コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.983 )
- 日時: 2014/09/27 23:07
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)
第286次元 強くなりたい
「第四次元発動————戯旋風!!」
旋回する槍が、太い木の幹無残に裂き落とす。
銀が輝くと、応えるように地面が割れ、再び。
大地から溢れる——“自然”の力。
「ったく……——何なのよっ!」
“今日中に第二覚醒をする事”。
条件をクリアできなければ死が待っているというグリンの言葉を思い出した。
当の本人は、蠢く木の上でしれっとした顔。
両次元もロクにした事のないキールアにとって、あまりに酷い条件ではないだろうか。
今日中に、なんて。半ば諦めている彼女に余裕は与えない。
大地を這う木の根を、突いて砕く。
(キールア! 右から来るわっ!)
「うん!!」
百槍と出会ったも、ほんの少し前の事。
まさかずっと自分の中に英雄がいるとも知らずに過ごした、医者としての彼女は。
今、正に英雄として。矛先は空を駆け大地を砕く。
(百槍の事、考えないと……心の底から、信頼して、それで————)
(——!? キールア前を見て!!)
「!?」
僅かに動けず、金髪の少女は。
木の根が大きく跳ねると同時に、遠い空へ跳んだ。
手離した銀槍と、距離が開く。
「う、ぐ……っ」
「余計な事考えていると、すぐに命を落とす」
「——うあああっ!?」
一本の厚く太い根が、キールアの体に巻き付く。
締め上げるように、縄で縛るように、そのまま空へ出た少女は。
痛みと苦しみの入り混じった顔で、眩んだ視界の隅に槍を見た。
「びゃ、く……そうっ……」
「女特有の、細い体ね……へし折っても良いの」
「百、槍……!」
「……貴方は“次元”を——まるで分かってない」
「!」
「キャリアが浅いのは分かってる。でもそれは、甘えて良い理由には——ならない」
決定戦から見ていた。慰楽を失い、次元師ではなくなったキールアは。
戦闘中に、新たな力を手に入れた。
百槍を使う次元師としては赤子に等しい彼女は、そんな事実もひっくり返す程、強く凛々しく。
まるで遥か昔からその使い方を知っているみたいに。
正直、上手ではないが、強い。
然し見ていると、どうやら百槍という英雄に助言を貰っている場面が多いと分かった。
百槍に引っ張られている。幼い力を早く焚き起こす為だとは分かっていても。
それは、次元師ではない。
「次元師が、次元の力に導かれてどうするの。泣きついて頼っても……意味はない」
「う……っ、そ、んな……の……!」
「貴方が導くの。次元の力も、仲間の意思も————“英雄”になったのなら」
青ざめていく全身が、意識を奪おうとする。痛くて、苦しくて。
それでも、目だけはしっかりと、神を見ていた。
自然の神は笑わない。真剣な眼差しが刃物みたいに突き刺さって抜けない。
「————まだ、死にたくないでしょう?」
締め付けられた体が、記憶が。
少女に、思い出させる。
紅い景色も、凍り切ったあの目も。
キールアは、笑った。
「……私、は……」
「……?」
「もう……“一度”————死んでるよ」
あの時、自分を棄てた。
拾う事もない。取り戻す事も。
悪魔だと恐れられ、たったそれだけの為に。
失った、家族と共に。
「何を言うかと思えば……」
「……ち、からが……欲しい……」
「……」
「強、く……——なりたい!」
「……そう……——じゃあ」
小さな指を、ゆっくり持ち上げて。
自然の神は紡ぐ。
「もう一回————死んでみる?」
痛みを、感じなかった。
たったの一瞬、駆ける音が————漸く。
「う……わあああ——!!?」
————脇腹を、喰い殺した。
(キールア——!?)
