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Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.960 )
日時: 2014/03/10 23:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: 今回は、本作の大きな節目になるのかな。

 第266次元 新たなる力

 歓声は、一斉に上がる。
 その声は止まないまま、ただ会場に高らかに響いた。
 セルナはただ一人、涙を零していた。

 「さ、ぼこ……ろさ……っ」

 いつもと違って白いバンダナを巻いていないサボコロは、笑っていた。
 もう立っているのもやっとのはずの彼が、レトに向かって声をかける。

 「お前も縄かよ……それ、態勢が辛いだろっ?」
 「はは……経験者は語る、ってか」

 サボコロに続いて、キールアとエンも、歩み寄ってくる。
 思わぬところで邪魔をされたシェルは、笑った。

 「嘘だろ……流石、エポールチームは底知れねえな」
 「本気……出させるんじゃなかったのか?」
 「まあな……ちょっと先延ばしになっただけだ————今からやってやるよ」

 会場内の、雰囲気は変わる。
 縄に縛られたままのレト。目の前に立つ、3人の仲間。
 誰もが傷を抱えて尚、そこに立つ。
 英雄になる、たったそれだけの想いの為に。

 「フィナーレだ————————シャラル!!」
 「おうよ!! ——————氷撃!!」

 氷の塊が、一斉にエポールチームを襲う。
 迷わずキールアが出た。

 「戯旋風————!!」
 「炎撃————!!」

 氷を弾いて、破片は溶けた。
 既に弓を引いていたエンの指が、離される。

 「——複閃!!」

 何本もの矢が、4人に迫る。
 鈴の音色は、激しく響いた。

 「第八次元発動————————鈴鳴叫!!!」

 放たれた矢が、壁に当たって弾けた瞬間。
 3人は、全員地に伏せた。
 何が起こった、とレトが驚く。

 「い、いた……ぃ、つ……!!」
 「んだ、これ……いってえ……ッ!!」
 「く……!!」

 今までとは違う音。
 そう、誰かの“叫び声”が————頭の中で叩くように響いていた。

 「元力たくさん使うから、嫌、だったんだけど……」
 「ここまできたら、もう関係ねえ!!」
 「レトヴェール————どうだ? 仲間の苦しむ姿は」

 エンが、弓を落とした。
 キールアは握っている。然し手は震えていた。
 サボコロも、苦しみながら膝をつく。

 「ふざけんな!! 今すぐ止めろ!!」
 「降参、してくれるんならな」

 レトの口から、言葉は洩れなかった。
 縄は解けなくて、でも仲間はどんどん傷ついていって。
 意識を失いかけた3人が、それでもと。

 「何を……言っているの……?」
 「降参なぞ……——端からするつもりはない!」
 「俺たちが必ず————レトを代表にするんだよ!!」

 掴み上げた弓で、荒々しく矢を引き絞った。

 「————真閃!!!」

 力強い矢が、放たれる。

 「炎砲————!!!」

 炎が渦を巻いて、4人に襲い掛かった。
 速すぎたのか、鈴を広げる間もなく。

 槍の切っ先が—————4人の頭上に向いた時。


 「言っただろう——————————“フィナーレ”だ」


 刹那。
 その全てが——————無に還った。

 「え……——っ」

 シャラルが、地面を叩いた。
 見事に空間は、凍る。

 氷が作り上げた“山”が————3人を勢い良く突き刺した。

 「————!!」

 跳ね上がる、3つの体。
 血は溢れ出す。刹那の間に起こった惨劇は、今地に堕ちた。
 誰も動く者はいなかった。
 シェルは……ゆっくりと歩く。

 「降参、しないのか?」
 「!?」
 「お前のせいで……仲間は傷ついていくんだぞ」
 「や、やめ……」
 「これ以上、何を代償にして————お前は“英雄”に縋ろうとする?」

 倒れた3人は顔を上げなかった。
 槍も弓も、無造作に転がっている。
 隣にいる双斬も何も言わなかった。

 「お前を守るもんも、もういねえよ」
 「……」
 「もう、降参しろ」

 仲間が、これ以上傷つく前に。
 3人とも倒れているのに、相手の4人は立っている。
 勝てる状況じゃない。
 それはレト自身、痛いほど分かっていた。
 もう諦めるしかないのだろうかと。
 俯きながら何度も何度も、考える。

 (俺は……————)

 小さい頃から、英雄になるのが夢だった。
 その夢を、キールアに語ったこともある。
 正義を証明してやるって。俺が絶対守ってやるって。
 そんな彼女も今、自分のせいで倒れている。

 ロクは言った。
 諦めるなと。
 彼女は、言った。


 (……——レト)


 心の、響く声。
 幼い声は、レトの中で暖かく広がった。

 (英雄になりたいって……今の状況でも思う?)

