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Re: 最強次元師!! ( No.968 )
日時: 2014/04/23 23:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jEYyPTNY)
参照: 同時更新!

 第274次元 運命を背負う少年達

 (レトヴェールは……本当に不思議な少年、ね……)

 「そんな……偶然だろ」
 「運命だったら、恐ろしいわね」

 運命。
 レトもロクも、大嫌いだった言葉。
 フェアリーは話を元に戻した。

 「メルとドルは、生まれてから数年後に命を落としてしまったのを知ってるでしょう?」
 「ああ……双斬に、教えてもらってな」
 「シルドも何者かに封印されてしまったし、神様はメモラとリミトだけになった」
 「5人もいたのに……一斉に?」
 「そうよ。マザーは、そうして私達“神族”を生み出したの」

 五大守護神は減ってしまった。
 作為的に、事故的に。
 そうしてマザーは考えた。
 失われない、永遠の命を持つ“神族”を、生み出そうと。

 「見て分かるかしら? マザーには————“五感”がないの」
 「えっ?」
 「五感を一つ一つ失って、そうして神族を————5人生み出した」

 触覚を、ゴッドに。
 視覚を、デスニーに。
 嗅覚を、アニルに。
 聴覚を、グリンに。
 味覚を、ワルドに。

 自分を削って、自分の体の一部として、神族を生み出した。
 全てを失った彼女に残されたのは、心と元力だけだった。
 マザーの口元は、笑った。

 (ただ……また問題が起きて……神族は、人間を恨むようになってしまった……)

 「問題? 人間が、神族に何かをしたのか?」
 「……そうね。正確には、ゴッドがだけど」

 千年前、ゴッドは生まれてから、人間を護る事に決めた。
 然しその念を、見事に人間に打ち破られる。
 当時人間は神様というものを信じなかった。
 異質の存在として、神族を迫害した。
 それが、神が人を憎む、最大の理由だった。

 護ると決めた人間が、自分達の体に爪を立てた。
 それだけで、神は深く深く、傷ついた。

 「そんな……」
 「神族は人間を殺し始めたの。ゴッドはマザーに止められて、能力は使えなかった」
 「じゃあゴッドが他の神族に命令したってのか?」
 「そうね……彼は神の司令塔だから。逆らう神族も……いなかったと思うわ」
 「……」

 (世界は破滅へと、ゆっくり向かっていった……だから私は……“フェリー”を生んだの……)

 心の神が、フェリーが、やっとここで出てきた。
 神族を止める為に、穏やかな心を持った神が、必要だったのだ。

 「マザーが私を生む時は、マザーの“声”を犠牲にしたの」
 「声、か……納得いくような気もするな」
 「それと、同時にね」
 「?」
 「————貴方達“次元師”も、一緒に生み出した」

 レトも、他の3人も。
 息が止まるようだった。
 神だけではない。
 神に対抗する“力”を人間達に与えたのも、マザーだったというのだ。

 全ては、暴走した神を、止める為に。

 「そんな……」
 「神族も、五大守護神も、皆元力を持っているのを知っているかしら?」

 (フェリーを生んで……元力を、人間に与える事で、神に……子供たちに、対抗して欲しかった)

 「マザー……」
 「今のマザーには殆ど元力がないの。心だけで、千年間もずっと、生きている」

 この世界が生まれた時。
 マザーは、世界と共に生まれてきた。
 人間はいない。プランクトンや植物で溢れ返っていた世界の中で。
 彼女は元力という、無限の力を持って存在していた。
 人間達が生まれ、争い合わないように。
 護ろうと思って、神を生み出した。でも、できなかった。
 自分の子供の躾もできないなんて。彼女は言った。
 泣くはずもないのに、心は泣いているようだった。

 (随分と、図々しい事は分かっています……でも、この世界を……護って欲しいの)

 「……」

 (私は、貴方達に力を貸したい……どんな事でも、答えてあげたいの)

 「じゃあさ、マザー……一つだけ聞いて良いか?」

 (ええ……何かしら?)

