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- Re: 最強次元師!! ( No.975 )
- 日時: 2014/05/18 22:38
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)
第279次元 英雄達が生きた時代 後編
それは突然の事だった。
男に何故止めなかったんだと迫っていた双斬の耳に届く轟音。
その音に、誰もが顔を向けた。
『え……————?』
風が、一気に炎を巻き上げる。
台風の域は超えていた。
国中に溢れる炎を風に乗せて、天へ天へ、高く風の柱は昇っていく。
豪風は、天気までもを変えて————一斉に暴れだす。
たった、一瞬の出来事。
巻き上げられた炎を、風は覆い包んでいく。
国の天上へ広がり、平らになった風が回転の速度を上げて、横に凪いだ。
しゅるるるっという激しい音で、炎は見事に掻き消えた。
国中を巻き込む程の大火が、煽るだけのはずであった風の力で、消えた。
『き、え……た……?』
『奇跡だ!! 奇跡が起こったぞーっ!!』
『神様なんていないと思っていたけど……風の神はきっといるんだわ!』
『願いが叶ったぞォっ!!』
違う。
そんな筈ない。
神でも、それは奇跡でもなんでもない。
英雄大六師が良く知る————ただの少女の面影が過ぎる。
『リール————————!!』
双斬は急いで、燃え尽きた国の中へ駆けた。
生きている人が何人もいる。死んでいる人は、いなかった。
良かった、奇跡だと、口々に国民は言葉を涙と共に零す。
でも、いくら探しても風皇はいなかった。
『ど、どこに……』
双斬は、ふと思い出した。
風皇と、遠い昔に話した事を。
『へえ……ここが、教会?』
『そうだよ! 女の人と男の人が、ケッコンとかするんだって』
『そうなんだっ』
『うん、お祈りもするんだよ! あとここの教会はね……』
『?』
『レイチェルの、丁度真ん中にあるんだ! だから……——』
“——レイチェルを、全部全部見渡す事もできるんだよ!”
教えなければ良かった。
もし言わなければ、確かに死人は出ていたかもしれない。
でも、君が死ぬ事はなかった。
君が、灰になる事は、なかったんだ。
『り、ぃー……る……?』
見つけた。
彼女は、教会にいた。
2人で、誰にもバレないように階段を上がって、見渡した景色。
2人で見た夕焼けを、今でも双斬は忘れていない。
綺麗で、儚くて、泣いてしまいそうな程、切ない景色。
『……り、ー……ひっ……っくぅ、りー……るぅ……!』
鐘の目の前で、彼女は息を引き取っていた。
『リールゥ————————!!!』
煙を、吸い過ぎた代償だった。
既に彼女は倒れていて、返事はしなかった。
何度も体を揺さぶった。何度もその名前を叫んだ。
でも彼女が、彼に笑いかけなかったから。
どんなに辛くても笑っていた彼女が、笑わなかったから。
死んだのだと、気付かされた。
『なんで……? 何で、よォ……リー、ルぅ……ぼ、僕は……——っ』
まだ“好き”だって、言ってないんだ。
君に全部、伝えてないんだよ。
『リール……っ』
彼の涙は、無情にも、彼女に届かなかった。
閉じた瞳。凍った体。
動かない、軽い肢体。
二度と、その目が開かれる事はない。
二度と会えない。二度と伝えられない。
もう、何もかも、遅すぎた。
その後、双斬は百槍に油庫の居場所を問い質したドルギースの主将を無残にも斬殺。
雷皇と炎皇はレイチェル以外の国をドルギース軍の手から全て守り切る。
裏で動いていたドルギース国軍の暗殺部隊を一人残らず片付けた、光節。
百槍はドルギース軍を欺き、内側から軍全体をたった一人で殲滅。
風皇がレイチェル国民を救い上げ、何百もの兵を救った事から、彼女も栄誉を称えられた。
