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Re: 最強次元師!! ( No.976 )
日時: 2014/05/25 09:12
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)

 第280次元 神、再び

 「——くらァ!!」

 双剣は吠える。
 切り裂かれた巨体は、その場に倒れ砂と化した。
 レトヴェールは、ふうと一息をつく。
 完全に隊服を脱ぎ捨てた姿で、森の中をうろついていた。

 (凄いやレト! 今日だけでもうじゅ……12匹?)

 「13匹な。……はあ、疲れた」

 (元力は使ってないけど、体力は相当持ってかれたんじゃない?)

 「そうだな……」

 朝から正午を過ぎて、昼頃。
 元力を使わず剣術のみで元魔と戦い続けたせいか、大分状況には慣れたレト。
 然し未だに第二覚醒の意図は掴めず、がむしゃらに元魔を斬り続けてきた。
 一体こんな事のどこに意味があるのだと、飽きれ始めた頃。

 (————レト後ろ!!)

 双斬の声が心の中でわっと広がった。
 後ろを向く。迫る元魔の腕。

 次の瞬間————————元魔の喉元に細い何かが突き抜けた。

 「え……!?」

 レトの頭上を影が覆う。ゆらりと、元魔が倒れ込んできた。
 横へ跳んで、ドンという衝撃が大地を揺らす。
 土埃は舞った。

 「——大丈夫? レト」

 元魔の大きな背中の上で、槍を片手に少女は立っていた。
 よっ、と元魔から降りると、金髪を靡かせて彼女は笑みを零す。

 「キールアお前……えげつないな」
 「そう? 割と普通じゃない?」
 「元魔がそろそろ動く……ちょっと離れてろ」
 「うん。……レト、見つけた? 第二覚醒のヒント」
 「ん……まだだよ」

 起き上がる元魔が、太陽を隠す。
 剥き出しの牙。開かれる大口。
 腕は、伸びた。

 「ウアア————!!」
 「————うらァ!!」

 だっと駆け出して、一撃。
 難なく元魔の体を斬りつける。飛び散るは鮮血。元魔はよろめいた。
 続いてキールアが、くるくると器用に槍を回して、

 「はァ——!!」

 しっかりと、握りしめて。
 切っ先はレトが傷をつけた腹部に向けられた。
 槍は突き出された。

 「ウガアアア—————!!」

 地面を叩く腕。2人は衝撃で吹っ飛んだ。
 土埃は舞う。レトは咄嗟に顔を防いだ。
 その時。

 (しまっ——!?)

 元魔の両腕が、自分を覆った。

 「————レト!!」

 刹那。
 元魔の野太い両腕が、レトにのしかかる直前。
 一本の槍が、上から迫る両腕を下から押し返していた。
 キールアは、苦しそうな表情で元魔の腕を抑える。

 「キール……っ!?」

 細い腕が震える。力を抜いて一瞬、元魔を押し返した。

 「大丈夫!? レトっ!」
 「え、ああ……」

 キールアの表情が柔らかく綻んだ。
 安心して、レトも立ち上がる。

 (俺が……俺がしっかりしないと……)

 双斬を握る手に、力が入った。
 起き上がる元魔に切っ先を向ける。

 「うらァ!!」

 元魔に斬りかかる。斬る。貫いて、一撃、元魔の巨体は九の字に折り曲がった。
 鮮血を浴び、彼はぐるんと回って、双斬を振り上げた。
 斬りかかろうとした所で、不思議な“声”が、それを妨げた。


 「楽しそうな事やってんなァ————————レトヴェール?」


 鋭い刃を、止めた指先。
 その指から伸びる、長い長い爪と。
 無造作に伸び切った黒髪を、適当に束ねた髪型。
 肌を曝け出した、涼しそうな格好に、口から零れる牙。
 レトは、驚いて退いた。


 「は……? ————あ、アニル……!?」


 動物の神、【ANIL】。
 彼女はにやっと口元に笑みを浮かべて立っていた。

 「死んだ、はずじゃ……」
 「バーカ。第一神族は転生できんだよ、意識もそのまんまになァ?」
 「そうじゃねえ! 何でまた……っ」
 「ここは“有次元”……神の生きる世界だぞ? 人間界にこそ行けねーが、ここでは生きられる」
 「何だと……?」
 「お前何も知らねェのな。……はぁ、ったく何でこんな奴の為に……」

 アニルはぶつぶつと何か言葉を零しているようだった。
 しかし、レトはそれどころではない。
 一度、二度、負けた相手。
 彼女が生きている間に、彼女に勝てた事が一度もないレトは、悔しさに奥歯を噛み締めた。

