コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.965 )
- 日時: 2014/04/17 22:32
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jEYyPTNY)
第271次元 故郷へ
「今日はよく女の子を泣かせる日だな……」
「え?」
「サボコロ君だっけ? 彼の容体は?」
「はい……未だに、目を覚ましてくれなくて」
寝顔は可愛いのに。戦闘部班の隊員のいつか言っていた事を思い出す。
確かに。起きてるより寝ている方が大人しくて子供のような寝顔だった。
彼女は、不安げに彼に視線を落としていた。
「彼も無茶をするよ……全元力の制御の為に、元力の——」
「……! 知っていたんですか?」
「ん? ああ……まあ様子を見れば分かるよ。医者じゃあないけど」
(す、凄い……)
流石だと、感嘆の声は心の中で落ちた。
彼は主に元力の研究をしているとは聞いていたが、これ程とは。
体の中身を見た訳でもないのに、その症状や原因が分かってしまう。
それは決して普通の事ではなかった。
「でもよく思いついたね」
「え?」
彼は、言葉を紡いだ。
「——————元力の流れを、一時的に“止める”なんて」
彼女は、見上げていた視線を落とす。
再び、ベッド脇の椅子に腰をかけた。
「理屈では分かっていても、こんな事になるとは思いもしなくて……」
「まあ……なるよ。元力はとても繊細だからね」
「……本当に、サボコロさんに申し訳ないんです」
「元力の流れを止めるっていうのは……いわば神の意志に背く事、だからね」
「……はい……」
その罪を背負って、受けて、当然な事。
元力の流れを止めるというのは、人間が生まれて死ぬという流れを、変えてしまうのと同じ。
彼はそう続けた。
セルナも、その事については知っていた。だからあまり勧めたくはなかったのだ。
でも、彼の切実な想いに、応えてあげたくて。
セルナは自分のしてしまった罪の重たさに気付いた。
「彼はタフだと聞いた。見たところ大丈夫そうだし」
「……! 本当ですか?」
「ああ、過労もあって随分寝込んでいるみたいだけどね」
安心していいよ、とフィードラスは微笑んだ。
セルナを、心の底から安心させるような笑みだった。
彼は、無造作に手をひらひらさせて、病室から姿を消す。
瞳は、真剣なものに戻る。
(さて……本来の目的を————果たしにいくか)
蛇梅隊の、隊員達を横切って。
奥へ奥へと、彼は歩みを進めていく。
父との感動しない対面を果たし、レトヴェールは自室に戻ってきた。
暗い部屋の明かりを、ぱちりと点けた。
ベッドも机の上も本棚も、相変わらず乱れていて。
出て行ったまんまかよ、と彼はがっくりした。
ベッドに倒れ込んで、片手に持っていた“手紙”を電灯に翳した。
(差出人不明……何なんだ?)
休憩室から出て行く前に、班長に手渡されたこの手紙。
古臭い封筒には、名前はなかった。
『君達宛てに、本部に届いていたみたいなんだ』
レトは体を起こした。
封を切る。中から、和紙のようなものを取り出した。
文頭には、
『四つの空を駆ける戦士達へ、』
そう、書かれていた。
四つの空というのは英雄大四天の事を指すのだろうか、と適当に考える。
彼の視線は、その下へと移行した。
『妖精の社へ 願いを叶えましょう』
書かれていたのは、たったそれだけの事だった。
その他に記述はない。勿論、差出人名も。
妖精、その言葉に違和感を感じた。
「ロク……なわけ、ねえよな」
妙に引っかかる言葉。
“願いを叶えましょう”
レトは、部屋から出て行った。
数日後。
サボコロが目を覚ました翌日。
英雄大四天の4人は出かける準備にバタバタとしていた。
「妖精の社ってのは何処にあるんだ?」
「さあな。俺には分からん」
「俺の記憶だと……確か」
レトが幼い頃。
ロクを探しに深い丘に登っていた時の事だった。
森の奥に、小さい神社を見つけたという。
それが何なのか分からず、幼い彼は完全にスルー。
その後、それを思い出す事もなかった。
「怪しくね? それ」
「ただレイチェルにあるっていうのが気にかかってな……」
「行ってみて損はないんじゃないかな?」
「妖精って事はフェアリーだろ? そいつは当時レイチェル王国にいたらしいし」
「そうそう!」
「そうだぜーっ」
4人が休憩室でテーブルを囲んで話合っている中。
ポンポン、と2人の精霊は突然姿を現した。
「双斬、炎皇!? 急に出てくんなっていつも言ってんだろ!」
「まあまあっ」
「妖精の社っていうのは十中八九、フェアリーの神社だと思うよ」
「そうなのか?」
「ま、一番可能性は高いかもねっ」
一応、双斬と炎皇の言葉を信じて、いざレイチェルへ向かう事に。
