コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.988 )
- 日時: 2014/11/30 01:05
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: フライング更新!(※作者は期末試験中)
第291次元 創造世界へ
「なあ炎皇—第二覚醒ってどうやってやんだよー」
(いちいち俺に聞くなよ……その質問何度目だー?)
「出来そうで出来ないよなあ……ちくしょー!」
相変わらず白いバンダナを頭に巻いて、ぴょこんと覗く紅い毛は目立つ。
周りが緑や蒼といった自然に囲まれているせいだろう。
この広い有次元の世界で、サボコロ・ミクシーは雄叫びをあげた。
「お! 元魔はっけーん!!」
(ちょサボコロ無暗につっ……)
「第一次元発動————炎撃ィ!!」
心の声を掻き消して炎は唸る。薙ぎ倒されていく自然の先で、元魔は炎に包まれた。
最弱の一次元級といえどその威力は、元魔程の巨体を地面に倒し伏せるくらいに。
「うっしゃあ!!」
(ほどほどにな……、——!? サボコロ前見ろ!!)
元魔の太くて大きい腕が、サボコロを潰すように空を覆う。
——刹那。
「——ッ!!?」
怪物の体は、無残に引き千切れ空を斬る。
細い一閃は空を駆け、その一瞬。
元魔の巨体が横にブレ伸びる景色だけが目にはっきりと映った。
「……全く貴様は、命を落としたいのか阿呆」
「へいへいそりゃ悪うございましたー」
エン・ターケルド。弓術に長けた彼は、大樹の枝の上、器用に幹を掴んで立ちサボコロを見下ろして言う。
相変わらずの涼しい顔を落として、エンは軽々と地面へ着地。
「それでどうだ、第二覚醒の方は」
「さっぱりだ! 正直キールアがどうやって第二覚醒したんだかも……」
「フェアリーの言う事にまず、間違いはないだろうな。キールアに一体何故……」
「ああー! 考えたって分かんねえ!!」
「我武者羅な実践に、これ以上意味はないようにも————」
ザッ、と。それは足を揃える音。土を削って奏でられるその音は、あまりに小さく。
元魔ではないと確信した二人は、振り返る。
「「——!!?」」
それは、想像もしていなかった光景。
「はは! そんな驚くなよ————まあお前らは初めましてだけどなあ?」
明るい色のサングラス。頭を覆う、大きめのヘッドホンを静かに首に掛ける、彼。
チャラチャラと笑う緩んだ顔は、確かにエンとサボコロの両者を見据えていて。
この世界に人間はいない。そしてレトヴェールは、アニルという動物の神に出くわしている。
つまり。
「お、お前……!」
「お? 俺の事知ってんのか意外だわー」
「“世界の神”——————“ワルド”だろう?」
嘗て、レトとロクの義兄妹が街中で遭遇し、初めて二人が倒した神族。
それが世界の神【WOLD】——今正に目の前で飄々と立つ彼は、世界情勢を監視する神様の一人。
一見人間臭い外見で、ゴッドや他の神族と一緒にいるよりは一人で放浪としている印象が強い彼。
ワルドはヒューと一つ口笛を鳴らす。
「アニルはレトヴェールに、グリンはキールアに……んで、次がお前らって事よ」
「!? き、キールアとグリンが!?」
「貴様、レトの話を聞いていなかったのか……キールアがグリンと戦り合っていたと」
「瀕死状態らしいなあ? だいじょぶか?」
「てめえらに心配される筋合いなんかねえよ!! 神族は引っ込んでろってんだ!!」
「……生憎、下衆と語り合う口は持ち合わせていない」
「厳しいねえー! 流石は“英雄様”方だ……ま、昔に比べりゃ変わったんでねーの?」
「皮肉込めて言いやがって……やいやい! 俺達に何の用だってんだよ!!」
「分かんねーの? ————“修行”だよ」
アニルは、レトに修行に付き合ってやると言った。第二覚醒を完成させた、今でも。
キールアはまだ目を覚まさないが、彼女も起きたらグリンとの修行を望むだろう。
つまり、神族と。戦う事によって“第二覚醒”を得ているという事実は、覆らない。
