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- Re: 最強次元師!! ( No.962 )
- 日時: 2014/03/25 20:05
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
第268次元 英雄大四天
「レト!!」
「——!?」
咄嗟に、双斬に戻った双剣を、構えて出した。
良く見ると長いその刃は————“刀”だった。
「ちょ、何すんだよ!!」
「今殺す気で……——!」
「……なるほど」
双剣で抑えられていた刀を、彼女は離して引いた。
空間に消える。
間違いない————彼女も次元師だ。
「“人族代表”に……相応しそうだ」
「……!」
「人族……代表って……」
レトは息を呑む。
そして自分も、双斬を空間の中へと消した。
「この4人の中で————最も強い次元師に“人族代表”の名を背負って貰おうと思ってな」
「最も……」
「強い……次元師」
「皆心は決まっていると見た————名を上げよ」
会場も、静まり返る。
もう、心は決まっている。
レトは、顔を上げた。
「俺が————————俺が背負ってやる!!」
キールアも、エンも、サボコロも。
顔を見合わせて微笑んだ。
彼しかいないと。
4人で組んだその時から、そうずっと思っていたのだから。
「良い心意気だ……忘れるな」
「お、おう」
「そしてここに誓え————お前達“英雄大四天”に、人類の未来を全て託す!!」
“英雄大四天”
説明されなくても理解することができた。
それは、英雄としての“称号”なのだと。
「誓うよ————英雄として、絶対に守ってみせる!!」
力のある目だった。
弱冠16歳にして、闘志に滾る瞳を持つ少年達。
チェシアは、うんと頷いた。
「良かろう……今は、心身ともに休めるのが先決だ」
「ありがとうございます」
「私はただ……お前達の覚悟を見に来ただけなのでな」
「次元師……なんですよね?」
「ああ……次に会うのは————戦場だな」
彼女は、踵を返して歩き出した。
歓声の舞う中で、レト達はもう一度誓う。
守ってみせる。
この人類を、この世界を。
必ず、神の手から。
「よし……俺達も帰ろう」
「そうだな! 久々に食堂の飯が食いてえっ」
「そんなことより体中が痛いんだけどね……」
「医務室に向かうが先か……」
4人は歩き出した。
その時、観客席にいた蛇梅隊の隊員達の群が、だだーっと近づいてくるのが目に見えた。
やばい、と逃げようとしたが、見事に囲まれてしまう。
「レト—!! やったねーっ!!」
「うっわミル! やめろって痛い痛いっ!」
「キールアちゃんも、サボコロちゃんもエンちゃんも、凄かったねえ!」
「本当に感動しました……おめでとうございます!」
「ありがとう、ルイル、ガネスト」
「み、みなさんおめでとうございます……っ」
「リルダもさんきゅーなっ」
「あ、あの……」
十数人が一斉にレト達4人を喜びに囲む中。
セルナは、一人俯いていた。
喜んでいる。とても嬉しいのは彼女も同じ。
然し。
「……——セルナ」
サボコロの声に、セルナは顔をあげた。
彼女はずっと心配していた.
ずっとずっと、心配をしていたのだ。
「わりい……使っちまったよ、ごめん」
「いえ、そんな……っ」
「でもセルナのおかげで、俺勝てたんだ……すっげえ感謝してる!」
わっ、と。
彼女も、周りも、驚いた。
サボコロは、軽々しくセルナを持ち上げる。
「さ、サボコロさ……っ!」
「さんきゅーっ!! お前のこと本当に見直したぜ!」
セルナを下して、サボコロは意外な行動にでた。
そしてその姿に、誰もが驚きを隠せなかっただろう。
サボコロは、ぎゅーっとセルナを抱きしめていた。
「さ、さささ……っ!!」
「お前すっげーよ! ——やっぱ自信持てって!」
あーあ……といった表情。
ルイルの目を伏せるガネスト、それに加えて口笛を鳴らし始めるロティまで。
本人は決して深い意味はなくてセルナに抱き付いているのだろうが。
女性陣が恥ずかしくて目を伏せていた時。
「こらっ!」
「あいで!!」
コールド副班に拳骨を下されて、一同はどっと笑いに溢れた。
その後、傷口の痛みが再発した彼らは急いで医務室へ。
