コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.967 )
- 日時: 2014/04/20 10:34
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jEYyPTNY)
第273次元 神様の前の神様
ガタン。その音で、扉は完全に開ききった。
暗闇がレトヴェール達を呑み込むように、または引き摺り込むように。
ただ目の前に、広がるばかりであった。
彼は踏み出した。迷いはしなかった。
闇に、呑まれていく。
(マザーに……会える)
その一心であった。レトは目を細める。
ぴくっと眉を動かした時、自然に足は止まった。
その先に進むな、と、全身が叫ぶようだった。
続いて4人も足を止めた。
「マザー——————連れて参りました」
瞬間、明かりは灯った。
何かの周りを囲うように、ぼぼぼっと、炎は音を立てる。
初めに見えたのは、カーテンのような薄い布だった。
ひらひらと波打つそれが、幾重にも重なって段を織り成す。
白い布の塊が、蠢いたような気がした。
振り返る。
「え……——」
白い腕。細い脚と、影。
ドレスのような、カーテンのような、透明な衣服に身を包んでいた。
顔の上半分は包帯のようなもので覆われ、柔らかそうな桃色の唇は、微笑んだ。
その姿は、まるで人間のようだった。
「マザー……って……」
「人間……そっくり……」
「当然よ。……私達神族も、人間の形をしているでしょう?」
「そうだけど……」
「……これは、驚いたな」
「私達神族の母よ……相応しいお姿でしょう?」
フェアリーの外見は、人間らしくも艶やかで、美しかった。
然し、マザーと呼ばれた彼女は、何か違う。
人間らしい外見でありながら、人間ではないと、直感的に分かる。
白すぎる肌。細い体躯。若々しく、瑞々しい体。
まるで枯れを知らない、花のようだと思った。
(……——“英雄大四天”の、英雄達よ)
心に直接声が届くようだった。
声は波となって、体全体にじわりと滲んでいく。
高い声。低い声。可愛らしい声。男らしい声。
その全てが混じり合って、“彼女”は語る。
「今、声が……っ」
「……」
(私の名前は【MOTHER】……————神を生み出す者)
「嘘は、つかないみたいだな」
(聞きたい事があるのでしょう? ……レトヴェール・エポール)
貴殿の願いも叶えましょう。マザーの口調は、とてもゆっくりだった。
神族を生み出し、人間を脅かす存在。
その体は変わらず、レト達の中で疑問も幾つか浮き出ている。
聞きたい事があるというのに、嘘はなかった。
「悪いけど……願いっていうの、後回しにできねえの?」
「……!?」
「レト!?」
「今俺には叶えたいものはないんだ。人類が救われたら、ゆっくり考えて良いか?」
正直な意見だった。マザーも、その言葉に違和感は感じなかった。
彼女は、笑う。
(ふ……ふふ……面白い少年……)
(……! マザーが……笑った……?)
珍しい事もあるものだと、フェアリーは思う。
なかなか感情を表に出さないマザーが、口元を緩ませて、笑っていた。
その表情は、あまりに綺麗すぎた。
(良いでしょう……では、貴方の疑問に、応えましょう……貴方の、力になりたいの)
レトは、マザーと向き合う。
一歩、足を踏み出して。
足元を照らす炎は、揺れる。
「何で……神族を、生み出した?」
声は自然と震えなかった。
怯えもなかった。
ただ一番聞きたかった事を、喉を通して声にした。
(それは……人間を、護る為よ)
「その神族が今、人間にどんな影響を及ぼしていると思う?」
(分かっています……あの子達は、今、人間を憎んでいる)
「護るはずの存在を、脅かしてるのは何でだ?」
(“あの子”が……——人間に捨てられてしまったから)
「あの、子……?」
「レト君……話が長くなると思うけれど、聞いてくれるかしら?」
「え?」
「それとも、神様の事なんて……知りたくはないかしら」
「……どんな事でも、俺は知りたい。その為にここまで来たんだ」
「そう……では語りましょう。私達神族が生まれて、生きて、今に至るまでの——時の流れを」
それは、千年も前の話。
フェアリーは、少しだけ、苦しそうに微笑んだ。
彼はこの時漸く知る。
神の全貌を、生まれ生きる意味を。
存在する、理由を。
「神族、今の私達が生まれたのは……“初めの神族”が生まれてから随分後だった」
