コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.977 )
- 日時: 2014/06/04 21:49
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)
- 参照: またもや遅れた←
第281次元 「お前は弱い」
アニルを置いて、ただ一人キールアは再び駆け出した。
背中はガラ空き。然し、アニルは狙う事をしなかった。
きっと彼女は何度不意打ちを狙っても、振り返ってその槍を振り回すであろうから。
けっ、と唾を吐き捨てる動物の神。アニルも、彼女を追った。
「レトー!! 大丈夫—っ!?」
岩に体をぶつけていたレトヴェールを、キールアは見つけた。
がくんと頭の位置は下がっている。返事はなかった。
ゆっくりと近づいて、息を整え、キールアはレトの肩を軽く叩いた。
「レト?」
「……んっ……? き、キールア……」
「良かった……気が付いて」
「! あ、アニルは!?」
「ああ、それが……」
言いかけた、ところで。
アニルは不機嫌そうに、歩み寄ってきた。
コキコキと首を鳴らす。アニルは、爪を下げた。
「おいレトヴェール……忘れんなよ」
「……?」
「お前等みたいな貧弱な人間、いつでも殺れるって事」
アニルはそうとだけ言って、体の向きを変えた。
歩き出した方向は、レトを辿ってきた道で。
やけにあっさりと身を引く彼女に、レトはぽかんと腑抜けた表情をしたまま。
おかしい。それだけを思い感じた。
「アニルの奴……何で……」
「え?」
「俺の事なんて、すぐに殺せるはずなのに……そう、しなかった」
「!」
「一体何が……」
一度目は、腕試しにレトヴェール達を襲ったアニル。
ただあまりにも実力差がありすぎて、殺すのも面倒だと彼女はレトを生かしておいた。
デスニーから、レトとロクは殺すなと命令を受けていた、というのもあったらしいが。
二度目は、確実にレトを殺す気でいたが、それを神として目覚めたロクに邪魔をされ。
挙句の果てにロクに返り討ちを食らうという始末で終わってしまったのだ。
然しそのどちらにも、レトやロクに対して手加減というものをしなかった。
それがどうだろう。アニルは三度目である今、レトを意味なく殺さなかった。
デスニーに言われているからではない。彼女自身が、それを止めた。
楽しそうに笑っていた彼女の顔が忘れられない。レトはそう思った。
「何考えてんだ……あいつ」
「なんか、楽しんでるみたいだったもんね」
「ああ……」
レトも、キールアも、そんな不可思議な現象に疑問を抱いたまま。
アニルは言った。すぐに殺せる事を忘れるな、と。
今は生かしておいてやるという事なのだろうか。
あまりに納得のいかないレト。彼は立ち上がった。
「まあ、そんな事考えていてもしょうがないか」
「そうだね。今は、第二覚醒の事を考えていないと」
「おう」
縒れた隊服を翻し、レトは歩き出してた。それに、キールアもついていく。
知らない事は多い。神族についても、自分達についても。
我ながら情けないなあと、悔しさをまた胸に、一歩ずつ。
確実に、前に進む。
「おーい! ……何だ、返事がねェな……おーい!! ————“フェリー”!!」
名前を呼ばれた彼女は、振り返った。
黄緑の髪は相変わらず踵まですっと伸び切っていて、風に揺られて空を舞った。
閉じた右目。無機質な瞳に、笑みを差す。
「どうだった? アニル」
「どうだかなァ……ま、英雄なだけあってちっとはやるようになったんじゃん?」
「そっか……ありがとう」
「やめろよ。相変わらずお前、気色悪いな……」
「『ありがとう』って言われるのが気色悪い? ふふ、やっぱりそうなんだ」
「どういう意味だよ」
「何でもないよ……——さて」
着慣れない黄土色のコートに身を包んで、一息。
彼女は歩き出す。
「おい、何処行くんだよ」
「ちょっとね……アニルは引き続き、よろしく」
「けっ! 自分を殺した奴に言われてもなァ……」
「でも素直に聞いてくれるじゃん、ありがとう」
「だァーっ! 気持ち悪いっつの!!」
「ははっ……んじゃ、またあとでね」
「あ、おい!」
「? 何?」
