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Re: 最強次元師!! ( No.974 )
日時: 2014/05/11 23:05
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)

 第278次元 英雄達が生きた時代 前編

 戦が戦を呼ぶ戦乱の時代。
 人は生まれ、生きて、戦って、死ぬ。
 多くの人間、そして多くの次元師が戦場に駆り出され、皆戦火に呑まれ倒れていった。
 枯れた体が転がる道を、歩いて、超えて、涙は飲みほした。
 そんな時代が訪れたのも、双斬達が生まれる十数年前の話だった。

 双子の王女が生まれた事から、地域により権力争いは起こった。
 どちらの子を跡継ぎにするかで、国民達は涙と血を、流し始めた。
 王女は共に、同じ日に幼いまま亡くなった。
 国民は真っ二つに割れる。北がドルギース。南はメルギースと。
 国を失った両国は、その広大な土地の中に沢山の国を築き始めた。

 その中で最も大きな一国家だったのが、“レイチェル王国”。
 後のレイチェル村にあたる、豊かで広い国だった。
 何でもレイチェル王国を築いたレイチェル・ギースが、メルドルギース国の王族だったらしく。
 分断した国を立て直す為に、女手一つで、国を立ち上げた。
 その後裕福な家柄を持つ男ウィストン・エポールと婚約、後に結婚。
 レイチェル王国の国王も生まれ、国は安定していた。

 双斬は語る。自分はレイチェル王国の生まれだと。
 ただ戦争に巻き込まれ両親は死去。
 英雄大六師は全員、そんな孤児だった。
 双斬はとある孤児院で、英雄大六師の全員と出会う。
 皆その時既に、次元師だった事を知って驚いたと言う。

 「孤児院にいたのか、お前」
 「うん、皆同い年くらいで……楽しかったなあ」
 「その、初恋の子も一緒に?」 
 「そうだよ……最も一番驚くのは、その孤児院の人がね」
 「?」
 「今も別荘で寝てる……フェアリーなんだ」

 レトは驚く。
 双斬は続けて、話し続けた。

 その時初めてフェアリーと出会う、英雄大六師。
 当時は、例え子供であれど他人を信用したりしなかった。
 双斬は特にそうで、フェアリーを突っ撥ねていた日々を送る。

 そう、あの子に、出会うまでは。

 双斬は孤児院を抜け出しては、森を歩いていた。
 息が詰まる場所にいたって、つまんないだけだって。
 また日が落ちそうになると、帰って怒られて。
 フェアリーも自分を心配してくれてた。
 でも怖くて、裏切られるんじゃないかって、年上を信用しなかった。

 風が吹いて、幼い葉は舞った。
 目を瞑って、そっと開いた時。
 双斬は、彼女に出会った。

 『こんにちは』

 にこっと、それはそれは、可愛らしい笑顔だった。
 銀の髪が小さく揺れる。
 人形のような微笑み。外見は幼いながら綺麗すぎる笑顔だった。

 「それが……」
 「そう、僕の好きな人——————今で言う、“風皇”だよ」
 「え!?」
 「僕らがずっと風皇を探してたのは……風皇だけ、先に逝ってしまったから」
 「!?」
 「ちょっとだけ、駆け足で説明するとね……」

 双斬と風皇は出会う。
 葉が舞う中で。
 毎日毎日、会って話して遊んで笑って。
 双斬にとって、風皇は自分を癒してくれる、大事な存在だった。

 例えその笑顔が全部、“偽物”だったとしても。

 やがて英雄大六師がフェアリーのおかげでまとまって。
 仲良くなって、毎日楽しく過ごして数年後。
 双斬は、自身が抱く風皇への気持ちに気付いていた。
 戦争はいつ始まってしまうか分からない。
 離れ離れになる前に、全て伝えてしまおうと、思っていた。

 『あ、あのさ……“リール”』

 “リール”。
 双斬は、言った。

 『? なーに? ————“レイレス”』

 レイレス————それが、双斬の名前だった。

 「そうか、お前……」
 「うん、今まで黙っててごめんね……僕、本名は“レイレス”って言うんだ」
 「そうだよな……お前にだって、生前の名前くらいあるよな」
 「うん。それでね……」

 双斬はいざ決心して、風皇、リールと向き合った。
 口を開こうとした、正にその時。
 国中に、鐘の音は響いた。

 『ドルギース軍が攻めてきたぞー!!』

 何の前触れもなく、城門付近に突如出現したドルギース兵。
 当然のように門は突破されて、メルギースは攻め入られてしまった。
 次元師だった英雄大六師は皆、門へ向かう。
 勿論双斬は、風皇に何も言えなかった。
 それが、風皇と話す、最後になるなんて思いもしなかったから。

