コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.969 )
- 日時: 2014/04/24 00:10
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jEYyPTNY)
- 参照: 『今日という日が終わる前に、』——本日生誕。
第275次元 重なる妖精
(……)
神の創始者、マザーはまた一人ぼっちになる。
炎は、風もないこの場所で自然に消えた。
(ごめんなさい……——私は、結局子供が大事なだけの母親……ね)
流れる筈のない涙。溢れる筈のない声。
彼に、全てを話す訳にはいかないと思ったのが、心苦しくて仕方ない。
フェアリーに気付かれていないと良いけど。マザーの胸は無性にざわめいた。
その時。
彼女は、ある気配を感じる。
そっと振り返った。
この心は、と。
「————ありがとう、マザー。あたしなんかの為に」
黄緑の髪を、さらっと揺らした。
彼女の表情は見えない。暗い部屋に、ただ明るい声だけが、響いて消えた。
人間の母が正しく持っている、慈愛を感じた。
マザーが何故か他人のように思えなくて、レトは照れ臭い気持ちになった。
扉を開けて出たところで、レトはまた驚いた。
どうやらレトの事を待っていたようで、フェアリー・ロックは壁から背を離す。
「優しい人だったでしょう?」
「ああ……拍子抜けしたよ」
「でしょうね……私も初めてお会いした時、思ったわ」
実はレトにはまだ、聞くに聞けない疑問があった。
マザーには悟られていたかもしれない。
然し、直接本人に聞くのが良いと思って、言い出せなかった。
長い長い階段を下る。
考え事をしていた彼は、フェアリーが足を止めた事に気付き自身も歩みを止めた。
彼女は振り返る。
「私に……聞きたい事がありそうね?」
流石、心の神を千年もやっているだけはある。
レトは心の内を見透かされていた事を誤魔化すように髪を掻き上げた。
目つきは、真剣なものへ。
「フェアリーさん……————あんた、何で生きてんだよ」
千年も前、彼女は人間への反逆罪に問われ、人間に滅ぼされた筈の存在だった。
十字架刑に処され、跡地には何も残らなかったとも語られている。
紙上でしか彼女の歴史を知らないレトにとっては、一番聞きたい事でもあった。
「そうね……色々疑問はあると思うけれど……」
「……」
「その話は、残りの英雄達にもしてあげないと……ね?」
フェアリーは前へ向き直って、また階段を下っていった。
優しいだけではない彼女の表情は、一瞬にしてレトの心を凍らせるようで。
心の神というのは、人の心を動かすに長けているな、と。レトも思って、歩みだした。
階段は終わった。淡く照らされた景色の先に、扉。
手をかけて、開いた先に、英雄達がぱっと表情を明るくする。
「レトーっ! 遅かったなっ」
「そうか? 話自体は短かったけど」
「まああの部屋から外までは道のり長いもんねー」
「うむ」
キールアとサボコロ、エンはレトとフェアリーの帰りを立って待っていた。
3人はレトのいる方へゆっくりと歩み寄る。
「さて、マザーにも会った事だし……貴方達には来てほしいところがあるの」
「今から?」
「そうよ。私の小屋にね」
こっちよ。フェアリーの後についていくように4人は続く。
碧い森の中を、物珍しい目で眺めながら歩く。
何処に太陽があるのだろうと、レトは首を回す。
黒い点を見つけた。空に浮かんだそれは丸い形でそこにあった。
ブラックホールか何かのようにも見えたが、それは違うと冷静になる。
第一太陽がないとこの世界は明るくならないだろう。
神を創ったマザーがいるのだ。きっとマザー自作の太陽なのだろう。
スケールの大きな疑問だと思った。
「ここよ」
草を掻き分けて見えたのは、木材で出来た小さな家だった。
屋根もある。横に広い。周りには草と花しかない。
然し中自体は意外に広そうだ。
「へえ……ここで一人暮らし?」
「そう。ここはとっても静かなの」
「そういえば神族って皆あの神殿で暮らしてるんじゃないの?」
「そんなまさかっ。……アニルやグリンは外で寝て過ごしていたわ」
「各々、お互いに関わろうとはしなかったと?」
「そうね……皆血は繋がっているけど、心は離れ離れだから」
悲しそうな瞳だった。
普通なら、母がいて、生まれて、家族のような存在なのに。
心は千年経った今でも、離れたままで。
決してお互いを分かり合おうとしない。他人のようだった。
「そんな事より! 早速、貴方達を呼んだ“もう一つの理由”について……」
「……ちょっと待った」
「あら? 何かしら?」