するすると木の根は解ける。
思い切り叩きつけられた、体が、地面とくっついたまま離れない。
どくどく溢れるは、赤くて心地の悪い、色で。
真っ黒く見える。まるで、絶望みたいな色彩が語る。
体中を駆け巡る、凄まじい程の痛み。
「がはッ……い、つぅ……っ!!」
「痛いでしょう、苦しいでしょう。さあ、どうするの英雄」
「……う、ァ……ッ」
痛い。頗る痛い。刃物でぐりぐりと傷口を抉られるような、えげつない痛みは。
苦しさを連れてくる。次いで、思考能力を、持っていく。
口からごぽりと吐き出した深紅の塊で、何も言えなくなった。
「————キールア!」
そんな、彼女の耳に。刺さった声で、我を取り戻す。
幼い頃からずっとずっと、優しくて強い、頼りになるその声に。
一度だって、忘れた事もない。
自分にとっても——“英雄”の声。
「れ……と、……っ」
「どうしたんだよお前!? すっげえ傷……元魔にやられたのか!?」
「ち、が……」
「……? ——!?」
レトヴェールは振り向いた。
遥か高見から、冷めた表情で見物する小さな体は。
緑色に輝いて、彼は思い出す。
「グリン……! ——てめえ!!」
アニルに引き続き自分を襲った、自然の神を。
忘れる訳がないと、レトの表情は厳しいものへと変わった。
「久しぶり、か……レトヴェール・エポール」
「てめえ何でこんな事しやがった!!」
「……命令よ、“とある神”からの」
「……は?」
「知る由はない。さあ、どいてレトヴェール」
「どかねえよ!! てめえは俺が————」
「————てめェの相手は、この“アニル様”だろ?」
轟音。響いた激しい音に、咄嗟にレトはキールアを庇うように抱き寄せた。
出血は止まらず、息の荒さも深まっていく。汗が、傷口に流れ込んで痛い。
そんな2人の目の前に現れた“動物の神”————アニルがにやりと、笑う。
「……アニル」
「よォグリン! てめェヌルい修行してんなー」
「一応、急所は狙ったつもりだけど」
「そーかよ……おいレトヴェール!」
「!」
「別の奴にちょっかい出す暇があんなら……遊んでくれよなァ?」
「ああ————上等だ!!」
光る、手元が。
キールアには、あまりにも。眩しく見えて。
これが、強さの差なんだろうと。
思って、見えた。
「“第二覚醒”——————!!」
今、英雄は————形を変える。
「——————“双天斬”!!!!」
紅く紅く、染め上がる刃が、燃えるみたいに。
キールアの視界に、深く深く、突き刺さった。
「これ、が……っ」
「……第二覚醒、初めて見た」
「へっへー!! そうじゃなくちゃなァ————面白くねェ!!」
「……キールア、早く行け」
「……っ」
「そんな重症じゃ、戦うのは無理だ……だから——」
「——逃げないよ、私」
キールアは、駆け出した。
転がっていた百槍を、掴んで地面に。突き刺さった力を——呼び覚ます。
「第六次元発動————傷消止血!!」
キールアの体全体を包むように現れた“泡”。
薄く膜を張ったそれは徐々に、ゆっくりと、キールアの傷口を治し始めた。
痛みこそ消えない次元技だが、今はこれに頼る以外にない。
多少残った傷痕は、完全に血の流れを止めてみせる。
「ヒュー! すっげェーな、その技!!」
「き、キールア……!」
「ごめん、レト……私、もう大丈夫だから」
「大丈夫なわけねえだろ! フラフラじゃねーか!!」
「私……まだ戦えるよ!」
「それで死んだら元も子もないだろ! 文句言ってねえで早く————っ!」
キールアの目は、それを見逃さなかった。
時折見せる、信じられない程の観察眼。
彼女は、レトの肩を掴んで——跳んだ。
「——!?」
そして、彼の背後に回っていた————“木の根”を薙ぎ払う。
「……気づかれてた」
キールアは、レトの背に自分の背を、預けるみたいに。
お互いの温度は、微かに震えたまま、そこを動かなかった。
「私……大丈夫だから」
「キールア……で、でも……」
「お願い——邪魔、しないで」
知らない声だった。確かにそれは、キールアのものであった筈なのに。
良く見えない顔は、どんな風になっているのか。
冷え切った声に応えるように、レトは。
真っ赤になった双斬を強く握って、キールアから離れる。
「分かった……でも」
「……」
「無理はすんな。お前は俺が————絶対、護ってやるから」
キールアに、その時。
まるで人間の感情を、取り戻すかのように。すっと流れ込んできた。
その言葉に、うん、って。
答えるキールアは、再び前を向く。
「グリン——待たせたね」
「遅い。殺したくなる程遅い」
「……ははっ……————いくよ!!」
金の瞳が、もう一度。
力強さを————取り戻す。