 やがてそれは何か月にも亘る長期戦争にまで至ってしまった。
 風皇、雷皇はメルギースに残って各王宮を護り、双斬達男子勢はドルギースへ出兵した。
 炎皇や光節と何気ない会話を交わし、夜を過ごす毎日が過ぎる。
 太陽が昇ればすぐに戦火に巻き込まれ、何人もの兵を斬って落とす。
 風皇にも長い間会っていない。彼女は無事だろうかと心配にもなる。

 そんな時だった。
 双斬は、思いもよらない情報を耳にした。

 レイチェル王国に————火が放たれた、と。

 火薬や油を貯蔵していた油庫の居場所が見つかった。
 それも、メルギースに伏兵していた誰かがドルギース兵に密告をしたと。
 誰の仕業だと思い、炎皇と双斬は急遽メルギースへ帰還。
 そこで聞いたのは。

 「びっくりしたんだ……僕も」
 「え?」
 「まさか、油庫の居場所を吐いたのが————“百槍”だったなんて」

 百槍も共に、ドルギースへ出兵していたはずだった。
 いつの間にかメルギースに戻り、伏兵に告発していたのだろう。
 双斬は何度も考えた。
 仲間であった彼女が何故、自分の国を陥れようとする、と。
 百槍が、実はドルギースの人間であった事を知ったのは、この後の事だった。

 双斬が着いた時には、もうレイチェルは文字通り火の海だった。
 ここまで真っ赤な景色は、見た事がないという程。
 赤色に染まっていく国は、とても儚くて。
 国民の泣き叫ぶ声と怒号が、溢れて止まない。
 彼は、急いで風皇と雷皇を探した。

 『“イール”!! リールは!? リールは一緒じゃないの!!?』
 『レイレス……それが————っ』 

 雷皇こと当時リールの双子の姉だった“イール”の顔は曇った。
 どこにもいないんだと、彼女は言う。
 自分の妹もいなくて焦って、雷皇は慌てていた。
 その時。

 『おい聞いたか、まだレイチェルに次元師が残ってるって……』
 『何だと!? 次元師ならばすぐ逃げられるはずだろう!?』
 『それが————』

 双斬の心臓は、そこで一瞬、止まった。

 『————“風を操る次元師”だって』

 雷皇も双斬も驚きを隠せずにいた。
 何故彼女は、未だに国内に残っている?
 風を操り、すぐにでも逃げ出せる彼女が、何故。

 『どういう事ですか!?』
 『何でリールが!!』
 『そ、それは……』

 知らないと言った顔で男が首を振った時、
 別の男が、体を震わせて歩み寄ってきて言い放った。

 『か、彼女が自分で言ったんだ……“私が、助けてみせる”と……』

 この時風皇は、間違いなくレイチェル国内で息を潜めていた。
 まだ国内に残り、息絶えようとしている国民は大勢いた。
 避難命令が出ていたとしても、病人は動けずに。
 投げ捨てて、冷酷にも人々は己の身だけを案じて逃げ出した。
 子供が泣く声も聞こえた。

 『だ、って……どう、やって……?』
 『そうだよ!! 風はただ炎を煽るだけだよ!?』
 『俺もそう言ったさ!! だけど……!!』

 彼女は、とある場所にいた。
 そこは教会だった。
 真っ白い教会が今、炎に包まれて燃えている。
 風皇は中に入る。階段を上がって、屋上まで一気に駆け上がる。
 そこから————レイチェル国全体を見回した。

 双斬は何も知らないまま、城門の前で暴れていた。
 リールを助けなきゃ、僕がいかなきゃ、まだ————何も伝えてないんだって。

 泣いた時だった。

 『ごめんね——————』

 双斬はこの時、誰かが自分を呼ぶ声ではっとした。
 教会の鐘が、もう一度高く高く、天まで音を響かせた、その時。


 『————————好きだよ、レイレス』


 風は————、一気にレイチェル国全体を呑み込んだ。


 『第十次元発動——————————風嶺逆鱗!!!!』


 最初で最後の、“偽り”のない笑顔だったという。
 今までレイレスに嫌われまいと向けていた、作られた笑顔はどこにもなくて。

 双斬は、この事を何も知らなかった。
 ましてや自分が“好きだ”と言われてるなんて、思いもしなかったろう。

 白銀の天使は————ただ無邪気に、笑った。