「お前、何でわざわざこんな事……」
無機質な瞳。歪みを見せない口元。
黄緑の彼女は、フェリーは、目を細めて、微笑みかける。
「だって——————強くなってもらわなきゃ困るからね」
愉しむような笑みだった。
フェリーは、言い捨てて消えた。
アニルはボサボサの髪を掻き上げて、溜息を零す。
何であんな奴に、とまた愚痴は絶えず。
日は落ち、またレト達は小屋へと戻ってきた。
今日も収穫はゼロ。フェアリー・ロックは、それを聞いて笑った。
何故笑うと疑問を抱く英雄の一同に、彼女は一言。
「悩みがあって、それに一心になる姿は、美しいからかしらね」
また訳の分からない事を言葉にしていた。
時間はない。そう言ったのは彼女の方だった。
史上最美の女性とまで謳われた彼女はそのまま寝床へ。
疲れ切った傷だらけの体を動かし、まるでゾンビのようにうろつく4人も同様に。
幾日も幾日も。
次元を頼らない、人間としての強さを振るい続けて日々は過ぎていく。
(さて……彼らはいつ“真実”に辿り着くのかしらね……)
あどけない表情で眠りにつく英雄達を見て、妖精は微笑んだ。
幼い顔を見ると、千年前の事を自然に思い出す。
若い彼らは、一体どこまでやれるのだろう、と。
日が昇り翌日。造られた太陽の光は今日も眩しい。
朝早くから小屋を出ていたレトヴェールは、双斬と2人で森の中へ。
元魔も朝が弱いのかなかなか姿を現さない。立ち止まって、辺りを見渡していた、その時。
妙に嫌な殺気が、彼の心に刺さる。
「————アニル!!?」
爪は伸びた。獣のような瞳、柔軟な体は空を舞う。
瞬間、避けたレトの手元には既に双斬が握られていた。
アニルの楽しむような表情も、もう慣れた。
「反応早いなーっ! 流石……場数踏んできてるな、お前」
「こんな朝早くから何の用だよ」
「まあまあ……折角“担当”になったってのに、つれねえなあ」
「た、担当?」
「そういうこった! ————楽しませてもらうぜっ!!」
長い長い爪は再びレトの視界に広がった。
その筋を知っているレトは容易にそれを交わし、距離を取った。
然し、それも一瞬。既に目前にまで迫っていたアニルの膝がレトの頬を打撃。
弾丸の如く飛んでいく体。木の幹に強く打ち付けられた背中がずるっと落ちた時。
アニルの爪は頭上の幹に突き刺さった。
見上げると同時に、右の剣で空を薙ぐ。刹那、アニルは落ち着いた面持で後方へ跳んだ。
起き上がる。
「くっそ……! 第七次元発動————!!」
ここ数日。全くとして使わなかった次元技。
光輝く剣を、アニルは迷いもせず自身の爪で————薙ぎ払った。
「……!?」
「おいおい、使わないっていう修行じゃなかったのか?」
疾い。直感的に脳に叩きこまれた感覚。
レトは茫然としたまま、アニルはまたにやりと笑っていた。
「あれは元魔相手の話だっての……!!」
「そうか? 神族になら使っていいってそれ……甘いんじゃねーの?」
「!?」
カランと地面を転がる双斬。もう片方のそれは、左手の中でガタガタと震えていた。
目の前にいるのは、嘗て二度も殺されかけた相手、動物の神アニル。
その鋭い爪に幾度体を引き裂かれた事か。人間とはまるで違う力を持つ、神の一族。
ロクと、同じ血を持つ者。
「甘い、だと……っ」
「なあ、レトヴェール……お前何の為に、こんな所まで来やがった」
「……! そ、れは……」
「知る為か? 神がどうして生まれ、人間を憎むのか……知ったんなら帰りゃいいだろ」
「……」
「フェアリーの修行も嫌々かよ? 言われたからやってるんじゃ————幼ぇガキと一緒だ」
まるで幼子を扱うような戦いぶりも、分かっているつもりだった。
神族は人間で遊んでいるようにしか見えないのも。
その先に、どんな想いがあろうとも。
すれ違い続けた人間と神が今、顔を見合わせ会話を成しているのも不思議な光景であった。
「レトヴェール、お前は弱い」
「……っ!?」
「——————そんなんじゃ、フェリーになんか敵いもしねえよ」
ロクと並ぶ為に、神となった彼女と同じ場所に立つ為に。
英雄になる事を選んだレト。
幼い頃にロクが神族だと知ってしまった彼の、昔からの願いも叶えたというのに。
神はいつも嘲笑うばかりだ。
人は、弱い生き物なのだと。