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Re: 最強次元師!! ( No.964 )
日時: 2014/04/01 10:05
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第270次元 数年間の、

 「は……?」
 「ゴッドは、千年に一度、たった一日しかその能力を使えないんだ」
 「な、んだよ……それ……」
 「強大な力を持つ彼に、マザーが残した唯一の策というか……まあそんなとこだ」
 「そんなデタラメ信じられるかよ!! じゃあロクは何で……っ」

 そこまで言って、これ以上は、言えなかった。
 ロクはきっと、神族として目覚めたその時から。
 神族達の事を、良く知っていたはずだから。
 勿論、ゴッドが能力を使えないという事も。

 つまりロクは————自ら神の仲間になる事を、選んだという事になる。

 「そんな、事……って……」
 「ロクは自分から、その道を選んだ……神になる事を、心の底から望んだ結果だろう」
 「……」
 「レト、俺はロクを嫌いじゃないし、ロクもまたそうだと思うぞ」
 「……!」
 「大事な娘だ……あいつの望む通りに、協力してやりたいと思う」
 「それは神族に肩入れするって言ってんのか?」
 「ロク限定、でな。お前もそうだろ? ——今でも、ロクを信じてるんだろう?」

 レトは、肯定しないが、否定もしなかった。
 それは、分かり切った事だったから。
 父親である彼にも、そんなレトの気持ちは手に取るように分かった。

 「じゃあ軽く挨拶も済んだし……キールアちゃん」
 「あ、はいっ」
 「ちょっと良いかな? 君に用があるんだ」
 「へ? わ、私にですか?」

 ガタンと彼女は席を立った。
 フィードラスと、共に部屋を出ていく。
 その瞬間、全ての緊張が解けたようにレトは勢い良く机に頭を落とした。

 「!? れ、レト!?」
 「あーっもう……! だから嫌いなんだよォ……」
 「まあまあ、久々で、緊張したでしょ?」
 「うっせ……大嫌いだっつの」

 テーブルに置かれた透明な花瓶を、彼は睨んでいた。
 そこにフィードラスがいる訳でもないのに。
 訳もなくイライラして、突っ伏していた。



 蛇梅隊本部、廊下。
 背が高いな、と思っていた。
 キールアがフィードラスを見上げる。
 相変わらず顔も整っていて、女性は放っておかなさそうだ。
 そういう点に置いては、レトと良く似ている。
 喧嘩はしていても(一方的)、親子なんだなと感じさせられる。

 「キールアちゃん」
 「あ、はい!」
 「君、誕生日は?」
 「へ? た、誕生日、ですか?」

 キールアは、続ける。

 「6月の、28日ですけど……って、あっ!」

 とっくに、過ぎていた事に気付いた。
 大会に気合を入れ過ぎて、自分自身でも忘れていた。
 とっくに16歳になっていたのかー、と彼女は名残惜しそうに笑う。

 「そうか……もう16歳か」
 「はい……」
 「じゃあ、ちょっと遅れちゃったね」

 彼は、足を止めた。
 懐から、細長い箱を、優しく取り出す。


 「16歳の誕生日おめでとう——————君の“両親”から君へ、最後の誕生日プレゼントだよ」


 風は、一斉に窓から吹き込んでくる。
 キールアの2つに束ねた髪が、揺れた。

 「え……っ」

 時は、止まった。
 大嫌いな数年前のあの季節から。
 彼女の時間は、止まったままで。
 ゆっくりと……それが動き出しているとも、気付かなかった。
 細長い箱を、キールアに差し出す彼。
 フィードラスは優しく微笑んだ。

 「君が16歳になったら渡してくれ、と……生前彼らに頼まれていたんだ」
 「どう、して……?」
 「きっと剣闘族から逃げ切る事ができないと、分かっていたんだろう……」
 「な、ん……っ」
 「次元師である君に、最後に託した想いだよ」

 ほら、と。
 キールアの両手に、それをぽんと乗せた。
 箱を、ゆっくりと開く。
 入っていたのは————菫色のリボンだった。

 「これ……」
 「本来シーホリー家の瞳は菫色らしいね……とても綺麗な色だよ」
 「お……お父さん、お母、さん……っ」
 「長いリボンが何かの理由で2本に分かれてしまったらしくてね……元々は1本だったらしいんだ」

 彼は語り始めた。
 このリボンは、千年前、シーホリー家の先祖が髪につけていたものだと。
 名前はアディダス・シーホリー。
 綺麗な金髪に良く映える、見事な菫色だったと当時の人間は語っていた。
 然し戦争の最中、敵の剣によって真っ二つに斬り分けられてしまったらしい。

