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Re: 最強次元師!! ( No.963 )
日時: 2014/03/25 20:18
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第269次元 最も嫌いな人

 キールアとレトも食事を運んでくる。
 キールアはスパゲティを、レトはシチューだった。
 トレイを机に乗せ、改めてエンと向き合う2人。

 「エンはもう大丈夫なのか?」
 「俺はな。あのバカは起きていないらしいが」
 「そうなのか?」
 「うん……倒れたっきりでさ。今はセルナが看病してくれてるんだ」
 「へえ……もしかしてあの2人って……」
 「あーいや、そういうんじゃないと思うけどなぁ……」

 そんな事を話し合いながら、和やかな時間は流れていく。
 つい最近まで生死を彷徨っていたとは思えない程の平和を感じる。
 レトは、騒がしい食堂を見渡してそう思った。
 これが当たり前になる世界は、きっとやってくる。

 自分が必ず、守ってみせると。
 そう、誓ったのだから。





 食事を終えて一息入れようと、レト、キールア、エンは休憩所に向かっていた。
 任務室の隣に設置されている休憩所。
 淹れたてのコーヒーでもあるかのような、苦くて甘い仄かな香りが漂っていた。
 パステルカラーの丸い模様が描かれたテーブルも、無造作に部屋に散りばめられている。
 明るい花もテーブルに添えてあり、小さな本棚も奥にある。
 部屋を照らすランプを過ぎて、レトは椅子に腰をかけた。

 「ホントやる事ねえよなあ……」
 「まあまあ、これからどうするか決めなきゃいけないし」
 「あと半年。神族に受けて立てる次元師にならねば」

 サボコロを除いた、英雄大四天の3人は唸る。
 代表になれたのは良いが、それは神族と戦わなければならないという事で。
 必ず、彼らを討つ力が欲しいと願うのもその筈だった。
 レトは、自分の腕を見つめていた。

 「強く、ならなきゃな」
 「うん」
 「そうだな」

 レトが、コーヒーの入ったコップに手をかけた時だった。
 休憩室の扉が、開いた。

 「おやや? ——奇遇だね」

 短い髪に眼鏡。陽気な口調と口元の笑み、そしてこの声は、と。
 レトは少しだけがっくりする。
 戦闘部班班長の、セブン・コール班長だった。

 「班長かよ……」
 「見るからにがっかりしてるねレト君。私の実験体になりたいのかな?」
 「それは女装しろって事ですか?」
 「き、君も学ぶね……」
 「図星かよ! 否定しろ否定を!」
 「まあまあ今日はちょっとお祝いの言葉を、ね」

 探したんだよ? と班長は言った。
 真剣な瞳に戻る。レトも、口を閉じた。

 「おめでとう————君達英雄に、お祝いの言葉を心から送るよ」

 優しく、彼は微笑んだ。
 調子が狂う、とレトは息を零した。

 「それはどうも」
 「おや? 不服かな?」
 「そうじゃねえけど……」
 「何度死にかけても生ききったって? コールド副班が笑いながら語ってくれたよ」
 「副班……」
 「という事で、今日は、そんなレト君にプレゼントがあるんだ」
 「は? 俺に?」

 班長は楽しそうに笑っていた。
 すっと、休憩室の扉の方へと体を向ける。
 3人の視線が扉に集まった時。 
 班長は、言った。

 「ほら、入ってきなよ——————“数年ぶり”のご対面だろう?」

 レトの口から、小さく言葉が吐き出された。
 彼は————驚いた。

 「おっとと……————ここ、天井低いな相変わらず」

 キールアも、あ、と声を上げた。
 エンは誰だか分からないといった表情で。
 レトは、ただじっとその人物から目を逸らせないでいた。


 「お、やじ……————」


 思わず、そう呟く。
 エンはレトの方へ向いた。

 「親父? 貴様の父親か?」
 「……表面上はな」
 「ちょっとレト……っ」
 「嘘は言ってねえよ」

 冷たい瞳に戻るレトを、親父と呼ばれた男性は見ていた。
 短い金髪。眼鏡の奥の金の瞳は、レトと良く似ていた。
 がっしりとした体つきと、長身なのが特徴的な彼。
 私服に身を包んで、歩み寄る。

