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Re: 最強次元師!! ( No.970 )
日時: 2014/04/27 09:13
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jEYyPTNY)

 第276次元 “第二覚醒”

 「他に聞きたい事が特になければ本題に入るけど、どう?」
 「いや……ありません」
 「そう。じゃあ私からもレト君に聞いていいかしら?」
 「? どうぞ」
 「単刀直入に言うわね——————“あれ”を、どうやって手に入れたの?」

 英雄大四天の4人が、びくっと反応する。
 レトを除く3人は、レトの方へ向いた。レトは、視線を逸らす。
 そんな彼の仕草を見ていたフェアリーは、話を続けた。

 「私も決勝戦は見てたの……君も、びっくりしたでしょう?」 
 「俺にも、何が何だか……」
 「? あ、そういやお前双斬の形変わってなかったか!?」
 「なんか、紅くて鋭さ増してたような……」
 「“双天斬”————それが、名前でしょう?」

 正に絶体絶命の時だった。
 シェルが自分に矛先を向けて。会場中が息を呑んだあの時。
 確かに自分の胸は高鳴って、鼓動が速くなって、気が付いたら叫んでいた。
 レト自身にも、あの時どうやって双斬の形を変えたのかは分からなかった。

 「フェアリーさんは、知ってるんですか? あれが何なのか……」
 「そう、ね……——名称だけなら、知っているわ」
 「名称? 名前があるのか?」
 「マザーから話は聞いていたの……あ、ところで君達」
 「?」
 「“次元の扉発動”って、次元を開く時言うでしょう?」
 「そうですけど……」
 「それが何か関係していると言うのか?」
 「正解! ……実はその掛け声ってね、“間違い”なのよ」

 え、と驚く一同。
 次元の扉発動、と叫ぶ事で次元師達は己の心の次元を開いてきた。
 誰が解き始めたかも分からない呪文だが、古来からそれはあったのだ。
 然しフェアリーは否定する。“間違い”であると。

 「間違い……?」
 「正確には——————“第一覚醒”」
 「!?」
 「人間が己の力を解放する時に言う言葉……きっとこれでも次元の扉は開くわよ?」
 「へ?」
 「やってみて、レト君」

 レトは、ガタンと椅子から立ち上がった。
 椅子をしまう事もなく、すっと瞼を閉じた。
 内側に溢れる力。ドクン、ドクンと。心臓に呼応するように心が跳ねる。
 口を、開いた。

 「————“第一覚醒”!!」

 次元は、開いた。

 「双斬————!!」

 空気を纏って、姿を現したのはお馴染みの双剣だった。
 レトの手に、それはしっかりと握られたまま。
 驚きの表情は、隠せなかった。

 「嘘だろ……」
 「で、きちゃった……」
 「でしょ? それが本来の掛け声なのよ。豆知識ね」
 「誰が掛け声変えたんだ?」
 「さあ? それは一番初めに次元の扉を発動した千年前の人に聞かないとねっ」
 「はは……そりゃ、分かんねーや」
 「レト君、そのまま続けて“双天斬”を出せる?」
 「え!?」
 「出来たんでしょう?」

 意地悪な笑みだった。
 フェアリーはくすっと笑う。レトはしっかりと、双斬を握ったままだった。
 じっと双剣を見る。あの時感じた、体全体の水分が一気に沸騰するような感覚。
 思い出せ、思い出せと、唱える言葉。

 「——————双天斬!!」

 瞬間、双斬は全身に赤みを帯びた。
 おおっ、とサボコロが声を上げた時。
 その赤みは、帯びた光と共に消え失せた。

 「あ、ありゃ……?」
 「あらら?」
 「可笑しいな……」
 「あの時は、どんな気分だったの?」
 「ん……なんか、こう、諦めたくないっていうか、負けたくないっていうか……」
 「闘争心に滾っていた訳ね……うん、じゃあ」
 「?」
 「そろそろ、修行を始めましょうか?」

 にこっと笑う、妖精。
 人間くさいその笑い方に、レトの気は緩む。
 双斬は空間の中へと消えた。

 「修行って……」
 「使いこなせるようにしなくちゃね、あ、勿論他の3人もよ?」
 「は!? お、俺達も!?」
 「出来るかなあ……」
 「出来るに越した事はないが……」
 「大丈夫! だって————“英雄”になったんでしょう?」

 これくらい出来なきゃね。
 妖精の笑顔は、至って嬉々としていた。
 玄関の扉を開けて、いざ4人は外へ。
 新しい、扉を開けに。

 (ゴッドが創った元魔……まだ残っていたかしら。そろそろ狩り時だってこの間……)