 「でも君は二つ結びだし丁度良……って、聞いていないか」

 泣きじゃくる彼女の頭に大きな手を乗せる。
 くしゃくしゃっと、撫で上げた。

 「遅れてしまってすまなかった——————誕生日おめでとう、キールアちゃん」

 たった数回しか、祝ってもらえなかった誕生日。
 もう、二度と、誕生日プレゼントは貰えないのだと。
 泣いた日もあった。辛くてしょうがない日もあった。
 然し今、何年も経った後で。
 未来の自分に、託してくれた贈り物があった。
 最高のサプライズだよ、と彼女は心の中で感謝の言葉を述べる。
 何度も、何度も。

 「ここ数年……辛かっただろう?」
 「……」
 「あの事を……レトにも言っていないんだろう?」

 彼女は、頷いた。
 リボンを綺麗に箱にしまって、顔を見上げる。

 「言ったら絶対……心配するから」
 「はは、そうだろうな……」
 「いつか自分で……決着はつけたいと思っています」
 「無茶はしない事だ。君はお母さんによく似ているからね」
 「母に……?」
 「冷静で大人しく見えて、超無鉄砲お姉さんだったから」

 キールアは、笑った。
 小さい時の記憶しかない、母の面影。
 フィードラスは、そんな母の若い頃も知っている。
 とても不思議だと思った。

 「よし……それじゃあ私はこれで」
 「どこか行くんですか?」
 「まあね……——可愛い後輩の所に、行ってくるよ」

 彼は、体を回して歩き出す。
 キールアは箱をぎゅっと握りしめて、天井を見上げた。
 大丈夫。絶対、大丈夫。
 最後の誕生日プレゼントは、彼女の手の中で揺れる。
 元にいた場所へと、歩き出した。





 「……」

 セルナ・マリーヌは、病室にいた。
 紅い髪にさらりと触れる。
 彼はまだ、目を覚まさなかった。

 「ごめんなさい……私の、せいで……」

 こんな事になるなら、教えなきゃ良かったと。
 セルナの悲痛は体中に駆けまわるようだった。
 勝ったとは言え、それは自分の身を滅ぼす罪の行為で。
 最後まで立っていたのが、非常に不思議なくらいだった。
 ベッドの脇に添えた花の水を変えようと、立ち上がった時。
 病室のドアは開いた。

 「……!」
 「やあ、久しぶりだね————セルナ・マリーヌちゃん」

 見覚えのある、端正な顔立ち。
 短い金髪と、しっかりとした体。
 元彼女の上司、フィードラス・エポールはそこに立っていた。

 「お久しぶりです……フィードラス班長」
 「顔色が悪いみたいだけど……大丈夫?」
 「あ、はい……」

 科学部班にいた時の、苦い思い出が彼女の脳裏を駆け巡った。
 次元師だから、と好き勝手に追い掛け回されていた記憶。
 外へ逃げ出しても、無名の機関が自分を狙っていて。

 どうして。どうして。どうして私なの?
 次元師なんて、他に幾らでもいるのに。
 なんて他人のせいにしたくもなる程、辛い日々を送った彼女。
 フィードラスが一歩踏み出すと、彼女はびくっと震えた。

 「戦闘部班は……どうだい?」
 「え……」
 「急に異動しただろ? 居心地は?」
 「え、と……素敵ですよ、ここは」
 「そうか。なら良かった」

 彼女は知っていた。
 自分が急に戦闘部班へ異動が決まった時。
 何故だか一緒だったミラルも共に戦闘部班へ配属が決まった。
 2人同時、しかも次元師である彼女らにそんな対応ができるのは、彼しかいないと。
 科学部班の班長、フィードラス・エポール。
 後々になって、戦闘部班の班長にその事を教えてもらった時には驚いた。
 まるでセルナを、別の居場所へ逃がすような行為だったから。

 「どうして……私を異動させたのですか?」
 「?」
 「そんな……罪滅ぼしみたいな……っ」

 彼は、彼女の肩にそっと手を置いた。
 空いた方の手で、頭を優しく撫でる。

 「罪滅ぼし、か……そうかもしれないな」
 「……え?」
 「科学部班の連中に、純粋に研究しようって奴は正直いない。非道な人材が多いんだ」
 「そ、れは……私も……」
 「君が身をもって、体感しただろう?」

 よしよし、とセルナの頭を優しく撫でまわすフィードラス。
 小さい子供を、愛おしく思うように。
 彼の掌は、とてもとても、暖かかった。
 一筋の涙が、自然に溢れてくる。
 誰にも言えなかった辛さや痛みが今————止めどなく流れ出した。