コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.979 )
- 日時: 2014/09/01 16:01
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Va4IJVQE)
第283次元 正解に辿り着け
何度目かの夜明けが訪れた。
創られた朝がぼんやりと景色を覆う中、少年は頬に汗を滲ませ駆ける。
びゅんと、追いついた風が、彼の持つ剣と対峙した。
「遅い遅い! そんなへっぴり腰じゃ面白くねェぞ!!」
鋭い爪。細く柔軟な体は叫んだ。
涼しそうな肌の露出した格好に、ボサボサの髪を一つに縛って高く上げていた。
重たい体。圧し掛かる体重に、少年レトはぐっと力を入れて押し戻す。
今度はレトが先に斬りかかる。
ひょいと避けて、咄嗟に退いて、逆に爪を交わす。
攻防戦は続く。
「……っ、は……ぁ……はあ……っ」
「ったくもう息切れってかァ? これだから人間様はよォ……」
(こ、こんなただの体術勝負が……第二覚醒の修行とは思えねーな……)
昨日。
動物の神アニルから、修行をしてやると言われたレト。
肩に深く爪を食い込ませ、腕もぶらんぶらんしていた為に昨日は丸々休んだのだ。
そして今日、早朝からアニルと次元技なしで戦っている彼には、勿論の事違和感があった。
人族の代表たる彼を抹殺し、神族を優位に立たせるどころか修行に付き合ってくれている。
今までの状況から言って人殺しに長けた神族が、人間の為に力を振るうのは可笑しいと判断。
昨日からずっと悩み耽っている彼を他所に、アニルは楽しそうに爪や腕を振り回す。
無邪気な子供のようにしか見えないその姿に、レトはそんな疑問を抱えている訳で。
「どうしたァ? 来ねェならこっちから殺しにかかんぞオラ」
「えっ? ああ、いや……」
「変な奴だな、お前」
「お前の方が変だろ……一体何企んで——」
「——その答えもお預けってこった!!」
刃で爪を弾く、ただそれの繰り返しだった。
体力に余裕のあるアニルは、今日も軽快に空を舞い、大地を駆け、柔軟に体を使う。
「お前さァ、それで本気か?」
「!」
「次元技なしだと……案外地味だな」
「……何が言いたいんだよ」
「つまりだ! 次元技に頼りすぎねェ、全く新しい“次元の力”が——第二覚醒なんだよ!」
次元技に、頼りすぎない。
つまりは体術や剣術といった根本的な能力の向上を図れ、と。
そういう事なのだろうか。
「そ、それじゃあただ元力が増えるだけなんじゃ……」
「まァ増やした方が確率は上がるけどな」
「?」
「第二ヒントだ。お前ら“元霊持ち”は、他の次元技と比べて第二覚醒がしやすい」
「は?」
「適当に考えろ。答えはそこにあらァ」
言って、一瞬。飛びついて爪が、空に痕を残して滑る。
閃光が走ったかのような鋭さに、レトは身を引いた。
考える時間が欲しい。
率直にそう思って、彼は駆け出した。
「あららァ? なァーんだつまんねェな……追いかけっこでもやんのかァ?」
我らが神と。逃げられない鬼ごっこならぬ神ごっこをしよう。
アニルはまた楽しそうだ。笑って、細い足で地面を蹴る。
(レト! さっきのアニルの話って……っ)
「ああ……多分、お前にヒントがあるんだと思う、けど……!」
(でも僕、第二覚醒した事ないよ!?)
「……くそっ……わけわかんねえ!」
考えろ、考えろ。
レトの脳裏を駆ける言葉が、彼の脳一体を埋め尽くす。
何故元霊にヒントがある。第二覚醒なんて、史上誰もやってこなかったものだ。
何も知らない元霊。千年前の時代を生きた英雄。
今、レトの次元の力として、感情を持つ元力として、レトの中に棲み続けている存在。
「思い出せ……! あの時、確かに俺、何かを感じたはずだ……っ」
(な、何か?)
「なんか、“重なる”、みたいな……」
上手くは言えない感情。
初めての事で、追いついていかない思考。
(それ……——僕も感じたかも)
心で響いた言葉に、レトは思わず足を止めてしまった。
(レト前!!)