「初めの……神族……?」
「そう、それが——————“五大守護神”」
神族の先祖に当たる存在だと彼女は言う。
聞き慣れないものの存在に、レト含める英雄一同は騒然。
「神族だけを生み出したんじゃ……!」
「いいえ……マザーは、実にたくさんの“子供達”を、この世に生み落としているわ」
神族が生まれる前。
マザーが初めに生み出したのは、“五大守護神”と呼ばれる神様だった。
レトヴェール達も、良く知っている人物よ、と笑った。
フェアリーの言葉に、彼らは驚きを隠せなかった。
「“メルギース”と“ドルギース”——————彼女らはマザーの生み出した“神様”なのよ」
メルギースと、ドルギース。
フェンウェルという国で出会った、天使と悪魔のような姿を持つ双子の姉妹。
その昔、メルドルギース大国で王女として生まれた2人は、数奇な運命を辿る。
その経緯は、レト達も知っていた。
「え、でも……確かメドルル・ギースっていう女王が生んだ、って……」
「そうね。マザーの子を、そのメドルル女王が自分のお腹に宿してしまった、が正解かしら」
「へ?」
(神族は……必ずしも私の中から生まれてくるとは限らないの……)
「時として、人間の体を借りて生まれてくる事があるって事ね」
「そうだったのか……」
「でもそのせいもあって、“不具合”が起きてしまった……マザーは、2人を1人として生むつもりだったの」
「1人として……?」
「2人とも、背中に片方だけ翼があるでしょう? それが大きな証拠なの」
4人の守護神を、マザーは生み出した。
1人目は、“善”のメルギースと“不”のドルギース。2人を一つに合わせた“ホイズン”。
2人目は、世界事情を記録できるように生まれた記憶の神“メモラ”。
3人目は、どんな厄災からも人間を護る、盾の神“シルド”。
4人目は、時代と時間。全ての時を管理する時の神“リミト”。
「レト君、貴方は全ての守護神達と出会っている————って言ったらどうする?」
フェアリーの目が、レトに向いた。
整った顔立ちが今、はっきりとレトの景色を照らす。
「え……っ」
「時の神“リミト”……時を操る彼女は、己が神だと気付かずに死んでしまった」
思い当たる節はあった。時を操るという言葉に、そんな次元の力に、聞き覚えがあった。
たった一瞬しか見る事ができなかったが、確かに彼は知っている。
キールアとサボコロとエンは、首を傾げた。
「……あ、アルア……——?」
真っ白い髪の毛に、赤い瞳。
民族衣装に身を包んだ、次元師だったはず。
何故、と表情を陰らせていると、フェアリーは続けた。
「そう。彼女は生きている途中でメモラに記憶を操作されて、自分を次元師だと勘違いしていたのよ」
「そんな……事って……」
「時を操れる次元技だなんて、考えてみれば、無敵でしょ?」
「……そうだけど」
「それじゃあ、盾の神“シルド”は? 覚えているでしょう?」
「さあ……うーん……」
記憶を思い返そうとするレトの姿勢に、フェアリーはくすっと笑う。
真っ直ぐ前を向いて、そっと花咲くように口を開いた。
「……シルドはきっと、思い出せると思うわ」
「……?」
「彼だけ唯一……人間の姿をしていなかったもの」
優しい眼差しだった。
まるで、良い思い出でもあったかのような。
レトは、あっと、気が付いた。
「セルガドウラ……————っ?」
ロクとの両次元を初めて成功させた、洞窟の中。
棺に入っていた水色の怪物の姿を、今でも鮮明に覚えている。
フェアリーとロクを重ねていた彼は、静かに眠りについた。
フェアリーは正解よ、と言って笑う。
「おいおいレトばっかり知り合いかよ……」
「そうだな。俺達が入隊する前の話のようだ」
「……セルガドウラも、神様……」
フェアリーが、優しく優しく、接してたのは。
セルガドウラも自分と同じ、神様だったから。
今になって漸く意味が分かっていく。
「じゃあ最後の、メモラって奴は?」
「それは……自分で知った方が良いかもしれないわね」
「どういう意味だ?」
「でも必ず貴方は彼を知っている。だから敢えて、何も言わないでおくわ」
まあいいか。いずれ分かるだろう。
レトは考えるのをやめた。
ただでさえセルガドウラもアルアもかなり昔に出会っている。
もう1人、思い出すには辛いものがあると感じたのだ。
ただ、とても数奇な運命の巡り合わせだと、自分でも思う。
自分の周りはもしかして神で溢れ返っているのでは、と。
妙に気色悪い話だと、彼は苦笑を零した。