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Re: 最強次元師!! ( No.981 )
日時: 2014/09/17 13:14
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Va4IJVQE)

 第284次元 第二覚醒をする為に

 普段からまるで感情を示さない表情が、変わる。
 あり得ない。そんな事。
 だってキールアは、百槍の次元師としては半年も経っていない未熟者。
 然し妖精は語るのだ。下手をしたら、彼女が一番強いのだ、と。

 「冗談はやめて……笑えない」
 「冗談なんかじゃないよ、割と本音」
 「……ふざけてるの? 彼女は、次元師として未熟すぎるわ」
 「戦闘センスは?」
 「は?」
 「まあいいや……グリンが“悪魔”に喰われないよーに、祈ってるよ」

 よいしょっというように、妖精は太い木の枝から軽々と地面へ着地。
 ぽつんと我が身、取り残されたグリンは不機嫌なままで。
 クールな彼女が、ピキッと青筋の浮かんだのを見る間もなく、妖精は消える。

 「……あり得ないわ、絶対」


           *


 「「「————第二覚醒ができたァ!?」」」

 夜。音もない小屋の中で、少年達の声は高らかに響いた。
 フェアリーもコーヒーカップを持ったまま固まってしまう。
 まさか。こんなに早く?
 嬉々とした表情で、英雄達は驚く。

 「ああ……なんとか、アニルのおかげでな」
 「あ、アニルって……神族の!?」
 「ああ」
 「おいおい、まさかお命頂戴ってんじゃ……」
 「ちげーよ。分かんねーけど、手伝ってくれた。ヒントもくれたし」
 「……ヒントだと? 神族が人間に力を貸すとは……裏がありそうだ」
 「俺も最初そう思ったけど……なんか、雰囲気違ったんだよなあ」

 案外良い奴かもしれんと言うレトに対し全力否定をかます一同。
 然し、レトの言い分も理解できない訳ではない。
 あのアニルと会って、それも一戦交えて、身なりはボロボロではあるが生きてここにいる。
 致命的な傷も負っていない。はしゃいで泥んこになった子供のようにも見える。
 不可解な現象に、レト以外の3人も首を傾げてみせた。

 「なんつーか……丸くなってたよ、あいつ」
 「レト、騙されてるんじゃ……っ」
 「だとしてもあいつのおかげで第二覚醒できたんだ。結果オーライだろ」
 「襲われても第二覚醒で対抗できるってか」
 「そういう事」
 「それでそれで? どうやってできたの!? 第二覚醒!」
 「ん〜……多分だけど、キールアは厳しいかもな」
 「へ?」
 「どういう事だよ、レト!」
 「勿体ぶらずに教えたらどうだ」

 ああ、それは。
 アニルの言葉に導かれるようにして、第二覚醒を成功させたレト。
 彼は言う。


 「————“両次元”だよ」


 一同は、言葉を失ったように動かない。
 口元も、体も、思いもよらない言葉に動作を失った。

 「は……? りょ、りょうじげ……」
 「何故、そうだと言い切れる?」
 「アニルが言ってたんだよ、『お前はあの時何て言ったんだ』ってな」
 「あの時って……決定戦の決勝の時?」
 「そう。突然だったから、何の事だか分かんなかったけどな」
 「レト君は、何て答えたの?」
 「『次元の扉発動』って言ったら惜しいって言われたんだ、最初」
 「結局答えは?」
 「……——『俺の事も、信じてくれ』」

 レトは、あの時確かにそう言った。
 それが誰に向かって言った言葉だったのか、言わずともアニルには分かっているような口ぶりだった。

 「その言葉は、さ……確かに、丁度ロクの事を考えてたから、ロクに向かって言ってるみたいだったけど……」
 「ち、違うの?」
 「でも、“誰かと心を重ねているような”、まるで……——“両次元”を開いてるみたいな感覚がした」
 「!」
 「それが、懐かしさは感じなかった。ロクと両次元を開いたような感覚もしなかった」
 「じゃあ……だ、誰と?」

 それが、この第二覚醒の大きな秘密であり、大切な鍵となる証。

 「『俺の事も信じてくれ』————あの言葉は、紛れもなく“双斬”に言った言葉だったんだよ」
 「「「「!?」」」」

 双斬が、教えてくれた事。
 剣術、双剣である意味、戦う意味。
 君は君自身に負けてしまうのと、震えた声もまだ覚えている。
 背中を押してもらってここまで来た。自分を信じて、ついてきてくれた。
 千年前の、憧れの大英雄。