メルドルギース再戦から1年。
戦争はドルギースが降伏し、幕を閉じた。
そして双斬達は、“英雄大六師”という称号を国から授かる事になった。
レイレスを始めとする4人と、戦中で命を落としたリールを含めて。
戦争が終戦を迎えた朝。
とても儚くて、寂しい朝だった事を双斬も覚えていると言った。
「そうか……風皇、いやリールが……」
「うん……戦争は勝ったけど、それも停戦状態でね……」
「へえ……」
「色々ごたごたしてたけど……あっという間の一年だった」
国に帰った双斬達は、また悲劇をその目に見たといった。
本当に心休まる日はなかった。
裏切り者として、百槍はメルギースから追放された。
英雄大六師の称号を受け取ると共に彼女は姿を消した。
最も、苦しかったのは彼女本人で。
自分が風皇を殺したのだと、酷く悲しんでいた。
その後、メルギース屈指の二大英雄アディダス・シーホリーが悪魔の血を覚醒させ死去。
それも同じく英雄として彼女と肩を並べていた、レイチェル王国の王子が手を下したと聞く。
ポプラ・エポール。彼はアディダスの幼馴染でありながら、暴走した彼女を止める為に刺殺。
その光景を見ていた百槍はポプラを殺しにかかるが、出来なくて。
ポプラには非難の声は上がらず、よくやったと国中が嬉々としていた。
人を殺めて、殺められてが何年も続く。
双斬は、目を細める。
「気が付いたらもう……神人世界大戦の直前だったよ」
「確か0032年、だったか?」
「うん……」
英雄大六師は、歯も立たなかったという。
当時元魔はいなかった。然し神族を相手にしただけで、全滅した。
後にゴッドが力を解放して、人類は4割程人口を失ったと言った。
何故だか精霊として蘇った双斬達は、千年後に現れるレト達を待っていた。
理由は分からない。ただ直感的に、この人だと決めていたのだろう。
「随分長く話し込んじゃったけど……まだまだ、こんなもんじゃないよ」
「長いんだな……本当に」
「うん、長かった」
「……辛かっただろ」
「……うん、辛かった」
双斬が、泣いたように見えた。
大切な人たちが、次々に倒れていく時代だった。
死んでいく。屍はただ、増えるばかりで。
涙を流したって、死人は戻ってこないのだと教わった幼少時代。
何度足掻いたって、過ぎた時間は戻ってこないのだと痛感させられた少年時代。
たった十数年の人生だった。
あっという間に恋をして、護って、戦って、血を流し続けて、死んだ。
息つく暇もない程、日々は駆け足で過ぎていった。
やっと双斬、レイレスは、へらっと笑った。
「ごめんね、こんな暗い話」
「いや、俺こそ……こんな簡単な事で、弱音なんて吐いて」
「レト……」
「自分が恥ずかしいよ……まだ俺は、ロクを失ったわけじゃないのに」
「……」
「後悔しない……俺は俺の戦い方で、強くなるよ」
時間は戻らない。過ぎた時間を欲しがったって、もう手に入らない。
悔いのないように、また剣を握るよとレトは言う。
もう諦めないから、そう笑った。
「双斬の話、聞けて良かったよ」
「うん、僕も何だか懐かしくて……思い出せて良かった」
「ありがとな……きっと次は————俺達の番なんだ」
「うん……信じてるよ、レトの事も、皆の事も」
双斬は虚空に消える。
泣きたかっただろうに、幼い彼は泣く事もしなかった。
レトはふわぁ、と口を間抜けに開いて、欠伸をした。
よし。力を、入れ直して。
日は昇った。
長い夜は終わりを告げる。
レトは早朝から既に別荘から姿を消していた。
戦乱の時代は終わった。
誰かを裏切って、殺して、泣いて、喚いた時代はもう過ぎた。
双斬達の、レイレス達の涙を乗り越える為にも、レトは踏み出した。
強くなる。諦めたりしない。
もう、迷ったりしない。
レトは、荒れた獣道を、駆け入っていった。