

 腕を振り上げる。
 彼女は、片足を引いた。
 その時。

 「——————真閃!!」

 瞬く間に放たれた一閃。
 シャラルの腕を目がけて、矢は空を駆けた。

 「何……っ!?」
 「誰であろうと……レトの事は傷つけさせはしない!!」

 鈴が、鳴り響いた。

 「だったらあたし達だって————同じ気持ちなんだからね!!」

 広がる音は、彼らに襲い掛かった。

 「————鈴鳴!!」

 彼女は喉を引き裂く思いで、そう叫んだ。
 キールア達の脳内に、激音は響く。

 「……エン! キールア!!」

 頭を抱えるキールアとエンを見つける、レト。
 駆け寄ろうとした、その時。

 「レトヴェール……——余所見なんてらしくねえぞ!!」

 彼の刃が、レトに向かう。

 「第七次元発動————四斬切り!!」

 剣は吠えた。彼はそれに————受けて立つ。

 「十字切りィ————ッ!!」

 真空派が、空を伝った。轟音と共にそれは散る。
 煙を巻き込んで、レトは後ろに引き下がった。

 「シェル————どうする?」

 リリエンはそっとシェルに近寄った。
 その言葉を聞いて、剣を握っていたシェルが顔をあげた。
 楽しそうな顔で、煙に塗れた景色を見据える。


 「レトに本気を————出させてみようと思う」


 ぼそっとそう、呟いた。
 リリエンは笑う。

 「そうこなくっちゃな——————絡縄!!」

 ばっと空を飛ぶ縄が、煙を吹き飛ばす。
 そうしてレトの周りに巻き付いた。

 「何だよこれ……————うわぁぁっ!!」

 彼の体は思い切り締め付けられる。
 持っていた双斬も、その時弾き飛んだ。
 跳んだ双斬は、サボコロの近くまで滑ってきた。

 「く……そう、ざ……!!」
 「武器の心配をしてる場合かよ……レトヴェール」

 レトの首元に伸びる、刃先。
 剣は今正に、彼の瞳に映った。

 「ここで終わりにしとくか?」
 「……んなわけねえだろ!!」
 「そうか……お前ホント意地が悪いよな」

 レトの頭上に、剣が振り上げられる。
 降参した方が早いのかもしれない、然しレトはそれを決して認めはしない。
 何かできるはずだと、思った時。

 紅い炎が、今一度姿を現した。

 「炎撃————!!」

 シェルに向かって、炎は放たれた。
 思わず剣の態勢を変えて、それを防いだ。
 サボコロは、立ち上がった。

 「まだ終わりになんか……しねーよなあ……——レト!!」

 渾身の力で、双斬を投げる。
 空を飛ぶ双斬が、地面を滑ってレトの真横に運ばれた。
 元気の良い彼の声が、レトの耳に響く。

 いつも通りの、無邪気な笑顔。
 サボコロは、笑った。