「さっきの話……続きが聞きたいんだけど」
フェアリーはまたくすりと微笑んで、せっかちな少年だと心の中でそっと呟いた。
そんなところまで“彼”に似ているものだと重ねて思い。
彼女は、分かったとただ一言添えて、指差した。
「それじゃあ家に入りましょう。外で話してもなんだしね」
フェアリーに促された英雄の一同は、フェアリーの住む家の中へ。
木造建築で、中は広い。必要最低限のものが取り揃えられていた。
台所やフルーツの入った籠もあり、テーブルには花を生けた花瓶も。
白いレースのテーブルクロスの上に、紅茶を淹れたカップを乗せていく。
冷めないうちにどうぞ、なんて、彼女は楽しげに微笑んだ。
「雰囲気が素敵……」
「気に入ってくれたかしら?」
「はいっ」
「なんか古風だよな……木造だし」
「千年前の家をモチーフにしているの」
「なるほどな」
小屋に足を踏み入れてから、一言も言葉を発さないレト。
彼を見るなり、話す時が来たか、とフェアリーは紅茶のカップを置いた。
「さっき、神殿の前でレト君に聞かれた事があるの」
「へ? レトが?」
「ええ……————“何故私が生きているのか”とね」
知識欲の深い彼なら、絶対に追求してくると分かっていた。
彼女は、語り始める。
「貴方達も気になっていたと思うの……だから、順を追って話すわね」
それは、千年も前の話。
神族の暴走を止める為に生まれたフェアリーは、人間に神だと気付かれないよう名前を変えた。
それがフェアリー・ロック。
美しい容姿、麗しい歌声。そしてどの宝玉にも勝る透き通った心。
その全てが、人間達の心を強く惹きつけ、誰もがフェアリーを愛するようになった。
当時のレイチェル王国の王子、ポプラ・エポールという英雄に出会い恋に落ち。
沢山の人と関わり合いながら、その時はやってくる。
大切な人も、数え切れない程失った。
大切な人の涙を、数え切れない程見てきた。
死んでいく人間達の山を越える以外に、前に進む道はなかった。
それが正に当時の戦国時代を飾る言葉だったろう。
何度も何度も戦争は繰り返され、人々は命を失い続けた。
そうして時は来た。神族が、次元師を含む人間達を一斉に襲撃する日が。
0032年12月25日————第一次神人世界大戦勃発。
「それが……最初の戦争……」
「ええ……80人余りの次元師は、そこで全員命を落としてしまったの」
勿論、英雄大六師も、全員と。
千年も昔の話を、景色を、彼女は未だに覚えている。それも鮮明に。
次元師は全員命を落とした。神族が、生き残った。
これが神と人の差なんだと、フェアリーは絶望とともにそれを知った。
約1週間後、彼女は人間の手により十字架刑で公開処刑をされ、世間的に死亡した。
「……世間的に?」
「私にはその時、殆ど元力が残ってなかったの……だからマザーは、私を引き戻した」
弱り切り、死に際だったフェアリーを有次元に引き戻したと言った。
そんな事ができるのは、マザーだけだと。
引き戻されたフェアリーにはもう、生きる気力はなく。
その後何十年も、何百年も、神殿の一室に引きこもっていたのだとか。
「だから今もまだ私は生きている……あの時、死んだことに、されただけで」
「じゃあ何で……何であいつは……」
「分かるわ……その気持ち。でもごめんなさい……それは私にも、マザーにも分からなかったの」
「? な、何の事だ?」
「知りたかったのでしょう? ————“それなら何故ロクアンズは生まれてきたのだ”と」
「「「!!?」」」
同じ神族が重複して存在する事はあり得ない。
何故なら一つの神につき一つの能力。そして命であったから。
それではロクアンズは何故妖精として生まれてきたのか。
何故神章をその身に刻んで生まれてきたのか。
彼女は、神族から見ても“異質”の神であった。
「あり得ないのよ……私の他に、【FERRY】がいるなんて事」
「じゃあフェアリーさんにも分からないのか?」
「……知っていたら、こんなに悩まないわ」
「だろうな」
「彼女は人間から生まれた可能性も高い……それかと思ったけど、そうだとしてもあり得ないの」
「神族が双子として生まれてくる事は?」
「ないわ。私達は元々一つの個体として、転生を繰り返すから……」
ロクが、この世に生まれてきた理由とは何なのだろうと。
彼女以外に妖精は生きていて、それでも尚その名を背負って彼女は生まれてきた。
見間違えるはずもなかった。
彼女の項に浮き出した神の印を。彼女の閉じた右目に刻まれている神の証を。
謎はただ、謎を深めるだけだった。
レトは、幼い頃のロクの無邪気な笑顔を思い出した。
何も知らなかった頃が懐かしいと。
今でも思う。そう、感じた。