 「じゃあ……もしかして……」
 「ああ、俺——————双斬と、両次元を開いたんだ」

 レトの心の中に棲む英雄は、顔も出さずそこでじっとしていた。
 心と心が重なり合う瞬間。溶け合って、認め合って、信じあった証。
 それが正に、“双天斬”という剣に形を変えた。
 一人じゃダメだった。元霊持ちである彼だからこそ、誰よりも早くできた。
 そして、双斬に、小さな英雄に、後押ししてもらったから。
 全てを委ね合える、相棒がいてくれたから。
 レトはそう語る。

 「双斬にも次元を使う力がある。現に俺、あの日双斬に一瞬貸してたし」
 「元力を?」
 「うん……フェアリーさんの修行も、多分次元と次元師の距離を縮める為だと思うんだけど……」
 「え!?」
 「次元と、次元師の距離を……縮める?」
 「……よく、気が付いたわね」
 「第二覚醒が出来た時に、気付いたんだよ」

 本来、次元師と次元の力には距離がある。
 その間に流れているのが、元力。
 元力の使用を経由する事で、次元の力が使える仕組みになっているのは知っているだろう。
 それが今回のように、“元力が全く使えない状態”にあったら?
 自力で、己が信じる精神のみで、次元の力と向き合うしかない。
 つまりはレトで言う、双斬という個体と向き合う事。
 剣術を磨き、体力の向上を図り、元力も上げると共に次元の力との距離を縮める。
 より圧縮された関係下、元力は密度の濃いものとなって技の強度も威力も増す。
 フェアリーが英雄達に諭したかったのは、実はこういう事だったのだ。

 「上出来だわ。流石はメモラの……」
 「え?」
 「……! あ、ああ、ごめんなさい……何でもないわ」
 「?」
 「じゃあさ! 俺だったら、炎皇と両次元できりゃいいってか!?」
 「そうなるな。俺達みたいな元霊持ちは、次元の力に感情が宿ってるからやりやすいと思うけど……」
 「困ったなあ……私だけ、両次元やった事ないから……感覚とか全然分かんないや」
 「大丈夫だって。心配すんなっ」
 「う、うん……」
 「然し、大収穫だな……レト、俺達もすぐに追いついてみせる」
 「おう。あんま焦んなよ?」

 千年。人類が次元の力をその身に宿してから、随分と時間が経った今日。
 一人の少年が、次元師の時代を変えた。
 次元師は強くなれる。思えば思うほど、溢れてくるように、加速する力。
 母なる神に託された、世界を揺るがす程の想いで、一体どれほど人間は強くなれる。
 心の神は、確かに一歩ずつ、進み続ける英雄を見て思うのだ。
 彼らなら、きっと。
 この因縁を、千年間の闘いを、終わらせてくれる。

 「……」
 「……どうしました? フェアリーさん」
 「え?」
 「浮かない顔ですね……具合でも悪いんですか?」
 「大丈夫よ。心配しないで」

 昨晩。出会った妖精の、瞳の強さを、体が覚えていた。
 彼女は何を考えている。神族を動かして、我々を助けるような真似までしているようで。
 自分と同じ神様であるのに、全く違う生き物に見えた。
 自分と同じ想いであった、はずなのに。
 突き止めなくては。彼女は、焦る鼓動を隠した。

 「さあ皆、もう寝ましょう。レト君以外の3人は、明日からまた頑張らないと」
 「へーい」
 「頑張りますっ」
 「……精進せんとな」
 「あ、俺また明日アニルと修行するんだった」
 「え?」
 「大丈夫なの? レト」
 「修行に付き合ってくれてんだ、死線彷徨うようなやつだけど」
 「危ねーじゃん!」
 「……」
 「大丈夫だって」

 不安だけを残した月明かりが、湖を照らし出す
 幾日も幾日も、単純に世界は、廻っていく。
 少しずつ確実に戦争の日へと近づいていくのが、恐ろしくて堪らない。
 月光差す水面は揺らぐ。薄暗い景色は、満点の星空の下、広がっていった。