「!?」
「——おっせェよ!!」
爪の閃光。鋭い音と確かな金属音。
振り返ったら、アニルがいた。
「……チッ、すばしっこい奴」
「あぶねーな……おい」
「んで? 逃げてる間に分かったかよ? 第二覚醒」
「……ちょっと、な」
「フーン……言ってみろよ」
あっているかは分からない。
ただ、さっきの双斬の言葉が、大きな一手となった気がした。
息を吸う。
「第二覚醒って……本当に次元技の、“その先の力”……か?」
「……」
「お前言ったよな、“全く新しい次元の力”だって」
「まァ……言ったけど?」
「……う、上手くは言えねえんだけど……つまり……」
「次元技が、何らかの理由で形を変えた——それはお前だけの力じゃない」
「!」
「大ヒントだ」
アニルは重ねて言う。
あの時お前は、何て言ったのだと。
答えは、そこにあると。
「あの、時……?」
「そうだ、第二覚醒をした時、お前何て言った?」
「え、と……」
たった数日前の出来事。思い出せる範囲に記憶が置かれている。
必死で、勝とうって、英雄になってやるんだって。
思った事は覚えていた。
「“次元の扉”……————“発動”……?」
アニルの口元が、漸く歪んだ。
「——少し惜しいが、合ってるぜ、それで」
「えっ?」
「ここまで解いたんならもう分かんだろ? ——答えがさ」
いつの間にか、お互い落ち着いた物腰で。
レトの力になるような、そんなアニルの誘導の上。
彼は考える。それはもう、沢山考えて、考えて。
導き出す。
「お前は経験あんだろォが————“新しい次元の力”ってもんによォ!」
アニルの爪が、再び動いた。
対峙する双剣。鬩ぎ合う金属と爪先が、静寂な空間に色を挿す。
レトは、思い出した。
「まさか、それ……って……」
「思い当たる節があんなら、そうなんじゃねェの?」
あの時、確かに自分は言った。
次元の扉、発動と。
然し、答えは少しずれた視点にある。
それは。
「アニル、もう一回だ」
「お? 再チャレンジか?」
「これで間違ってたら、笑っていいよ」
剣が、爪を弾いた。
両者の間にある距離と空間を越えて、今。
少年の声が、未来へ繋がる。
「『俺の事も————信じてくれ』——か?」
残念だけど正解だ。
アニルは、そう言って笑った。
「その言葉は、誰に言った言葉だった?」
「……」
「多分、合ってるぜそれで————やってみるか?」
何度も失敗した。今ではもう恐れているくらいに。
でも、それは少し前までの話。
今の自分は、何だか。あの時の。
絶対負けられない、自信と勇気のある自分に戻っているような気がした。
「いくぞ……——双斬」
体中が、熱を帯びる。
誰かと何度も、重ねてきた心。
自分は良く知っていたのに、何で気付かなかったんだと。
悔しさのあまり——自然に笑みが零れるようだった。
「第二覚醒——————」
「……!」
「——————“双天斬”!!!!」
心が叫ぶ。声が跳ぶ。
弾いた感情と重ねた心が——形と成る。
「……やっとできたか」
真っ赤な紅と銀の刃が、太陽と光る。
「で、きた……のか……?」
「大正解だ……ま、お前にしちゃ、上出来かもなァ」
「すげえ! で、できちまった!」
「……ガキかよ」
「だってこれで——お前らと渡り合えるんだろ!」
上等だ。今度こそ本気で。
お前の相手をしてやる、と。
動物の神と人間の代表は、お互いの力をぶつけ合い始めた。
漸く、一つの駒が進む。
「……んで? それどういう事なのフェリー」
「言った通りだよ。グリンの担当はキールア・シーホリーだって」
「……嫌よ、何で英雄最弱の次元師なんかと」
「最弱? はは、そう言ってられるの、今のうちかもよ」
「どういう事?」
遠くから見える、動物の神様と金髪の少年が戦っている姿。
やっと出来たかと、アニルと同じ事を呟く妖精は今、自然の神と対談中であった。
妖精は楽しそうにまた笑って言う。
「キールアは————“化けたら”あの中で一番強いよ」
確信しているかのような笑みだった。
金髪揺らぐ少女の後姿を、そんなバカなといった顔で、自然の神が目で追った。