 「フェアリーさん?」
 「! あ、ご、ごめんなさい……修行だったわね」
 「具体的に何すりゃ良いんだ?」
 「簡単よ。今までやってきた事を、ここでもやれば良いの」
 「それってどういう……」
 「元魔の————退治よ」
 「はあ!?」
 「有次元から元魔を送っているのを知っているでしょう? ここにはたくさんいるのよ」
 「で、でも……っ」
 「ここから少し離れた場所に湖があってね、その近くに沢山潜んでいるの。別荘もあるし丁度良いわ」
 「ちょ、ちょっ!」
 「時間はないの————さっさと強くなって、神をぶっ倒してくれなきゃ」

 半年を切った。戦争までの期間は残り5ヵ月弱。
 遊んでいる暇はないとでも言うように、フェアリーの足取りは忙しいものだった。
 彼女も内面は焦っている。早く、早く、彼らに追いつく程強くならないと。

 自分が護れなかったものを、今若い彼らに任せるしかないのが悔しかった。
 悔しさも苦しさも、あの時流した涙も全部呑み込んで今、進んでいる。
 歩みは止めない。きっと雪辱は晴らしてみせると、その背中は堂々としていた。



 水面に宝石をばら撒いたかのような煌めき。
 穢れのない澄み切った水を、レト達は覗き込んだ。
 鏡のように自分の顔がくっきりと映る。

 「綺麗だねーっ」
 「人間界じゃありえねえな……」
 「湖ってもっと淀んでるもんじゃねーの?」
 「フェンウェルの泉はこれと大差ないぞ」
 「ふふ……綺麗でしょう? それじゃあ早速始めちゃいましょうか」
 「元魔の退治って……意味あるんですか?」
 「あら。レト君は不満かしら? 大丈夫よ、“条件”つきだから」
 「条件?」
 「元魔を————次元技を“使わないで”退治するのよ」
 「「はあっ!?」」

 レトとサボコロの声は重なった。
 キールアとエンもお互いに顔を見合わせ、訳が分からないと言った表情。
 一人楽しそうに笑うフェアリーは、湖を覗き込んだ。

 「だって使ったら楽に倒せちゃうでしょう?」
 「そうかもしれないけど……」
 「双天斬のような“第二覚醒”を起こすには、極限状態にまで自分を追い込まないと」
 「だ、第二覚醒……?」
 「正式名称は“第二覚醒”……つまり、元あった次元技の、その先の力」
 「まだ、強くなる余地はあるって事か?」
 「ええ、そうね」

 まだ強くなれる。自分だけじゃない、次元技もまた。
 偶然といえどレトにはそれが出来た。彼は、拳をぐっと作る。
 やってやる、そう瞳は訴える。

 「よし、やってやろうじゃん」
 「良い心意気よ。レト君とエン君とキールアちゃんは次元技を発動するだけで、ね?」
 「俺は?」
 「サボコロ君は次元技を使っても良いけど、炎撃だけ……それも一次元のね」
 「……なんか、一次元級って言葉に最近縁があるな」
 「ふふ、そうね。……時間が勿体ないわ! 早速行ってきてっ」
 「あ、ちょっと……有次元って夜はあるんだよな?」
 「ええ、だから日が落ちたらここに戻ってきて、また朝から修行開始ね」
 「使えるようになるまでずっと元魔と追いかけっこかよ……」
 「気落ちしないの、サボコロ君。さあ行った行った!」
 「へーい」

 少年達は、森に向かって歩き出した。
 目印は湖。今はまだ昼頃なので、日が落ちるまで時間は十分にある。
 まず経験のある、自分が糸を掴んでこないと。
 レトは深い、深い森の中へ進んでいく。

 「お互いに一緒だと助け合っちまうよな……やっぱ単独に限る」
 「何か言った? レト」
 「うわ双斬! 急に出てくんなってばっ」
 「ごめんごめん……毎度毎度、反応良いね〜」
 「そりゃどうも」
 「トゲのある言い方だね……んで、どうする?」
 「ん〜……お前は何か分かんねーの?」
 「分かんないよ、だって僕にだって初めての事だし」
 「そうだよなあ」

 森はだんだんと深みを増して、暗く、暗くなっていく。
 虫が、一斉に音を出す。
 バサバサと空へ飛んでいく鳥を、見た時。

 口から這い出た舌が、涎を纏って垂れる。
 剥き出しの牙を、少年の背中に向ける————“気配”