 「……」

 (僕は言ったよ。“僕を超えてほしい”って……君は)

 「……」

 (君は……——“君自身”に、負けてしまうの?)

 彼女が言った言葉。
 たった4文字の、幼い言葉。
 誰でも言える。安直で簡易な言葉を。
 彼は、真っ直ぐ受け止めることができなかった。

 「終わりにしよう……——レトヴェール」

 振り上げた。剣は空を伝う。
 たった一人で、この場に取り残された彼。
 たった一人で、義妹に取り残された我が身。

 彼女の言葉を、信じたかった。
 裏切られた今でも、彼女を信じていたかった。
 そんな感情が交差する。
 何度も何度も、きっと何度でも。
 胸の中に残り続けるもの。

 剣は、振り下ろされる。

 「————なっ!?」

 レトは、避けなかった。
 避けることができなかったのではない。 
 敢えて半歩だけ、後ろに下がった。

 縄が、切れる。

 「お前……頭使うよなホント」

 然しだらんと下がった腕は、双斬を掴まなかった。
 諦めたように、項垂れる頭。
 レトは、顔を上げた。
 次の瞬間。

 「————!?」

 レトの金の瞳が、シェルの中に入り込んでくるようだった。
 諦めることを、諦めた瞳。



 「双斬……俺、できるかな」



 ぽつり、と。
 呟いた、言葉。
 シェルは、顔を顰める。

 この時。
 彼の心臓は、確かに一度、高鳴った。

 「諦めたくないし、否定したくない————ロクの言葉を、」

 「……っ?」

 「信じて———みようと思う」

 双斬を、拾った。
 彼はそっと、それを撫でた。

 これで最後にするから。
 これで、弱音を吐くのは最後にするから。



 だから。




 『——————“負けんな”!!』




 彼女は、笑っていたんだ。



 「俺の事も————————信じてくれ!!」



 心臓が————思い切って跳ね上がった。




 「次元の扉——————————発動!!!!」




 聞いたことのある言葉だった。
 それは、次元師が、次元を発動する時に放つ言葉で。
 双斬を、ただ両手で握りしめて、彼はそう叫んでいた。
 風が、荒れた。




 新しい何かが————————今、蠢き始める。




 「——————————“双天斬”!!!」




 双斬の形が————変わった。


 (————何!!?)


 風が、一斉に彼の許へと集まった。
 双斬が、形を変える。
 銀の刃が、一層鋭く、伸びる。
 紅く紅く、柄は染まる。


 “双天斬”————確かに彼はそう叫んでいた。


 「……っ!」
 「な、んだこれ……」

 レト本人も、酷く驚いていた。
 剣の形が変わった。然しそれだけではなくて。
 今までとは違う、重みがずしりと彼の手に乗る。
 双斬ですら得られなかった、至高の剣。
 彼はそれを手にして、ぽかんとしていた。

 「隠し玉ってわけじゃ……なさそうだな」
 「……!」
 「面白そうじゃねーか……受けて立ってやるよ!!」

 シェルの切っ先が向く。
 レトは咄嗟に、双天斬を構えた。
 瞬間、光剣は弾き飛ばされる。

 「ぐ……!?」
 「……!!」
 「なら……こうだ!」

 剣を、横にして。
 彼は叫んだ。

 「第七次元発動————真空斬り!!!」

 気を溜めて、一気に距離を縮めた。
 刃の先には重たいほどの気を込めて、それをレトに向けた。
 レトは、双天斬を縦にする。

 綺麗に、受け流した。


 「——————八斬乱舞!!!」


 八斬切りよりも、速く激しく。
 目にも止まらず、疾風の如く吠える剣は、シェルの真空派を難なく打ち砕いた。

 「こっちだって————鈴鳴!!」

 鈴を広げる。声を張り上げる。
 レトは、ぐるんと振り返った。

 「————うらァ!!」

 パリン、と響く、空間を壊す音。
 鈴鳴は、一瞬にして砕けてしまった。

 「嘘……!」
 「絡縛————!!」

 細くて小さい縄を、レトの腕を目がけて飛ばす。
 レトは、リリエンの方を見向きもしないで。

 「————させねえよ!!」

 左手一つで、縄を引き裂いた。
 豆腐を斬るように、軽い力で縄を払った。

 違う、と思った。
 今までの双斬とは、今までのレトとは。
 まるでさっきのサボコロのように。

 (本気……出させちまったみたいだな————)

 双天斬は、舞う。
 胡蝶のように、まるで踊っているように。
 力強くも美しく、振るわれる力。

 その刃が、次元師の“限界”に希望を与える鍵となることを。
 彼らは、少しだけ後に知ることになる。