 「神族って、コアを壊す以外に倒す方法はないのか?」

 一瞬の、間。
 マザーは暗い視界の先にいるであろうレトを、見透かすように口を開く。

 (そうね……今のところは)

 「そうか。ありがとな、それだけで十分だ」

 (何かあれば……また話を聞きましょう……といっても、フェアリーを通じて……だけれど)

 「ああ、頼むよ」

 (貴方達が、胸に抱くのは……“無限の可能性”……信じて、貫いて……——生きて)

 マザーの声は、4人の心に真っ直ぐ手を伸ばしたかのような暖かさだった。
 出会いはバラバラだった。上手くいかない日もあった。
 それでも英雄として今、ここに立っているのは。
 お互いのお陰であり、元力をその身に与えたマザー自身のお陰でもある。
 彼らは視線を逸らさなかった。
 随分と成長した4人に、フェアリーは笑いかけた。

 「おう」
 「ありがとうございますっ」
 「よっしゃ!! なんかやる気出てきたなっ!」
 「……神のご加護も、悪くはなさそうだ」

 無邪気な笑顔は強さに変わるだろうか。
 真っ直ぐな目をした少年達が、今後の世界を、創るのだろうか。
 少年達の姿は見えない。だけどその心は、しっかりと伝わってきた。
 彼らの中に、正義を持たない次元師はいない。
 それが分かっただけでも良かったと、マザーは思う。

 「それではマザー。私はもう少し彼らに話が御座いますので」

 (そうね……——レトヴェール)

 「? 俺に何か?」

 (貴方は少し、残って下さい……最後に伝えたい事が)

 「……分かりました」
 「じゃあ先に行ってるね、レト」
 「またあとでなーっ」
 「神殿の前で落ち合おう」

 キールアとサボコロとエンが、踵を返した。
 3人で並んで、和気藹々と来た道を帰る。
 その後ろ姿が消えるのを確認して、レトも振り返った。

 「それで……俺に伝えたい事、って?」

 一人になったレトの声は、この暗闇の中でよく響いた。。
 音がマザーに伝わった時、彼女は見えてもいないレトへ向けて言葉を放つ。

 (……レトヴェール……貴方は、自分の運命を……——知りたいと思いますか)

 彼女の声色が、その響き方が、変わった。
 心にそっと注がれる水のような声。
 凛とした響きは、胸の中で反響する。

 「……運命?」

 (……キールア・シーホリー……彼女は近いうち必ず、人生最大の運命とぶつかる)

 「……!!」

 (その時、貴方は諦めないで……彼女を支えてあげられますか……?)

 「当たり前だろ……もうとっくに決めてるよ」

 (そう……——良かった……)

 マザーは顔をあげた。
 包帯の裏にある表情は、読み取れないまま。


 彼はまだ知らなかった。

 背負う運命が、未来を大きく変える運命が今、語られようとしているのを。


 (レトヴェール……貴方は、いつか大きな“扉”の前に……立つ……)

 「と、扉……?」

 (その近くには……————フェリーも、いる……)

 「!? ……ロクも!?」

 (……世界の運命を、未来を……変える為に、扉を開こうとするでしょう……)

 でも、と。
 マザーは言葉を紡ぎ続ける。


 (貴方達のどちらかは……それを拒んでしまう……)


 世界の運命を左右する場面に、出くわしてしまうと言った。
 そしてレトかロクのどちらかは、それを諦めて、拒んでしまうと。
 レトの口から、声は出なかった。出せなかった。

 (どちらも、幸せな世界を……望んでいる……でも、諦めてしまう……)

 「どうして……!?」

 (それは分からないの……ごめんなさい……でも貴方は、貴方だけは……——どうか諦めないで)

 レトは知っている。
 ロクは、そういう場面で諦めるような奴ではないと。
 自分の身を滅ぼしても、世界を救うような奴だと。
 諦めるとしたら。悔しいけれど……それは自分だ。
 未来の自分に、レトは腹を立ててしまった。

 「諦めねえよ……絶対」

 (その言葉を聞けただけで、良かった……ありがとう)

 「絶対、何があっても————諦めたりしない!!」

 (力強い言葉、ね……時間を取らせてごめんなさい……もう、行っていい……)

 「おう。……話し難い事だったのに、話してくれて俺も嬉しかったよ」

 レトは一瞬ちらっとだけ、振り返る。
 マザー。
 神の創始者。神族を生み出した者。
 初めはそんなイメージばかりがレトの脳内にあった。

 然し実際に話してみると、とても人間くさくて優しい、本当の母のようだった。
 昔の事を、思い出した。
 母はもういない。でももし今も生きていたら、あんな感じだったろうと。
 心の中を、暖かい水が満たしていく。