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Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.961 )
日時: 2014/03/16 09:17
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第267次元 今、英雄となれ

 「真斬————!!」

 シェルの剣が牙を向いた。 
 レトは一歩だけ、下がる。
 ぶん、と空振ったシェルは咄嗟に剣を引く。
 レトは既に、剣を振り上げていた。

 「ぐ……!!」

 上からの力と、下からの力。
 レトに押し潰される前に、隙を見てシェルは抜け出した。
 息が、異常なまでに上がっている。

 「はあ……はあ、っは……っ」
 「どうした? 息上がってんぞ」
 「うるせえ!」

 剣を払った。
 彼は、双天斬を構えた。

 「第六次元発動————鈴鳴叫!!」 

 レトの頭の中で響く激しい音。
 誰かの叫び声にも聞こえるその音は、彼の脳内で暴れ回った。

 「う……ッ!」
 「リリエン! 今のうちだよ!!」
 「おう!!」

 リリエンが、縄を手にぐっと握った時。
 レトは、腕を伸ばした。

 「じゅ、十字斬り————!!」

 双剣を重ねて、真空波が唸りを上げた。
 リリエンとリリアンを、勢いのある風が吹き飛ばした。
 シャラルは既に、頭上に跳んでいた。

 「氷砲————!!」

 反応が遅れる。
 咄嗟に顔を上げて、顎を引いて、横へ跳ぶ。
 氷の砲撃が地面に突き刺さって、レトはぎゅんと足に力を入れた。

 「八斬乱舞————!!」

 疾風。
 シャラルとの距離は僅か数センチ。
 彼の双剣は、シャラルを斬りつけた。

 「うわぁぁ!!」

 シャラルがどさっと倒れ込んだ。
 勢いのある剣術。
 その刃の先が怖くて、立ち上がるのも躊躇するほど。
 レトは、4人を相手にまるで怯むことをしなかった。

 「すっげ……」
 「なんだ? あいつ……」

 観客もざわめきながら、歓声を張り上げていた。
 決勝戦の大舞台で、奇跡を見せるレトヴェール・エポール。
 国内でも名が通っていたエポール義兄妹の兄とは、誰も言わなかった。
 ただ一人、彼だけの実力を初めて認めることになる。