4人は立ち上がって、部屋を後にする。
その時。
「おや……皆してお出かけかな?」
レトの表情は氷のように固まった。
もう二度と顔を合わすまいと思っていた、父親の姿が目に入る。
「こんにちわっ」
「やあキールアちゃん。君達はどこへ?」
「ちょっとレイチェルへ、行ってこようと思って」
「へえ……」
「死ね親父」
「どうしたレト、言葉のキャッチボールが一投目から剛速球になってるぞ」
「知るかよ……」
「あ、でも丁度良かった」
「?」
「ちょっとだけ、お前に用がある」
「……俺にか?」
「ああ」
レトは仕方ないと言った表情で、キールアに目配せした。
彼を置いた3人はそのまま玄関へ。
彼はというと、相変わらずの仏頂面で父親と目を合わせた。
悔しいが顔つきは自分に似ているような気もした。
「ちょっとだけ、聞きたい事があるだけさ」
「何だよ」
「ああ……——それはな」
彼は、言葉を紡ぐ。
「久しぶりに帰るなーレイチェル」
「そうだね、私もドキドキしてるっ」
「超田舎ってマジ? わりとセンターから近いのにさ」
「まあ街が隣にあるから不便でもねえよ? でも田舎」
「お前達が育った土地か……良い見物が出来そうだな」
「そういえばレト、さっきの何だったの?」
「さっきの?」
「ほら、お父……お、おじさんに呼ばれてたでしょ?」
「ああ……別に、何でもねーよ」
「そう?」
列車の中。4人の話は尽きないまま時間は過ぎていく。
レトも、柄にもなくわくわくしていた。
久しぶりに帰る故郷。誰かが待っている訳ではないが、それでも楽しみだった。
何といっても、彼の……“彼ら”の————始まりの土地だから。
「わあ……!」
「おー……いつ見ても絶景だな」
列車から、顔を出すレトとキールア。
広がるのは、緑に溢れた彼らの故郷。
花も草も木々も皆、変わらずそこにあった。
貴重な食物が豊富で、水も豊かに村を流れている。
山と森に囲まれた、澄んだ空気の吸える村。
それが、ここレイチェル村である。
「くーっ! 空気がうめえ!」
「もう帰るの、嫌になっちゃうねー」
「フェンウェルもすげえと思ったけど、ここはそれ以上だなーっ」
「うむ……文句は無い。絶景だな」
列車を降りて、一息つく一同。
さて、とレトが話を切り出す。
「その神社、行ってみるか」
「おーっ!」
「その前に家寄って良い? 私随分前から忘れ物があって」
「でも汚かったりしたらお前、掃除したいとか言い出すじゃん」
「えーっ、い、言わないからっ」
「ダメです」
「ケチだなあ……」
「帰りにしよう、な?」
「分かったよ」
サボコロもエンも、2人は相変わらずだな、と気持ちを和やかにする。
然し。
「お前らホント夫婦みたいだよな」
何の嫌がらせか、サボコロからの悪意のない爆弾発言が投下。
レトは、迷いもせずに彼の腹に一発深いものを入れる。
「いっでっ!! てっめレト何す……っ」
「100発耐久逝ってみようか?」
「おま、こえーよ!! 表現がこえーから!!」
「聞こえねーな」
「ごめんなさい許してマジで!!」
どさっと倒れるサボコロを、レトは担いで歩き出した。
レトサボコロも何だかんだで仲が良い。
キールアとエンは半分呆れ顔で、レトの後を追った。
「この辺の獣道だったかな……」
「本当にこんな所、1人で登ったのか?」
「1人じゃねーよ?」
「は?」
「私も一緒だったんだよ、ね? レト」
「おう」
「やっぱり夫————ってはいはいごめんなさい!!」
「貴様は一言多いのではないか?」
「お前もこの間までこっちの人間だったよな……」
「幻覚だろう」
「幻覚だな」
「幻覚ね」
「こいつら……っ」
サボコロは思う。今自分の見方は何処にもいないと。
至極納得がいかない彼を連れ、4人は深い林の中へ。
獣道は続く。鬱蒼とした碧い景色ばかりが空にまで広がっていた。
低い草本を掻き分けて、ずんずんと進むこと15分。
先頭を歩いていたレトが急に足を止めた。
「どうしたの?」
「……見つけた」
「何?」
「あ! もしかしてあれか!?」
サボコロが指で指し示す。
重なる草木の向こう側には、陽射しを受けた低い建物が見えた。
草原の中でぽつり。“神社”のようなそれは静かに佇んでいた。
「すっげ……」
「神秘的っていうか……古い? のかなぁ」
「懐かしいなあ、あの時と何も変わってねえ」
「! ……待て! 誰かの気配がするぞ!!」
エンの声に、息を呑む一同。
さらさらと揺れる景色に、人影は見えない。
神社の周りを見ていたレトが、不意に神社の方へ視線を戻した時だった。
彼女の声は、響いた。
「こんにちは……——ようこそ、妖精の社へ」
この世のものとは思えない声色。
鈴を転がしたようとは、まるでこの事であると。
思い知らされる。改めて、確認させられる。
妖精は、笑う。