神族が人を、それも人族・次元師代表たる彼らに修行をつける、その意味を、
「しゅ、修行って……!」
「貴様らの目的は何だ? 俺達にそんな事をして、貴様らに何の得がある!」
「怖い顔すんなよ“英雄”……好意は素直に受け取るもんだぜ?」
「いまいち信用ならねーんだよ!! だってお前ら神族だろ!?」
「ああ、神族さ……この世を統べる為に、俺達は存在する」
「その“統べる事”の本当の意味が……人を制圧する事であろう?」
「おっと……そこから先は“立ち入り禁止”だ————もし、どうしても知りてえんなら」
——突如、揺れる大地。
「「!!?」」
驚きを隠せない二人は、空に真っ直ぐ手を伸ばしたワルドに目を向ける。
揺れたままの景色と、歪んだ彼の顔は今も尚笑っているように見えて。
最後に、聞こえたのは。
「俺の創った“世界”で——————“真実”を見つけだしてみろ!!」
サングラスの奥に潜んだ鋭い目が——今、世界を反転させる。
「「うわああああ!!」」
歪んだ景色、見えた先に、笑う神はいた。
恐ろしい程の笑みを孕んだその顔が見えたのも一瞬。
二人は、何処までも堕ちてゆく。
「……ふう」
完全に英雄が見えなくなり、ワルドはたった一人で、その場に立ち尽くす。
胸ポケットからタバコを取り出し、慣れた手つきでそれに火を灯した、次の瞬間。
感嘆の声を漏らして、少女は長い髪と共に姿を現した。
「やってるやってる」
「……早速のお出ましかよ、【FERRY】」
「どう? 二人とも」
「ま、初対面だから色々気になるところだが……お手並み拝見さ」
「決勝戦、見てたと思うけど……レトヴェールやキールアに、負けず劣らず、強いよ」
「“元仲間”ってのは、贔屓目に見えちまうもんなのか?」
「いや? ……ただ」
「あ?」
「……強くならなかったら、“処分”しても良いよ」
「はっ……——承知の上だ」
踵を返し、歌い奏でるように去る、妖精の。
気丈なまでに美しい後姿を、ワルドは見ていた。
(“処分しても良い”……か)
風と共に消えた彼女に、届かないようにふっと。
笑った。彼は、サングラスの奥の目を一瞬、瞬かせて。
(————大層な自信、だな)
彼の言葉は、誰にも届かずに消えた。
(ん……っ)
薄く開けた視界が霞んで、良く見えない。
寝ていたのか、それも随分と。
然し頭を打ってしまったのか後頭部は痛みを覚え、その反動で彼。
サボコロは、むくっと起き上がった。
「いってて……ここ、何処だ?」
見回すと、そこは元の場所とは違うようだった。
ただ景色は違わない。木々は立ち並び、低い草木が足元で揺れているのも分かる。
唯一、違うのは。
(気味が悪ぃな……————何で“夜”になってんだ?)
それも、酷く気持ちの悪い夜だった。
淡い緑の、深い蒼も交えていた筈の木々達は、“赤紫色”で。
良く見えないがどの木の幹も、見事な“漆黒”を飾っているよう。
元の場所だ。景色自体は変わらず、その色彩は酷い程に歪んでいる。
ここは、一体何処なのだろうと。
「おい炎皇、ここ、どうやら元の世界じゃねーみた……」
突然の、違和感。
何故だか、心にぽっかりと穴が開いているような、不思議な感覚が襲う。
思わずぎゅっと心臓の辺りを掴むサボコロは、再び問いかける。
「……? おい、炎皇?」
何度名前を呼んでも返事はない。それに加え、妙な心の空洞。
まさか、と核心に近づいた、次の瞬間。
「……サボコロ?」
草を踏み分けたような音。木の幹に手をついて、“少年”は現れた。
振り返るサボコロは、言葉を失う。
「……!?」
「やっぱりサボコロだ! 探したんだぜ、サボコロー!!」
声も知ってる。然し知っている声より、少し低い。
そしてその顔にも見覚えがある。然し知っている顔より、少し大人びていた。
赤茶の髪は無造作に跳ね、ぎゅうっとサボコロに抱き付く、少年は。
「え、炎皇————!?」
精霊ではない、炎皇の“本来の姿”が。
そこにあった。サボコロは目を見開いて、体は固まったまま。
喜びを表現する等身大の炎皇の、明るい声だけが闇夜を照らす。
(ど、どうなってんだよ……!!)