 「くっそ……」
 「もうこっちは……ボロボロだっつの……」

 フィナーレだ。
 あの時の言葉を、思い出す。
 もう立つのもままならない。
 レトは、ぐっと手に力を入れて、シェルを見据えた。
 先に大将を討った方が勝ち。

 「終わりになんか……させないって顔だな」
 「俺が、終わらせてやる」
 「でも忘れんなよ————お前の敵は4人なんだぜ!!」

 その言葉を、“彼ら”は聞き逃さなった。

 「氷砲——————!!」

 氷の刃は再び飛んでくる。
 レトが、一歩下がって双剣を構えた時。

 炎を纏った弓矢が——————その全てを溶かし尽した。


 「「————————炎節!!!」」


 会場は、再び歓声に溢れた。
 準決勝で見せた、奇跡の両次元。
 千年前の英雄2人と、とある義兄妹にしかできなかった業。
 エンは、誇らしく立っていた。

 「エン、サボコロ————!!」
 「敵は4人? ————ならばこちらも“4人”で討ち合おう」
 「は……? 何言っ————」

 シャラルの、リリエンの、リリアンの。
 頭上に舞う——————“百夜の槍術師”。


 「堕陣——————必撃ィッ!!!」


 彼女は堕ちた。
 衝撃は、会場中を巻き込んで揺れる。
 金髪は————靡いた。

 「キールアまで……!?」
 「私だって戦える!! ————皆と一緒だよ!」

 彼女は笑って言った。
 戦うのなら、今ここで、英雄になるのなら。
 皆、一緒だと。

 「くっそ……!!」

 炎を纏った矢が舞う。
 銀の槍が、大地を打ち砕く。

 紅い双剣が————大将の瞳に深く刻みを入れる。

 「俺が英雄になる!! ——お前なんかには渡さない!!」
 「奇遇だな……俺も同じ気持ちだよ!!!」

 シェルは、剣を弾いた。
 退いて、呼吸を整えて、レトと対峙する。

 「剣術もサボっていたような奴が……英雄になんかなれるかよ!!」

 双天斬は、ここで初めて弾かれた。
 レトが手を大きく広げて、足元を滑らせる。
 お互いが、睨み合う。

 「剣術なんて関係ねえよ! 想いの強さが大事だろうが!!」
 「想いの強さ? そんなの————神には通用しねえだろ!!」

 再び競り合い、鬩ぎ合う剣。
 金属音が低く響いた。ギギギ……と嫌な音を奏でる。

 「俺が憧れる英雄は言ったよ————その剣に想いと誓いを乗せろって!!」

 レトが、シェルを突き放した。
 剣が離される。
 呼吸は乱れたまま、シェルの剣は震えていた。

 「俺の憧れる——————義妹は言ったよ」

 静かだった。
 レトとシェルの周りだけ、2人を囲む世界だけが、音を無くしたように。


 「————————“負けんな”って!!」


 紅い刃が、シェルに迫った。
 彼は、それを必死に防ぐ。
 力一杯剣を握って、レトから距離を取ろうとした時。

 背中に、何かが当たった。


 「————は?」


 トン……——、と。
 シェルは思わず振り向いた。

 そこには。

 「「「「————!!?」」」」

 デルトールチームの4人が
 お互いに背中を預けるように————立っていた。

 (しまった————!!!)

 もう遅い。
 シェルは離れようと、前を見た。
 それは他の3人も一緒で。

 然し。

 「“言っただろう”——————?」

 4人を、囲むように。
 レトも、キールアも、サボコロも、エンも。
 皆、武器を片手に————その瞳に闘志を灯していた。


 「——————“フィナーレだ”!!!」


 敗北は、決まっていたのか。
 そうではないと。

 ただ彼らは信じていた。
 お互いを。
 他人ではない————“仲間”を。


 「双天——————魔斬!!」

 「螺炎閃——————!!!」

 「滅紫——————烈衝!!!」


 誰もがこの時胸を躍らせたことだろう。
 例え一人だけ、取り残されても。
 例え自分がどれ程傷つけられても。
 諦めなければ、決して挫けなければ。

 必ず奇跡は起こるものだと。
 必ず奇跡は、起こせるものだと。






 『こ、今大会、英雄に選ばれし優勝者は————……っ』

 倒れる4人。
 立っている4人。

 彼らは————勝ち鬨を上げた。


 『エポールチームだァァァ——————!!!』


 頭の中にまで響く痛い歓声。
 観客達は、レト達の優勝に怒号、雄叫びを上げていた。
 溢れる観客は、立って、騒いで、泣いて、皆が祝福の言葉を会場に響かせる。
 レト達4人は腕を上げて振って、苦笑いのまま立っていた。

 「レト……」
 「……? キールアか」
 「おめでとう……おめでとう、レト!」
 「はは……つかお前もだろ」
 「へへ、そうだね……——でも本当に良かったっ!」

 何年もずっと。
 ずっと、憧れ続けてきたもの。
 未だに彼の手は、震えたままだった。

 「やったなレト!」
 「いでっ! お前ケガしてんだろ……早く医務室行けっての」
 「お前もな! ホントすげーよ!」
 「ありがとな」
 「ここまでくると清々しいな」
 「エンもありがとな……次元技使えなかったのに」
 「ふん……俺には貴様と違って由緒正しき戦法がだな……」
 「あ、エン照れてるーっ」
 「きさ……キールアか!! お、俺は決してそのような……っ」
 「エン……ぷぷ……お前も照れたりすんだな……」 
 「死ぬかサボテン」
 「おいおいキールアとの扱いの差が広いぜ?」

 4人は高らかに笑い合う。
 傷だらけで、もう動けない体なのに。
 お腹を抑えて笑い合っていた。

 「……よくやったな、お前達」

 聞いたことのない声が、突然4人の耳に入ってきた。
 振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。
 黒髪を高く一つに束ねたポニーテイル。長身と、スタイルも良い。
 彼女は、口を開いた。

 「お前達は今日から晴れて“英雄”になる……大戦では楽しみにしていよう」
 「あ、ありがとう……ございます」
 「ところでお前は?」
 「こらサボコロ! 年上に向かって……」
 「私はチェシア・ボキシス……今大会の運営委員でもある」
 「? ……ボキシス?」

 レトは首を傾げた。
 そして、どこかで見たことがあるような、とも思った。

 「お前達には……英雄としての“称号”を与えよう」

 はっとするレト。
 称号とは……と思っていた時。 
 双斬がポンと音を立てて具現化した。

 「僕らでいう“英雄大六師”みたいなやつだね!」
 「そうそう!」

 続いて炎皇も現れて、チェシアは驚いた。
 それも一瞬で、すっとレトを見据える。

 「レトヴェール・エポール……貴様が大将か?」
 「え? ああ、はい……」
 「そうか……————ならば」

 それは、一瞬のことだった。
 彼女は小さく、何かを呟いた。


 「——————次元の扉、発動」


 その掛け声を、彼らは知っていた。
 次の瞬間。

 長い刃のようなものが————レトの目の前にまで迫った。