長かった、と口々に選手たちは言葉を漏らしていた。
レトも、あの時の義妹の言葉を思い出して一人、皆と同じ事を思っていた。
本当に長かった。
彼は、自然にも瞼を落とし眠りについた。
今日も蛇梅隊本部は騒がしかった。
レトヴェール達が代表者に選ばれた事、英雄としての名を手に入れた事。
決定戦翌日は国中どころか海外までもがその話題で持ち切りだった。
新聞で大々的に記事が載り、本部への問い合わせは後を絶たないという。
にも関わらず、白い病室はまるでそこが違う世界かのように静寂であった。
レトは体を起こして、ぼーっとしていた。
結んでいない金髪が、だらっと下ろされていて。
一見ただの女の子にしか見えないその姿は、体ごと別の方へ向いた。
「起きたみたいだね」
「おう」
同じく金髪を持つ、ツインテールの彼女は笑った。
キールアは片手にバインダーを持って椅子に腰をかけた。
「髪の毛結んでいないと、女の子みたい」
「うっせ」
「冗談だよ」
「冗談かよ」
「ふふ……レト、体は大丈夫?」
「おかげ様で。お前は?」
「心配してくれるの?」
「……」
「嘘だよ。大丈夫」
ほら、と腕を広げてみせる。
包帯を巻いてはいるが、ぶんぶんと振り回す程度には回復しているようだった。
「一応レントゲンとっておこうか? 骨バッキバッキだったでしょ?」
「女の子がバッキバッキとか言うもんじゃありません」
「……珍しく説教口調だね」
「良いよ、面倒だし」
「そう? じゃあ良いとして……あ、なんか班長から休暇命令出てたよ?」
「休暇命令?」
「私達はしばらく任務行かないこと、だってさ」
「だろうな……」
いつもよりも病室生活が長引きそうだ、とレトは息を吐いた。
久しぶりに自室に戻ってゆっくりしたかっただろうに。
分かりやすくレトの表情は落ち込んでいた。
「それより食堂行かない?」
「俺動けないけど」
「じゃあおん……」
「歩きます」
おんぶしようか、と言い終わる前に彼は言葉を挟んだ。
少し前にエンとサボコロに酷く笑われた事を思い出したのだ。
同じ過ちは犯さないとでもいうような顔。
キールアは笑う。
「そう? じゃあ行こう?」
「あ……キールア」
「? なーに?」
レトは思わず呼び止めた。
聞きたい事が、と彼は続ける。
「しゃ、シャラルの件だけど……」
「へ? シャラル?」
「……お前、もし負けてたらどうするつもりだったんだよ?」
ああ、とキールアは納得した。
結婚がどうとか言っていたあれか、と。
彼女はまた笑う。
「さあ? 結婚したんじゃない?」
「お前なあ……」
「でも、負ける気なんて端からなかったし……それにね」
「?」
「やっぱり自分の認めた相手と、そういう事したいじゃない?」
彼女は悪戯っぽく笑った。
シャラルは圏外です、と一言付け加えて。
なんじゃそりゃとレトもずっこける。
「何か拍子抜けしたら腹減ってきた……」
「何それっ」
「さっさと食堂行くぞー」
「久々に食堂の料理食べられるね」
「何食おうかな……」
仕方ないので、レトは松葉杖を使って歩いていた。
隣でキールアが歩幅を合わせながら声をかける。
大丈夫? おう。といった、いつも通りのやり取り。
キールアは、食堂の扉に手をかけ、そのまま押した。
「うっわ今日も大盛況……」
「昼時ってのもあるか」
広い食堂には、何百といった隊員達が料理を乗せたトレイを持ってざわめき合っている。
木のテーブルに腰をかけ、昼間から飲んでいる男性も見受けられた。
レトとキールアは、空いている席に2人して並んで座った。
そこで。
「ん……なんだレト、キールアと一緒に来たのか?」
同じく包帯を巻いていた少年、エンが声をかけてきた。
英雄として共に戦ってきた彼は、レトの前の席に座る。
両手でトレイを掴み、その上には冷たそうなうどんが乗っている。
カタン、と机の上に載せた。
「さっき起きたからな」
「そうか。聞いたか? 休暇の事」
「ああ。ま、当然の判断かとは思ったけど」
「あと半年か……長いのか短いのか、分からないな」
あと半年。
今は夏に入っているから、もう半年はきっているのかと思う。
まだ胸の中は、緊張と不安で溢れていた。
英雄になった。まだまだ強くなれる余地はある。
緊張と不安は、いつの間にか躍動感へと変わる。