 「ほら、この腕輪が見えんだろ」
 「腕輪?」
 「これは、人間界に行く事を禁ずる為の“枷”だ。マザーの奴につけられてよォ」
 「マザーが?」
 「今神族でこれがついてんのは3人。このアニル様と、グリンと、ワルド、ってな」
 「じゃあ残りの2人も有次元に!?」
 「ああ。マザーは、神族の転生自体を止める事はできねェからな」
 「……生み続けるだけ、って事か?」
 「そ。まあその代わり、こうやって人間界へ行かせなくする事はできるみてェだけど」

 金に装飾された腕輪。それを、アニルはつまらなさそうに腕を回して示した。
 それはマザーの元力によって、神族達を抑圧する為に最近開発したものだそうだ。
 もし神族が転生をしても、人間界へ行かせないようにと。

 「じゃあゴッドとデスニーは……?」
 「あいつらはまず、ここに戻ってこねェからなァ……難しいんじゃねェ?」
 「……なるほどな」
 「んでんで? 何やってたワケ? レトヴェール」
 「ああ? 単に、次元技を使わないで元魔を倒していくっていう修行だけど……」
 「修行だァ? ……ふーん、そゆことねェ」

 アニルの猫目が、じろじろとレトの顔色を這う。
 彼女は、なるほど、と呟いて、楽しそうにまた笑った。

 「あいつが言ってたのはこの事か……楽しそうじゃん!」
 「? あいつって?」
 「気にすんなっ、どの道関係ねェから」
 「?」
 「という事でその修行、混ぜろよ」

 は、とレトの頭は真っ白に還る。
 彼女の爪が、ぎゅいんと、伸びた。
 地に滾った猫のような目が、一瞬レトを捉える。

 「な、何言って————っ」
 「うだうだしてたら死ぬぞ——!!」

 爪は伸びた。5本の針のようなそれは、レトに振り掛かった。
 それでも掠めた。瞬間の判断で、レトは横へ跳んだ。
 近くで茫然と立ち尽くしていたキールアがはっとして声を上げる。

 「レト!!」
 「キールア!! お前は下がってろ!!」
 「で、でも……」
 「良いから早くしろ!!」

 アニルの爪は、再び薙ぐようにレトの視界を踊り映る。
 獣のような動き。鋭く速い、風の如く軽く駆け抜けるアニル。
 動物の神たる彼女の体は柔軟に空を跳ぶ。
 レトが双斬を振るう。彼女は脚をバネにして、また跳んだ。

 「くっそ……っ」
 「動きが荒いなァ? レトヴェール!!」

 肢体は軽い。跳ねて、駆けて、彼女の爪は鋭くレトの目に映った。
 爪を地面に刺し、レトも跳んで腕を引く。反動で、左手はすぐに向いた。
 右の爪で双斬を難なく止めたアニルは、にやりと笑って、両足を揃えた。
 前に、突き出す。
 レトの腹部に直接蹴り込みは入り、衝撃波を呑み込んで、ドン。音は鈍く響いた。
 数十メートル後方、遥か遠くの景色に呑まれたレトを見たキールアが声を上げた。
 一瞬にしてレトが視界から消えた。ただ、一直線に跳んだ道を見ると、木々は薙ぎ倒されていて。
 ただの衝撃が、ここまで地形を変えるとは。
 間接的に周りのものが崩れていくのを初めて見た。
 キールアは急いでレトの跳んだ方へ駆けた。

 「レトーっ!!」

 口元に手を当てて、キールアは叫んだ。レトの名を、何度も。
 返事はなく、森の中を彷徨い歩き、忙しく首を回して彼を探す。
 腹部に強い衝撃を受けた彼の事だ。何処かで蹲って、苦しんでいるに違いない。
 そう、思った時。

 「————!?」

 驚いたのは、アニルの方だった。
 キールアの事を、背中から狙っていた。
 それも気配を、意識を、殺して。
 動物が放つ殺気までも押し殺し彼女に近づいたはずだった。
 然しどうだろう。
 キールア・シーホリーに、一瞬、睨まれたような気がしたのだ。
 今や爪と槍は対峙している。
 たった刹那の間に、彼女はアニルの気配に気づいたというのだろうか。
 獣以上の嗅覚を持っていないとできもしない事だと、アニルは心底驚きを隠せずにいた。

 (この女、こんな武器持ってなかったよな……一体、何者なんだ?)

 アニルは、ここに来て初めて飛び退いた。
 槍から爪を離して、キールアが槍を構えた。
 いいや、そんな事ではない。
 武器がどうとか、その構え方がどうのという話ではないのだ。
 アニルには、何となく気付かれていたのかもしれないが。

 この時は、誰も知らない。
 まだ明らかになってはいない、彼女の事。

 彼女のその“瞳”に眠る、“×××”は、まだ誰も。