 「レト————、久しぶりだな」
 「ああ、お元気でしたかこの野郎」

 彼の名前はフィードラス・エポール。
 正真正銘、血の繋がったレトの父親である。

 ピキッ、と。レトの顔には青筋が浮かんだ。
 親子であるにも関わらず両者の間に流れる不穏な雰囲気。
 キールアとエンは完全に置いてけぼり状態だった。

 「何しに来たんだよ、こんな所まで」
 「ん? 息子に会いに」
 「今まで一度だって来たことがあったかよ?」
 「ないけど」
 「……ああもうっ! じゃあ何なんだよ!」
 「お前が成長してるところを見て驚いたよ……あんなに小さかったのに」
 「科学者が何言ってんだよ……当たり前だろ」
 「いや、そういう意味じゃなくて……——強くなったな」

 レトは、それ以上何も言い返せなかった。
 むず痒くて、大嫌いなのに、何故だか心の中が気持ち悪くて。
 無理矢理彼は話題を変えた。

 「んで? ……結局何しに来た」
 「ちょっと野暮用でな……色々やりたい事もあって」
 「ふーん。つか早くここから出ていけ、そして二度と来んな。気味悪いから」
 「ここって……休憩室?」
 「違う、本部だ本部。ここを何処だと思って……!」
 「それは俺に職を失えって言ってるのか? 最近の若い子は口が悪いな……」
 「……はい?」

 レトは我が耳を疑った。
 彼は確かに言ったのだ。“職”、と。

 「知らなかったかい? レト君」
 「え……ちょっと待っ……」
 「彼は正式な————蛇梅隊の隊員だよ」

 ガシャン、とコーヒーの入ったコップを落とすレト。
 幸い低い位置から落としたそれは、音を鳴らしただけだった。
 だらだらと、彼の口からコーヒーが漏れる。

 「こらレト、コーヒーが口からこんにちわしてるぞ」
 「聞いてねえぞっ! そんな事!!」
 「だって言ってないし」
 「はあ!?」
 「因みに班長階級だから、フィードラス」
 「……つうことは科学部班?」
 「まあな。色々バタバタしていて言うのが随分遅くなってしまったがな」

 その言葉に、レトは父から視線を逸らした。
 忙しかった。バタバタしていた。
 そんな言い訳は、聞きたくないというように。

 「キールア……レトは何故実の父親と仲が悪い?」
 「さあ……昔からお父さんの事、良く思ってなかったみたいだけど」
 「おおおお義父さん!? キールアちゃんいつの間にうちのレトとそういうカンケイに!?」
 「ち、違いますよ! そういうんじゃなくて……っ」
 「何だ違うのか……」
 「何でがっかりすんだよ」

 キールアもエンも、何となくだが、親子のやり取りを楽しんでいた。
 外見もそうだが、中身も若干似ているところがある、と。
 仲が悪そうに見えて実はそうでもないのかもしれないとキールアは再確認した。

 「そういえばレト」
 「ああ?」
 「ロクはどうした?」

 その一言で、休憩室の雰囲気はガラリと変わった。
 レトの目つきも、一層鋭いものになる。

 「いねえよ」
 「そうか? 戦闘部班にいるって聞いたが」
 「それ、何ヶ月前の話だよ。ここにはいねえ」
 「死んではいないよな? じゃあ怪我でも——」
 「……——いい加減にしろよ!!」

 机を叩いて、レトは勢い良く立ち上がった。
 震える手が、拳をつくる。
 フィードラスを、見上げる。

 「第一てめえ、ロクの事嫌いだったんじゃないのかよ!!」
 「……!」
 「え……っ」
 「そんな事言っていないだろう。大事な娘だ」
 「血の繋がってない、だろ? 目に見えて分かんだよ」
 「……」
 「ロクはもう、俺達とは一緒にいない。噂で聞いてないのか?」

 レトは、続けた。

 「ロクが————神族だったって」

 フィードラスは、軽く眼鏡の淵を上げた。
 溜息を、少しだけ吐いて。

 「ああ……その事か」
 「知ってんなら聞くなよ……もう用はねえだろ」
 「ロクは、ゴッドについていく事を選んだのか?」
 「……は?」
 「そうか……何を考えてるんだか、ロクは」

 何も知らないくせに、というようにレトは彼を睨んだ。
 あの時の記憶が、今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。

 「ロクはゴッドに脅しをかけられたかもしれない可能性があるんだ」
 「脅し?」
 「ゴッドは普段、能力を使わないだろ? でも突然それを……」
 「ああ、それはないぞ」
 「……は?」
 「ゴッドは————能力が使えない」

 破壊も創造もな、と。
 彼は至って冷静な口調だった。

 然しその事実は、レト達にとってあまりに残酷なものであった。
 部屋が、氷ついたように動きを止める。
 誰もが息を呑んだ。信じたくないと心の中で叫んだ。
 事実は、語られる。